第15話 魔王と探索者③
「北にある村が廃村し、一人森の中を徘徊していたと?」
ラブが確認の為、突然現れた青年の説明を繰り返し口にした。
ガレットとミルにどう思うか確認を取る。
「信用するには今の状況と場所から無理ね」
「無理っすね」
二人の意見は概ねラブと変わらない。
当然と言えば当然だろう。
現在この森の中は目下【魔王】が復活したかもしれない地。
そこに廃村したから放浪していたと言われても怪しさしかない。
加えて、
「先日の魔法陣の事を知っているか?」
「ああ、魔王が復活したとか、村の爺さん婆さん達が騒いでいた」
魔王であり、その事実を隠しこの場にいる青年は知らないとは答えない。
事実その事象が起きたことは知っていたのが大きい。
下手に知らないなど答える方が不自然だ。そうして嘘と真実を織り交ぜる。
しかし、
「ふ、墓穴を掘ったわね」
ガレットが青年へ掌を構える。
「だとしたら、あなたがこの場にいる事は不自然。廃村した村を出たのならば人里を探し、森の中に入るなどありえないわ」
鋭い指摘だったが、青年は冷静なままだ。
「誤解があるな。北の村の事を知っているか?」
警戒し続ける三人に青年は淡々と続ける。
「村は俺以外の約三十名、全員が年寄りだ。廃村ってのは時期にそうなるって話で、まだ廃村していない。廃村は時間の問題と言っただけだ」
「あれ? じゃあ、君はその村の出身じゃないっすか?」
「ああ、元々口減らしで幼い頃に別の村を出て、北の村に拾ってもらった」
「それが今の状況の説明になるとでも?」
「俺は別に村を出たわけじゃない。いずれ廃村になる村は、時期に爺さん婆さんの墓標が立つ。それまで安寧に暮らさせてやりたい。だから、俺はこの地を調べに来たんだ」
「目的が同じだと言いたいの?」
いちいち圧があるが青年は至って冷静だ。
「いや、違う」
青年が悪あがきをしているとでも思ったのだろう。ガレットが不敵に笑う。
「へぇー、なにが違うのかしら」
だが、青年の次の言葉で事態は一転する。
「洞窟には何もなかった」
「――っ⁉」
「――っ⁉」
「――っ⁉」
三人の予想とは違い、魔王である青年はすでに件の地を訪れ終わっているといったのだ。
「それを教える為に村に帰るつもりだったんだが、その道中で迷ってあんた達に出会った」
「ちょっと待ちなさい! すでに行った? それをどう証明するつもり⁉」
まるで仕返しのように青年は鼻で笑う。
「あんたたちに証明する意味あるのか?」
そう偶然出会っただけの間柄、さらに青年は怪しい存在として疑われている。
青年の立場からすれば証明する必要などない。
もとより、出会っただけで、まだ何も要求すらしていないのだ。
「――くっ」
ガレットが言い負かされて悔しそうに唇を噛む。
「へぇ、すごいっすね。口でガレットに勝つなんて」
「うるさいっ、負けてないわよ!」
なにやら二人が口喧嘩をし始める中で、ラブが尋ねてきた。
「話を整理させてほしい。君は、すでに魔法陣の下をすでに訪れた。その道中、道に迷い、僕たちに出会った。ここまではいいね?」
青年は「ああ」と頷く。
「僕たちに近づいてきたのは、帰り道を尋ねるため」
「その解釈で言い」
青年とラブの会話を聞いていたガレットが聞こえるように「偉そうに。むかつくわね」と呟いているがラブは苦笑いで、青年は至って冷静に無視する。
「そうか……。すまないが、少し仲間と相談を出せてもらってもいいかい?」
青年は何も言わず、手で「どうぞ」と合図を送り、少し離れたところに腰を下ろした。
ラブは青年と距離を取りように二人を集め、話を開始する。
「どうするっすか?」
ミルは両手を頭に組んで、この先の行方を訊く。
「どうするもあいつを信じる意味がないわ」
一応ガレットは落ち着いている様子で、返答に個人的な感情を含めてはいない。
それを証明するように、
「仮に本当だとしても、確認しないわけにはいかないもの」
実のところそれが問題だった。
