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魔王と平穏な日常を  作者: ダルマ787
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第16話 魔王と魔獣

見張り役の交代にラブが起きてきた。


「そろそろ交代する」


「ええ」


最初の見張りをガレットに任せ、次点でラブの順番だった。


しかし、すぐに動かないガレットにラブは寝ている青年の方向に視線を送る。


「疑いは晴れないか?」


ガレットは焚火に枝を放り投げた。


「疑いね……」


あの瞬間は本気で【魔王】の手の者だと疑わなかった。


しかし、魔力がない存在を疑いにくくなっているのも事実。

では、仮定の話の中でも怪しい存在だと考える事は出来る。

しかし、例え話の魔術研究にしても、魔力がないのであればそれも難しい。


「ラブはどう見てる?」


珍しく意見を求めてくるガレットに、腰を下ろすラブもただのお人よしではない。

間違いなくラブも疑ってはいた。


だが、ガレットと同様、疑わしい点が話せば話すほど薄れていくのも感じていた。

あの青年は賢く優しい気持ちを持っていたから、村の住人の為にここへきている。

そう考える方が今となっては信じたい。


「訊くだけ私がバカだったわね」


結局ラブという人間はそういう人間だ。

疑う事よりも信じる事を優先する。

時には自身より他人を優先し、立場を見境なく放り出したからこそ、探索者になっている。


「たまには疑ってみるのをやめてみるかい?」


ガレットは笑みを零す。


「馬鹿ね。魔術師は疑って疑って、魔法を変化させていくのよ」


「愚問だったね」


ガレットが立ち上がり背伸びをする。


「そろそろ休むわね」


「ああ、そうしてくれ」


ひと時の穏やかな空気に、少しは気が紛れたのかガレットは就寝へと向かう。


その刹那、空気が一変する。


「――っ⁉」

「――っ⁉」


青年の時とは違う殺気がどこからともなく溢れ出る。


いつから身を潜めていたのか、闇に隠れその瞬間を狙っていた。


「ガレットっ⁉」


一瞬の油断。


獲物を一刺しにできる大きな牙を持った魔獣が、草むらからガレット目指して飛び出してきた。


数メートルある身の丈を四足の足で蹴り上げる速度に、反応は出来ても対応が間に合わない。


ラブが剣を抜くことも、ガレットが魔法を唱える事も、殺気に気が付いて飛び起きたミルも、誰一人魔獣の狩猟に気が付けなかった。


しかし、たった一人、反応出来た者がいた。


「くっ⁉」


青年は魔獣の跳びかかる瞬間を狙い、魔獣よりも早くガレットへ飛び込んだ。


魔獣の牙が青年の肩から手の甲へと削り取っていく。


「――っつ」


青年はガレットを抱きかかえる形で転がりながらも態勢をすぐに整える。

すると、溢れ出る血流に痛みも付いてくる。


「な、どうしてっ⁉」


ガレットの叫ぶような驚きに、青年は答える。


「こんな森で警戒しないで寝るのは慣れていないものでね」


「ちがっ――、ああ、もう!」


そういった事を言いたいんじゃないという言葉を飲み込み、やらなければならないことがある。


ガレットはすぐに青年の腕に手に平を向ける。


「動かないで、あまり得意じゃないけどすぐに治療をするわ!」


だが、青年はその腕を掴みガレットを引っ張ると向きを変えさせる。


「順番が違うっ、先にあっちだ」


無理やり方向を変えられた先に、人の数倍はある四足の魔獣とラブとミルが対峙している。


「サーベルライトタイガーっ⁉」


「でかいな……」


とても剣一本、拳二つで勝てるとは思えない。


ガレットがちらりと青年を見る。


「まずい……」


それに青年は気が付いた。


青年は自身がいるから戦えないのかと一瞬思うが、何かが違うことにすぐに気が付く。


だから、


「あれの特徴を簡潔に教えてくれ」


「え、こんな時にっ?」


「早くっ!」


「分かったわよ! 魔獣の中でも強敵に分類される。会ったらまず逃げるのが鉄則。夜型の魔獣で、魔力を帯びてはいるけど、狩りに使用されることはない。明かりと魔力を好み……喰らう。知能も比較的高く、ギルドでの危険度は文句なしの危険値数(レッド)」


