第18話 魔王と探索者④
一夜明け、焚火の後処理と寝床の後始末を手早く済ませる。
探索者達は青年の案内の元、洞窟までの雑多な道へと案内された。
存外そこまでの道は近い。
「あったっすね」
「僕らが来た道の方向まで伸びているように見える。どうやら僕たちはずっとこの道の横を進んでいたようだ」
「運がないっすねー。この道を見つけてればもう少し早く進めたっす」
「まったくだ」
そんなラブとミルを尻目に、そのことには興味がないのか一人、ガレットが青年に近づく。
「それよりも傷の具合はどう?」
青年は痛みもない傷を忘れていたのか、腕を少し上げ傷口を確認。
「痛みもない。問題ないな」
ガレットはその腕をじっと眺めた後に、手を伸ばしてきてはさすさすと撫でる。
「そう。あなたは体質的に怪我の治りが早い方なのかしら。回復系はあまり得意ではないから、ここまできれいに治ることはないのだけど」
傷の確認だろうと青年は専門家にせ身を任せる中で、ぽかんと眺めている二人の姿に気が付いた。
「どうかしたのか?」
昨晩からの変わりように二人は目を見合わせる。
「あ、なんでもないっす」
「あ、ああ。治ったのならなによりだ」
その後もひそひそと話し合いをする二人に、ガレットも気が付いたようで、
「な、なによ」
どこか顔を赤めていた。
「春うらら~♪」
「仲が深まったのならなによりだ」
「ち、ちがっ――これは助けてもらったからであって――」
「探索者の結婚率って低いらしいっすからね~。騎士団も言わずがなっすけど」
「それは知らなかったな。よかったじゃないか、出会いはいつだって唐突だ。な、ガレット」
どこまでが冗談なのか、それがガレットへのからかいだと気が付いていた青年は少し離れた位置まで移動した。
別にからかわれることに巻き込まれるのを回避するための行動ではない。
からかうのであれば、相手を見極め、境界線を見誤らない事だ。
二人に向けられたガレットの掌が業炎の炎によって真っ赤に燃え上がる。
「ちょ、ちょちょ冗談っすから!」
「なぜ、僕らの魔法を向けるんだ!」
ある意味でからかっていなかったラブの方が、質が悪い。
「骨まで残らないと思いなさい!」
「本気っす! ガレットが本気っすよ!」
「分からない! なぜなんだ⁉」
「いやっ、それはそれでやばいっす!」
探索者のドタバタ騒ぎの早朝からの出来事だった。
アフロ化した二人の探索者を引き連れ、探索は始まった。
「それにしても、この道どこまで続いてるっすかね」
しばらく歩いた後、ミルが唐突にそんな疑問を投げかける。
「そうね、確かに、こんな道があるなんて聞いたことがないわ」
「推測だが、途中で途切れているんじゃないか。調べるのにも帰りは道を辿ってみるのもいい」
その会話に青年は加わらない。
なぜなら、この道の正体を知っている。
この道はバナがランの移動用に急遽拵えたもの。
いずれくる侵入者たちの動向をいち早く察知するための動線。
レスノイと人族との関わりを知らないまでも、下手に勘繰られるのも面倒だった。
だから、話の内容には加わらないように、話題には加わって見せる。
「あまり森の事は詳しくないのか?」
青年の問にラブが顎に手をやる。
「質問を質問で返すことになってしまうが、君はどこまでこの森の事を知っている?」
「ほとんど知らないな。村は森には近かったが、入っても精々近場までで、奥深くまで入るようなことはしなかった」
「なるほど。だとすれば人族(僕ら)も大差ないだろう。ここの森、正式には【鎮守の杜】と呼ばれているんだが、収めているのは精霊レスノイだ。人族とは友好な間柄で、森の恵みをいただく他に獣の狩りなどもさせてもらっている。そして、そこまでで、森を荒らすような真似や、森を調査するような事もしていない」
純粋な疑問が青年の中に生まれる。
「それはなぜ?」
荒らすのは論外としても調査はしていいものだと思ったからだ。
「我々からすれば森の後方、何があるか知っているか?」
それは知識としての質問だったのだろう。
しかし、青年にはわからない。
「いや」
「海っすよ。森の大半を隣接しているのは広大な海っす」
作り話の村出身者には常識的に知っている知識すらないと認識して、ミルが適当に答える。
