第12話 魔王と探索者②
「ここまで順調ね」
数日目の野営地を決め、焚火を前にしたガレットが経過報告を口にする。
「そっすねー、なんか拍子抜けというか、なんというか」
ミルは食後のストレッチで前屈をしながら同意した。
「いいことではあるな。それに、ガレットの魔物避けの魔法のおかげが大きい」
ラブもまた同じ意見を口にした。
おそらく三人は同じことを思っている。
それを最初に口に出したのは、やはりガレットだった。
「あの魔法陣なんだったのかしらね」
決して、【魔王】が本当に存在しているかの有無は口にしない。
口に出すのは簡単だったが、それを確かめるための依頼だからだ。
それでいても、魔法陣発生から数日。
あまりに音沙汰がないが為、この依頼は間延びし続けている。
仮に【魔王】が復活したのならば、世界規模での被害、もしくはそれに連なる行動を起こしていてもおかしくない。
「ん~なんすかね。仮に、仮にっすよ。【魔王】じゃなかった場合の可能性って何かあるっすか?」
それはミルも理解している。
だが、聞かずにはいられないと他の可能性を示してほしかった。
特に緊迫もしていない状況で、ただの話のネタにガレットも可能性だけは考えてみる。
「まぁ、そうねー。考えられるのは、何かしらの魔法研究」
「魔法研究っすか?」
人族の中で魔力を持ったものは他種族に比べると少ない。
ミルもまたその多数の一人だからだろう。
特にその道の知識は乏しい。
「第一に魔法陣が出現している時点で、魔力は絶対条件として関わっているわ」
「だが、あれだけの規模の魔法陣ってなると、それこそ生涯で出会う事すらない種族の者じゃないか?」
一応少数には属しているラブは焚火に蒔を追加しながら話に参加する。
「種族単位で言えばそうね。でも、魔力を持った者が多数集まり、なにかしらの道具を使えば不可能ではないわ」
「こんな森の中でっすか?」
「あくまで可能性の一つよ」
ミルの言いたいことも分かる。
森の精霊レスノイが管理する【鎮守の杜】は世界規模でも大きな森だ。
秘密裏に何かをするには適しているといえば適してはいるが、ガレットのいう多数はそれこそ一つの国家レベルでの人数を差している。
それを、いくら広大な森とはいえ、誰の目にも触れず、近隣の村や町を通り過ぎて事をなすのは不可能だといえた。
加えて世界規模で騒ぎになっている時点でその人数はおかしな話だ。
「それにラブの言った種族っていうのも、おかしな話よ」
「確かに。ドラゴン族だったら、その大きさから。なにより、隠すような気性でもないな」
「他も似たようなモノね」
ミルは口を尖らせる。
「じゃあ、なんすか?」
その憶測でいえば【魔王】もおかしな話になってくる。
「その為の調査ではあるのだけね」
「いっそのことレスノイが教えてくれないっすかね?」
「【鎮守の杜】の管理者か……」
「まず、無理な話ね。精霊はレスノイに限らず、精霊の中では変わり者以外、大の人族嫌いが多いもの」
それは歴史が物語っている。
過去には、魔力量でその存在価値を示した時代があり、人族は侮蔑の対象であった。
しかし、他種族に比べて数の多さから、争いごとの中心には常に人族の影があった。
そのことから、魔力量よりもその存在そのものが嫌われる方が多くなった。
「でも、【魔王】と精霊も敵同時っすよね?」
「どうかしら? 不可侵の意味合いの方が強い気はするけど」
「何かされない限りは何もしないか……」
「むぅ……」
さらに唇を尖らせるミルだったが、所詮は答えがないただの暇つぶし、その答えを見つけるための探索なのだから仕方がなかった。
そろそろ、お開きになる空気に、何かを閃いたようにミルが唐突に言い放つ。
「じゃあ! こういうのはどうっすか? ある日、世界に溢れる魔力の自然暴走。魔法陣が形成され、別の世界の扉が開く! そこに現れたのが、異世界からの訪問者っ!」
それは作り話の絵物語。
【魔王】と戦った者達を後世に伝える為、記録された書物を一般的に面白おかしく見せ、付加価値を付けられた存在。
「ないわね」
「ないな」
歴史的に見ても、活躍した英雄たちは確かにこの世界で出生し生涯を終えている。
そんな子供が見る絵本のような、主人公は現れていない。
ミルの表情がスンとなる。
「夢がないっすねー。ガレットには王子様は現れないっすよー」
「なんで私にだけ言うのよ!」
最初からからかう気だったなと、ラブは巻き込まれる前に逃げる。
野営中は一人が見張りをするのが鉄則だ。
就寝する準備はいつも通りになるだろうと、寝床の準備をし始めた。
二人の言い争いが後方で聞こえる中、がさがさと少し離れた距離から草木の音が鳴った。
その瞬間、言い争っていたミル、ガレットがラブの位置まで瞬時に移動する。
ラブが剣を抜く。
音の正体との距離があり、焚火があるとはいえ暗闇の中では視認は出来ない。
「何?」
殺気だった気配がない分、いち早く警戒したラブにガレットが尋ねる。
「獣っすか?」
ガレットが放った魔獣除けも万能ではない。
中程度の魔物に効果はあっても、それ以上の魔物や抵抗をもった魔物はすり抜けてしまう。
それにミルの言ったように魔力を持たない獣もその対象外だった。
「分からない。獣にしては……」
焚火の火を怖がる生物もいれば、火に引き寄せられる生物もいる。
しかし、それにしても相手側に警戒心が感じられない。
草木をかき分けるように音を鳴らし、徐々に近づいてくる。
「光魔法はいる?」
「いや、それよりも――」
そうラブが言うと軽く息を吸い、
「誰だっ⁉」
そう問いかけた。
その声に、草木の音が消える。
少しの間を置いて、
「迷い人だ! 炎の明かりを見つけて、ここまで来た。近づいてもいいか⁉」
どうやら、知能がある者ではあるようだった。
「両手をあげ、姿を見せなさいっ。もし、下手な行動を取れば魔の矢で打ち抜くわ!」
「了解だ。徐々に近づく。攻撃の意思はない」
そう言った何者かは、言った通り両手を上げゆっくりと近づいてきた。
徐々に焚火の明かりでその姿が露になる。
「探索者じゃないっすね?」
同業者が別のギルドから派遣されたかと思ったミルがそう告げる。
おそらくラブもガレットもその姿を見るまでは、同じことを考えていた。
「何者だ?」
だから、威圧を込めてラブが尋ねた。
「迷い人だといったはずだが」
すでに伝えたはずの答えを聞きなおされ、怪訝そうな表情でその存在は現れる。
安い布地の服に、見る限り装備らしい装備をしていない。
探索者はもちろん、とても森の中を歩くような恰好をしていない存在。
警戒は持ちつつも、その存在が言うように、攻撃の意志は感じられなかった。
しかし、探索者の三人は知らない。
森の中に現れた存在は、この地に降り立った魔王と呼ばれている青年だということを。