「【魔王】がいないことの証明の方が難しいな」
依頼の報告は事実を説明するだけだ。
【魔王】がいた場合、確認した事実を説明すれば、ギルドがあらゆる手段を講じて対策にでるだろう。
それは『希望の光』の信頼で受け入れられる。
しかし、いなかった場合、依頼はすぐに完了しないだろう。
おそらく【魔王】などいなかったという報告は、疑いに変わる。
それほどあの魔法陣は異質なもので、人とはそういうものだ。
考えられる事象は、新たに調査依頼の発行。
複数の探索者が『希望の光』と同じ報告をして初めて疑いは晴れる。
疑われる分には構わない。
探索者間で、嫌われ者に位置する時点で大差ない。
しかし、活動という意味では問題がある。
疑いが晴れるまで動きを拘束されるだろう。
「面倒なことになったわね」
【魔王】がいた方がマシだとは思わないまでも、何もないとまでは思ってもみなかった。
「んー、魔法陣の理由を探れればいいっすけど」
ガレットが例えで話した痕跡でもあれば、また話は変わるだろうが、青年は何もなかったといった。
「そこで僕から提案だ。彼に同行を願いでるのはどうだろうか?」
「それって、あの人に証言してもらうってことっすか?」
ラブが頷く。
「第三者の意見か……、それで疑いが無くなるとは思えないけど」
「何もないよりはいいんじゃないっすか。なにより、あの人ガレットよりも口うまいっすからね。運が良ければ疑いも晴れるっすよ」
「まだ疑われてないわよ!」
煽る言い方に、再びガレットに火が付きそうになる。
「落ち着いてくれ。疑いがどうであれ、彼をこのまま一人にするのも探索者としても良くないと思う」
「うわっ、お人よしっすねー」
「はぁ、本当の目的はそっちなわけ?」
ラブはニコリと笑う。
「それでどうだい? 二人から見て彼は脅威に見えるかい?」
それは【魔王】に関連した何者かと疑わしいところはあるかということ。
「正直わからないわね。少なくとも魔力は全くないし、人族で間違いないでしょうね」
「自分もおんなじっすね。むしろ、人族にしても森の中をあの軽装は馬鹿っす」
ひょんなとこで貧乏が由来の服装が一役買っている事を知らない青年は、話し合いが終わるのを待っている。
「それじゃあ――」
ラブが人の為に行動するつもりなら、どうせ意見など変えないだろうと、最初から諦めている二人は同意する。
「でも、信用はしないからね」
最後にガレットがそう付け足し、
「負けず嫌いっすねー」
「負けてないわよ!」
しつこいくらいに二人は喧嘩するのだった。
青年に依頼内容を説明し、青年が見たものを確認に行きたいことを告げ道案内も頼む。
その上で、ギルドへの報告にも付き合ってもらう。
そうしたあと、村への護衛を兼ねて送り届ける事を条件とした。
青年は、あっさりとそれを受け入れる。
そこに疑わしいことはない。
なにせ、青年はすでに魔法陣が起きた場所を確認し、脅威がない事を知っている。
だから、付き合うことは大した問題ではないはずだからだ。
「今日はもう遅い。明日の朝出発する。それまでは休んでくれ」
探索者でもない青年に夜の見張りは無理だろうと、ラブが提案した。
それにミルも同意し、ガレットも「疑っている奴に見張りなんてさせられるものですか」と同意した。
そして、ガレットが青年の前に立つ。
「ねぇ。貴方、迷い人よね。目的地に案内なんてできるわけ?」
最後に嫌味の一つを言い放つ。
「さっき俺が来た方向を少し行けば洞窟までの雑多な道がある。それで道に迷うやつがいるのか?」
それはバナが、ランの移動をスムーズにする為に作った道の事だ。
不自然ではあるが、草木が避け、土だけになった歩きやすい道。
「あら、道に迷ったのはあなたでしょ」
「俺が知りたいのは村への帰り道だ。村へは道は引かれていない。話で分かるだろ?」
「ぐぅうっ」
「今のは自分でもわかったすよ」
「賢いな」
「へっ、へへ」
「ぐぐっ」
「は、ははは……」
三者三様の表情を最後に夜は更けていく。




