第11話 魔王と探索者
数年前、王の御前――。
「ソーン・ラヴ、其方を騎士の任から解任する」
たった一言だけだった。
長年騎士の務めを果たし、時には命さえ危ない目にあった。
それがたった一言。
それだけで、失うことになる。
ラブは何も言わず拳で使った手を胸の前で叩く。
その動作は敬意を払うものだ。
がしゃりと重量のある音が静かに鳴る。
騎士の鎧はこれが最後になるだろう。
相手にどれだけの意図が伝わっただろうか。
王の命に背く結果にはなった。
ただ、それでも守りたい者は守れた。
だから、敬意を払うと同時に誓う。
今まで、そしてこれからも弱気者を守り続けると。
王に頭を下げる。
二度とその地位に就くことはないだろう。
ラブはそのまま王宮から出ていく。
どれほどの侮蔑の眼差しがあっただろうか。
それでいて、ラブは顔を下げたりはしない。
最後まで堂々と王宮を後にした。
それが数年前――。
「本当によろしいのですか?」
探索者ギルトの受付嬢が周りの空気に、言い淀みながら確認をとる。
「ああ、問題ない。僕たちはその依頼を受ける」
力強く言い放つラブに、二人の仲間はため息と諦めた雰囲気で何も言わない。
「では……」
咳払いを一つして、受付の女性がクエスト内容を読み上げる。
「先日、上空に出現した魔法陣の調査依頼になります。依頼元はここ探索者ギルド、期日は一〇日程度。支給品なし、保証なし、報酬依頼は金貨一枚になります」
受付に置かれた依頼書にラブはサインを丁寧に記入した。
これにて、正式にクエストは受理されたことになる。
ラブは振り返り、二人の仲間にクエストが受理されたことを伝える。
「はぁ、言われなくとも見ればわかるわよ」
「そっすね。相談が無駄って、これの事っす」
チーム名『希望の光』。
青年剣士ラブと女性二人の仲間。
「とりあえず、行きましょう。慣れているとは言え、気分が悪いわ」
長い黒髪を腰まで下ろし、豊満なスタイルと鋭い目つきの魔法使いガレット。
「そっすか? あまり気にならないっすけどね」
幼い顔立ちで短い髪は格闘の邪魔にならないよう切り揃えられた呑気な拳闘家ミル。
この二人もまた王宮に仕える職に就いていたが、ラブの一件が納得いかず、ラブの味方に付く形で探索者になった。
急かされ、ラブは苦笑いを作る。
「無事のご帰宅を願っています!」
早々にギルドから立ち去ろうと、受付嬢が最後に投げかける言葉に礼を言い歩き出す。
【魔王】復活が噂さされ、探索者ギルドでも依頼はすぐに出された。
それでいて、誰も受けようとしない依頼。
【魔王】復活がただの噂で、なんてことない場合だった場合。
名誉が与えられるわけでもなく、無駄骨。
そして、万が一噂が本当だった場合、命がけの割には報酬がしょぼすぎる。
どちらにせよこの依頼は旨味がなさ過ぎた。
だから、数いる探索者は誰も受けたがらなかった。
それを揚々と受けたラブ達には尊敬の眼差しが注がれても良いくらいの中で、注がれるのは軽蔑の眼差し。
ギルドの扉に手を掛ける直前、
「はっ、気楽なもんだな」
どこから漏れる声が耳に届く。
時には命の危険と隣り合わせの仕事、探索者。
遥か昔には冒険者と呼ばれていた職業も、時代と共に形を変え世界を探る形へとそう呼ばれるようになった。
花形仕事は未開拓の地の探索やダンジョン攻略。
その他は雑多な依頼が多い。
しかし、不安定な収入となんの保証もないその職業でも夢があり、人気職。
ピラミッドの頂点は一握り、多くの者はその他大勢と揶揄されてはいるが、プライドがないわけではない。
だからこそ、人気があっても限られた人間しかなれない騎士を辞め、流れるままに探索者になったラブに軽蔑の眼差しが注がれた。
請け負う仕事は誰も受けたがらない汚れ仕事が多い。
それでいて危険な依頼もそつなくこなし等級も上げるその姿は順風満帆そのもの。
まるで探索者が楽に稼げる仕事にさえ見える。
それが生粋の探索者には疎ましく映る。
つまり、ただの嫉妬が起こす感情だった。
「文句があるなら正々堂々言って来いっての」
ラブはガレットを宥めながらギルドを後にした。
「にゃはは、それができないからの影口っすよ」
火に油を注ぎ付いてくるミルに「しっー」と口に人差し指で黙れと指示を出しても全てが遅すぎる。
「分かってるわよ!」
ラブはギルドに依頼を受けに来るたびに苦笑いを作った。
それでいてこの二人には感謝していた。
我儘な理由でここまで付き合ってくれていることに。
「ま、いいわ。それで出発前に準備をしっかりしておきましょう。今回の依頼は今までにないくらい慎重なくらいでもいいと思うわ」
慣れているといっても気分がいいわけでは決してない。
だが、それも今更だ。舐められようと危害も加えてこないなら、結局どうでもいい。
切り替えも早いガレットは早速依頼を受けるに辺り確認をしだす。
「そっすねー」
「確かに、僕も見た魔法陣が噂の【魔王】復活に関与しているならば、一つの油断が命取りになる」
「一応、言っておくけど、依頼の内容は調査依頼。戦闘はあくまで緊急処置。いいわね」
「なんで自分に言うっすか?」
「ふふ、言葉にしてほしいの?」
「いや、いいっす。口では勝てないっすし、何が言いたいかわかるっす」
「あら、そこまでおば――」
「ああっ、だから言わなくていいっすって!」
両手で耳を塞ぎミルが走り出す。
「あ、こらっ、確認するって言ったばっかりでしょっ!」
「確認も何もっ、整えてからクエスト受けたじゃないっすかーっ!」
それもそうだ。
ラブがこの件を受けると決めてから、準備はしつこいくらいしてきていた。
「ぐっ、」
これにはガレットも何も言い返せない。
「期間が一〇日しかないってことは、時間かけない方が得っすよねー」
それは経費の話だ。なんの保証がないということは、時間が掛かればかかる程、費用がかさんでいく。
主に食費がほとんどだが、それでもゼロにはならない。
ラブとガレットもミルを追いかける。
「それに、結果がどうであれ情報は早く手に入れた方が世界にとって良いはずだ!」
「だからって、目的地まで走り続けるつもりじゃないでしょう⁉」
そうして走り出した三人の探索者、【希望の光】は進み始めた。
目下、【魔王】復活の真実を確かめる為に……。
「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ」
「魔法にばっかり頼っていると体力なくなるっすよー」
幸いにも天気は晴れが続いている。




