閑話 そうだ、キャンプに行こう(後編)
食後、少し休憩してから――
次に始まったのは、釣りだった。
「「「「………」」」」
竿を前に、退屈そうに座る4人とは異なり、
「……釣れました」
拓郎の竿が、またしても大きくしなる。
「え?」
椅子に腰掛け、自分の膝に頬杖をついていた陽奈が目を丸くしながら顔を上げた。
「また?」
「ええ」
拓郎が魚を釣り上げる。
その手際は、もはや職人の域だった。
「いや待って」
晃が川を覗き込む。
「この川、そんなに魚いる?」
「俺もそれ思った」
海斗も苦笑する。
拓郎が釣り上げた魚をバケツへ入れる。
その直後――
「また釣れた」
「……」
また。
さらに数分後。
「釣れました」
「……」
また。
「ねぇ」
「なんでしょう?」
「……ドーピングしてる?」
「釣りにドーピングって何ですか」
拓郎は真顔で答えた。
そして、眼鏡を人差し指でクイッと押し上げる。
「釣りというものはですね――」
始まった。
拓郎の釣り講座である。
「まず魚の習性を理解し、潮の流れ――」
「……」
「釣る場所と餌の選定、そして何より重要なのが――」
「……」
誰も聞いていない。
「――魚との駆け引きなのです」
「……」
全員、無言で自分の竿を見つめていた。
「――というわけで」
だが気にせず語り続ける拓郎。
「…あ、ほら、また釣れましたよ。」
「もうそんなに魚要らないよーっ!」
陽奈の叫び声が森に響くのであった。
────
日が沈み始める。
昼間の賑やかさとは打って変わり、辺りは少しずつ静かになっていった。
やがて――
キャンプファイヤーに火が灯る。
ぱちぱちと薪が爆ぜる音。
揺れる炎。
その周りに椅子を並べ、昼間に釣った魚を焼いていく。
「いい匂い……」
陽奈が魚を覗き込む。
「そろそろ食べ頃かな」
晃が火加減を見ながら、つまめる料理を並べていく。
「晃、これ何?」
「酒のあて」
「最高じゃん」
「姉ちゃんはお酒飲めないけどな」
「雰囲気を楽しむの!」
陽奈が笑う。
焼き上がった魚を頬張る。
「おいしい!」
「ほんとだ」
実莉も嬉しそうに頷く。
苦労して釣り上げた魚というだけで、妙に特別な味がした。
…というかほぼ拓郎が釣り上げた魚だが。
「さて」
食事が一段落したところで、拓郎が立ち上がる。
そして、キャンピングカーへ向かっていく。
しばらくして――
「……おお?」
海斗が目を丸くした。
拓郎が抱えて戻ってきたのは、一台のアコースティックギターだった。
「それでは、一曲弾きましょうかね」
「へぇー! 拓郎さん、ギター弾けるんだ!」
実莉が嬉しそうに手を叩く。
「ええ。学生時代にバンドをしていたので」
拓郎は優しく微笑んだ。
「おお、意外だな」
海斗も目を見開く。
「まあ、嘘ですが」
「嘘かい」
海斗が即座にツッコむ。
「とにかく、なんでもいいから弾いてみてよ!」
陽奈が笑いながら言う。
すると――
「いや、私は弾けません。」
「「「「なんで持ってきた???」」」」
四人の声が重なった。
拓郎は、いたって真面目な顔で答える。
「誰かしらが弾けるだろうと思いまして」
「他力本願」
実莉が呆れたように笑う。
「じゃあ、貸して」
海斗が手を伸ばした。
「ええ、どうぞ」
拓郎からギターを受け取る。
海斗はそれを大事そうに抱え、椅子へ腰を下ろした。
さっきまでの軽薄そうな笑顔とは、少し違う。
ギターを抱えた姿が、不思議なくらい様になっていた。
「……」
陽奈が、思わず見入る。
海斗が弦に指を置く。
そして――
静かに、音を奏で始めた。
穏やかな夜に似合う、ゆったりとした優しい音色。
耳に心地よいリズムが自然の中へと溶けていく。
「うま……」
晃と陽奈が、同時に目を見開いた。
「持ってきて正解でしたね」
拓郎がドヤ顔で頷く。
「結果論だね」
実莉が苦笑する。
やがて一曲が終わる。
余韻が、静かに夜へ消えていった。
「……ねえ」
陽奈が海斗を見る。
「歌わないの?」
その言葉に。
海斗の指が、ほんの少し止まった。
歌うのは好きだ。
だから歌いたい。本当は。
でも。歌えば――
自分が覆面シンガーソングライターのVeilだと気づかれる可能性がある。
海斗は少しだけ考えたあと――
いつものように、ふわっと笑った。
「ん~。歌うのは下手だから」
「えー、残念」
陽奈が肩を落とす。
その様子を見ながら、海斗は小さく笑った。
いつか。
自分の本当の姿を、みんなに打ち明ける日が来るかもしれない。
その時は――
こんなふうに、皆の前で歌えるだろうか。
「じゃあ、もう一曲弾こうかなー。」
海斗の奏でるアコースティックギターの穏やかな音色。
ぱちぱちと薪が爆ぜる音。
優しく静かに頬を撫でる風。
さわさわと揺れる木々。
賑やかな昼間とはまた違う、
ゆったりと落ち着いた時間が流れていく。
こうして――
五人のキャンプの夜は、静かに更けていった。
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ご覧頂きありがとうございます!
ほのぼの日常編、楽しんで頂けましたでしょうか?
久々に登場した拓郎が大暴れしておりました…笑
少しやりすぎたかな…?と不安になっております笑
少しづつ本編も更新していきます。次のお話は10/1の19:00投稿予定です。ブックマーク登録で最新話の更新をお待ちいただけるとありがたいです( *´꒳`*)
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