第17話 魔王と計画①
「――潜入⁉」
魔王である青年の提案という名の作戦は、あまりに突飛で危険が伴うものだった。
「それは余りに危険です。了承しかねます」
ゼンとランの否定的な意見に予想通りだと青年は説明する。
「探索者はどの道このダンジョン内に入ってくるだろう。だとしたら、その前にできる限りの対策を行った方がいい」
青年の事は信用している。
しているが、その意図までは読み切れない様子でパインが尋ねる。
「それって……探索者の中に潜入して、このダンジョンの中に入れないようにするってこと?」
マスカも同じ事を思ったのかパインの質問に同意しつつも、それだと青年の言った言葉が嚙み合ってこない事に思慮は続いている。
「説得? 隠れる?」
ブンが短いながらも魔王の作戦の意図を皆と同じ解釈で口にする。
「いや、仮に探索者達をうまく誤魔化し、追い返す、もしくは騙し返せたとしても次がやってくる」
「……でも、でも、それを含めて嘘を吐けばやってこなくなるんじゃ……?」
その為の作戦ではないのかとマスカがおずおずと確認をしてきた。
「大前提として探索者はこのダンジョンの中に侵入させる。仮に、入る前に撃退出来たとしても、それは次の探索者を呼ぶことになる。そして、それは侵入させても同じことだ」
「なるほど……」
「うん」
「……確かに」
「……あ、」
そこまで言われれば理解する四人に対し一人分からないとパインが詰め寄ってきた。
「どういう事⁉」
「ここがダンジョンで、探索者の本分にダンジョン攻略が存在している」
そこまでいわれればパインも理解した。
「魔王の討伐じゃなく、ダンジョン攻略の為に来るようになるってことかー。ん? あれ?」
そこで、パインが違和感に気が付いた。
「ねぇ、魔王、それってどのみち同じなんじゃ……」
そう、それでは撃退も誤魔化しも意味をなしていない。
「確かに、探索者も追い返そうが、撃退しようが変わらない」
そのあと魔王である青年が続けた言葉に誰もが言葉をなくした。
「だから――」
「無謀すぎる……」
「本来であれば考える選択しにも入らないが……」
「正直、怖いよ……」
「…………」
突拍子もない作戦に、誰もが不可能だと感じる。
なにより提案している青年ですら無謀は承知、それでいて成果もさほど大きいとは思ってもいない。
「……それでもやるしかない」
未来を考えるならば――。
そう続けられた言葉に、最後まで黙っていたブンが準備に入った。
「力持ち」
「ブン?」
「オラにできること」
「そうか」
青年はブンの言葉を受け取り、静かに待った。
ブンの言葉は少ない。
「やることをやる」
少ないけれど、その意味はしっかりと伝わる。
「うむ。そうだな」
「……承知した」
この地で生きる事を決意し、覚悟していた三人の切り替えは早い。
それは魔王の配下としての忠誠とも言えた。
「うん……」
「…………」
だが、魔族である二人の少女は違う。
平和で平穏な生活を求めていた二人にとっては、これから立ち向かわなければならない相手は、今までを奪ってきた人族。
その人族に怯え、【魔王】に希望を見出してきた二人にとっては簡単なことではない。
数日とはいえ、この平穏な日々が壊されることを想像し、出会った頃見せていたのは虚勢だったのだろう。
より、強く虚勢を張っていたパインはよりその色が濃く見える。
青年は二人の頭に優しく手を置いた。
「――っ⁉」
「――っ⁉」
二人の体がびくっと怯えたように跳ねる。
しかし、投げかけられた言葉は優しいものだ。
「逃げたっていい」
代替の提案。
究極系、ランの情報によると探索者達は【魔王】討伐の為にこのダンジョンに向かってきているわけではない。
あくまで、調査。
だとしたら、このダンジョンを捨て、新たな地へ向かう事も可能ではある。
しかし、それでは、
「……っ⁉」
パインの手をマスカが強く握った。
「マスカ……?」
パインは驚いていた。
マスカは下唇を噛みしめ、震える手を必死に抑え、前を向いた。
「わ、私にできるのはっ! 【幻惑】と【幻影】を作り出す事です⁉ パインちゃんは、闇系魔法が得意でっ、【暗黒】や【暗霧】が使用できますっ!」
必死に、それでいて自分たちが出来る事、そして立ち向かう事を宣言した。
その姿にパインの瞳に強い意志が戻る。
「ありがとう、マスカ……。――っ!」
握られていた手を強く握り返す。
「魔王っ! 必ず勝つよ。ここが私たちの家だ!」
その発せられた言葉に、ゼン、ラン、ブンにも強い意志と覚悟が増幅され、笑みを作らせる。
それは魔王である青年も同じだった。
「任せろ」
そう発せられた言葉に、曇りはない。
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