第13話 魔王と帰宅
数日はダンジョンの中で生活が続いていた。
精霊レスノイであるバナが残した、脅威となる存在がいるという事。
そして、魔王が降り立った瞬間、世界に知れ渡っているという事実があるかぎり、下手な行動はとれなくなっていたからだ。
ダンジョンから離れた外の調査をランに任せ、何かが分かるまでは必要な限りを除き、外には出ない。
幸いにも、ダンジョンコアの力によって、ダンジョンの『中』にいるという窮屈な思いはしなくてすんでいた。
住居がある部屋は光源が外にいるように調整され、眠るときには明かりが搾られる。
それがコアの為なのか、ダンジョン内に住む者の為なのは分からなかったが、生活に役立っているのだから深くは考えなかった。
そんな日々が数日続いていたある日、ランがダンジョンに戻る。
ダンジョン内に足を踏み入れた瞬間、いち早く気が付いたのは当然ながら青年だった。
「ランが帰ったな」
本日も土まみれになりながら畑仕事に精を出すパインとマスカも、すぐに駆け寄ってくる。
「ここがわかるでしょうか?」
ランには悪いが、出会って早々捜査に駆り出したため、ダンジョンの事を知らないだろう。
そう思ってのゼンの問だったが、悲しいかなこのダンジョンは意味のない部屋を通り過ぎれば一直線、迷ったところで時間の問題だろう。
心配もよそに、青年だけが視えるダンジョンの構造をランは駆ける。
「問題なさそうだ。直に到着する」
そうは言っても、住居で待つ真似はせず、青年達は出迎えることにする。
パインとマスカに汚れを落とすよう言い、先に青年とゼンが住居の部屋を出た。
ちなみにコアとの契約を行った部屋を『中央の間』と呼称している。
「帰った?」
ブンは『中央の間』で振り返り尋ねてきた。
のけ者にしていたわけでも、見張りを頼んだわけでもない。
ただ、ブンがそうしたいというのでそこに残していた。
おそらく、いつ帰るかわからないランの帰りを出迎えるつもりだったのだろう。
返事をする暇もなさそうだと、青年は頷き顎で『中央の間』の入り口を差す。
そこへ、
「ただいま戻りました」
帰還早々、片膝を付いたランが無事に辿り着いた。
「「おかえりなさいっ」」
汚れを最低限落としたパインとマスカが扉から飛び出す勢いで間に合う。
「はっ、ありがたきお言葉」
どこか仰々しいが、その辺も踏まえてランには説明が必要そうだ。
「悪いな。いきなり遣いにだして」
「いえ、それよりも――」
「ちょーっとまった!」
早々にパインが止める。
「休むのが先じゃない?」
声もなく何度も頷くマスカ、対照的にゼンとブンは青年の言葉を待つ。
「急ぎじゃなければ、報告は休んでからでいい」
「いえ、しかし――」
与えられた任を遂行することを最優先にしようとするランに、
「そうさせてもらえ」
ゼンは、甘えるように指示し、
「食事の準備をする」
そう言ったブンは住居の方へ移動する。
青年は両者が納得するよう提案を促す。
「話は飯を食いながらでもいい」
そう言った青年の言葉に、唖然とするランを一人残し、住居の部屋へと移動し始めた。
「…………」
ゼンはそんなランの肩に手を置き、
「これが我々の主だ」
「そうか……」
ランは全てを受け入れた。
「ほら、行くよゼン、ラン」
「……うん。ブンのごはん美味しいよ」
ようやくランも肩の荷を下ろす。
「奥方様も、優しい方たちなのだな」
「奥方さまっ⁉」
「……っっっ⁉」
もう少し状況が落ち着いてから遣いに出すべきだったかと、青年は後ろ手に聞こえる声に、反省したのだった。