ガレットは焚火の明かりで呼び寄せてしまったと考える。


そして、青年はその説明から、ガレットが魔法を躊躇った理由を悟る。

魔法がどんなものかしらなくとも、溜めて放つくらいの想像は出来る。

その結果、魔獣の標的をこちらに移すだろう。


「さて、どうするか」


あまり長い事考える事もできない。


危機的状況なのはもちろん、流れでる血液はやがて思考と体力を奪っていく。


となると、青年の決断と行動は早かった。


その辺の落ちている木の棒と石ころを拾い上げる。


「合図で火を頼む」


それだけ伝え、ラブとミルの対角線になるように駆け出した。


「は? ちょ、ちょっと!」


青年は拾った石ころを焚火めがけて投げる。


焚火に直撃し、バランスを崩した火の付いた薪があちこちに転がった。


光源が霧散したことにより、辺りがぼんやりとだけ照らされる。


「それはまずいっす」


「くそっ」


素人が無謀にも明かりを消せば、魔獣から姿を隠せると思っての行動だと相対していた二人は思う。

だが、夜型の魔獣は明かりがなくとも夜目が効く。


つまり青年の行動は人にとって、不利になる行動でしかない。


無謀でもやるしかない、そう探索者である二人が決意した。


しかし、本来であればラブとミルと同じ思考になるはずのもう一人の探索者であるガレットが叫ぶ。


「待ちなさいっ!」


冷静に、青年の性格を判断する。


知能は低くない。口喧嘩で今のところ勝てていない。

そんな奴が、魔獣の特徴を聞いた途端無謀な行動をするとは思えない。


青年は何を言った。


合図を送ったら火を求める。


青年は何を拾った。


木の棒だ。


火をよこせ。


つまりあの木の棒に火を灯すという事。

霧散した明かりよりも、より強い明かりがそこには灯る。


「こいっ」


合図が来た。


「それも無謀って言うのよ!」


ガレットが青年の持っている木の棒に火を灯す。


薄暗かった辺りの一角に、青年の姿がはっきりと見えるほどの光源が出現する。


サーベルライトタイガーの首が勢いよく向けられた。


標的が好物をもってそこにいるなら、本能がそこへ駆けろと叫ぶ。


地響きと共に駆ける魔獣がすぐ目の前まで迫っている。


そんなひと時の間、青年はただ冷静に呟いた。


「所詮、獣だな」


魔獣が振り向いたと同時、ミルが飛び出している。


「闘気拳【針道(スピアロード)――線(せん)】」


魔獣の左足に鋭い、拳が突き刺さる。


同時、右足が蹴り上げた直後で宙に浮き、二本前足だけではその体躯を支えられず、青年に辿り着く前に転がっていく。


その大きな隙を待つものなどこの場にはいない。


「その硬い皮も、魔力を通した剣の前では無力」


転んだ獣の尻を蹴り上げ高く飛ぶ、その間にラブの剣に魔力が通される。


「魔剣【天流牙(てんりゅうが)】」


天高く上がった勢いのまま、魔力で数倍の大きさになった剣が魔獣に突き刺さった。


魔獣の叫び声が深い夜の空高くまで鳴り響く。


しかし、それでも魔獣は絶命しない。


突き刺さった剣もろともラブを食いちぎろうと首だけを捻って襲い掛かって来る。


そして、ゆっくりと魔力を練りながら、辿り着いたガレットはすでに魔獣の前。


「さぁ、魔力も光も好物なのでしょう。とことこん味わいなさい」


右手をピストル型に、左手は弓を弾く型に、込められるは光の魔法。


「【光輝の(ジャッジメント)大矢(ストライク)】」


放たれた光の矢が魔獣の口へ入る。


飲み込む必要などない。


喉を貫き、食道、胃、心臓、あらゆる臓器を破壊しながら、まるでそこに道があるかのように魔獣の内部を破壊していく。


光の矢が外へ排出されることはない。

次第に出力を失っていく光の矢は、硬い皮膚に阻まれ消滅した。


魔獣の頭部が力なく地面に叩きつけられた。


完全なる絶命。


そこからは、ピクリとも動かなくなった魔獣の姿に安堵の空気が漏れる。


「なんとかなったな」


真っ先に簡素な感想を述べた青年に、ぶつかりそうな勢いでガレットが詰め寄る。


「貴方ねっ! 無謀にもほどがあるわよ。死んだらどうするつもり⁉」


一番真っ先に殺されそうになった奴が言うかと口には出さずに、青年はため息一つ吐く。


「あんたっ⁉」


ぷるぷると震えながら、唇を引きつらせる。


「ちょ、そんな事よりも治療っす、治療!」


ミルの一声に思い出したかのように、


「そうだった!」


青年の傷ついた腕に魔法の光が当てられる。


「しかし、ガレットのいう事は正しい。なんて無茶をしたんだ」


ラブ言いたいことも分かるが、どの道選ぶだけの余裕などなかった。


「咄嗟だったんでね。あれしか思いつかなかった」


呆れたような三人の表情に、青年はただぼんやりと空を眺めていた。



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