「そうだ。だから、森の奥まで調べる必要がないというのが一つ。それに加えて、国で管理できないほどに、この森は広大なんだ」
だから、レスノイと敵対してまで調べないという事なのだろう。
「一番近い街からしても、って、私達がきた街ね。脅威は森の中にあってもその外からはこないからね。だとしたら、わざわざ恵みを捨ててまで、虎の尾を踏んだりしないのよ」
青年は少し考え、
「海から渡ってくる者を考えないのは、昨日の魔獣を視野に入れてか? それに、現状は当てはまらないのか?」
「現状? ああ、【魔王】の調査の事ね。それは条約があるからよ」
「条約?」
「ええ、もう古い話になるけど、やっぱり人って強欲なのよ。古くはここの森を支配下に置こうとした時期があってね。争いの末、レスノイ、というよりもここの森かしら。一切の手を出さない代わりに恵みを分け与えてって条約」
「それに加えて、森が危機に瀕した場合、またはその可能性がある場合、手を貸すというものだ」
「それが今回?」
「危機があるのかわからない以上、調べないとっすからね」
どことなく、青年は違和感を覚える。
青年は条約だけの話を聞けば、友好関係が築けているように思えた。
だが、バナとの会話から嫌悪の色が見えても友好的な態度ではない。
加えて、条約を元にするならば、探索者の行動は遅く、規模が小さいように見える。
「貴方なら気づくわよね。そうお察しの通り、友好そうに見えてもレスノイは人族を嫌っているのよ」
「僕らが言うのもなんだが、人族の一部にはこの森に密猟や怪しげな実験の為に侵入するものが後を絶たない」
「なるほど」と青年は色々と納得した。
同じ人族としての後ろ目たさもあったのだろう。
口数が少なくなり、しばらく黙々とただ歩く事が続いた。
そうしてしばらくすると、再び何かに気が付いたミルが最初に口を開く。
「そういえば運がなかったっすね」
それは青年に向けられた言葉だった。
「何が?」
「だって、この道を見つけて、二択を間違えたって事っすよね」
「いや違うだろ」
「そうよ。元々村の住人の為にあの魔法陣の位置を目指してたなら、選ぶ道は一つじゃない」
「あ、そっすね。魔法陣の方へ行けばいいっすね……。申し訳ないっす、間違えたっす。…………あれ?」
何か気づくことがあったのか、答えに辿り着けそうで辿り着けない。
そんな表情でミルが考え事を始める。
青年はその姿に、危機感を覚える。
ミルの言っていることは正しい。
森の中で迷い、人里を目指しているのならば、二択を間違えている。
しかし、目的を済ませ、帰っている最中ならば、帰り道は一本道になる。
だとしたら、青年は探索者達であるラブ、ミル、ガレット達と道中を共にする理由が無くなる。
だから、先手を打った。
「俺にとっての帰り道は、あんたたちが来た街じゃないからな」
そう、これで迷い人は完成する。
街と村の方向が違っていれば、道は街と洞窟を繋いでいるだけ、架空の村には帰れないことが成立する。
「なるほど、そっすね……」
ミルは納得するような言動はしているものの、全部を納得出来た様子は見せない。
「馬鹿ね」
「ひどっいっす……」
おそらく、勘の類。
青年はそれを甘く見ない。
なぜなら、その勘とやらに掛けるユキや、ブンという仲間がいる。
予想外の判断は不確定の不安材料になる。
なにより、それ以上不確定な材料を穴埋めしようと誤魔化しの言動を行えば、返って墓穴を掘りかねない。どうしようもなく、手を出しにくい能力だった。
そうした予想外は、計算高く、知恵者の青年の障害になる。
その一つとして、道を見つけてからの移動は探索者にとって目的地への速度を早まらせていた。
つまり、予定よりも早く辿り着いたのだ。
――魔王が住む洞窟へと。
そして、さらなる予想外。
「ちょっと、待ちなさいよ……これって」
「まさか、これは考えていなかった……」
「まさかのっすね……」
三者三様の反応を見せ、洞窟を前に立ち尽くす探索者。
さして奇しくも同じ言葉が発せられる。
「「「――ダンジョン⁉」」」
魔王の住処がダンジョンとういう事で、行われる探索者の行動が考えていたものと大きく違いを見せるのだった。
次話17時up予定




