第7話 イベントまであと二日
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その日の夜。
『Last Chronicle Online』
今日もいつものメンバーが集まっていた。
午後10時。
仕事終わりの社会人達がログインし始める時間帯である。
そして。
『すい♡ ログインしました』
通知が表示された。
画面の中へ現れたのは、小さな弓使いの少女。
鮮やかな赤色のツインテール。
花飾りで彩られたふわふわの髪。
赤を基調とした豪華な和風ドレス。
小さな体に不釣り合いなほど美しい花の長弓。
見た目年齢は五歳くらい。
誰が見てもマスコット。
ラスクロ界でも屈指の愛されキャラである。
もちろん中身は二十八歳のバリキャリ姉御肌なのだが。
その事実を知る者はいない。
『すい♡:ただいまー!♡』
元気なチャットが流れる。
すると即座に返信。
『ハル:あー!すいちゃんおかえりー!今日は遅かったですねぇ(´;ω;`)』
『アキ:なんかあった?』
画面を見ながら実莉は少し考えた。
今日は色々あった。
残業。
ナンパ。
謎のイケメン。
大型犬後輩。
情報量が多い。
『すい♡:えーと、お買い物途中に』
『すい♡:近所のおにーさんたちに突然話しかけられて…』
数秒後。
『ハル:えっ!ナンパじゃないですかぁー!!すいちゃん大丈夫?!(´;ω;`)』
『すい♡:うんうん!今こうして帰って来れてるから平気だよー!♡』
『貝類:変な時間に外出んなよ』
実莉は画面を見つめた。
(こいつ私を未成年だと思ってるか……?)
どう考えても思っている。
このギルド。
自分のことをリアルでも幼女寄りだと思っている節がある。
まあ自業自得なのだが。
そんな会話を見ていたアキが口を開いた。
『アキ:あ、そういや私もさっきナンパ遭遇したわ』
『すい♡:えっ』
『拓郎:えっ』
ふたりが同時に驚く。
アキ本人も少し驚いていた。
『アキ:いや、正確には遭遇しただけだけど』
(遭遇しただけじゃないんだけどな)
晃は雪いちご大福を食べながら思う。
実際は思いっきり巻き込まれていた。
『拓郎:詳しくないが、そんな頻繁に起こるもんなんか? ナンパって』
『貝類:案外やるな日本男児』
『アキ:褒めてんの??』
『ハル:褒めてないですよね?!』
『すい♡:褒めてないよね?!』
『貝類:知らん』
知らんじゃない。
全員が思った。
すると。
貝類が続けた。
『貝類:お前ら可愛いんだから気つけろよ』
一瞬。
チャットが止まった。
そして。
現実世界。
陽奈がソファーの上で立ち上がった。
「貝類さんが!!!!」
「かわいいって言った!!!!」
ドゴッ。
クッションを殴る。
ドゴッ。
もう一発。
「悔しい!!!!」
「アキの中身こんな生意気男児なのに!!!!」
「どーどー」
晃が雪いちご大福を食べながら宥める。
慣れたものである。
陽奈はまだ暴れていた。
「ハルちゃんも可愛いって言ってほしぃいい!!」
「貝類さんが他の子に可愛いとか言うの悔しい!!」
意味が分からない。
晃は静かにコーヒーを飲んだ。
◇
そんな騒がしいチャットの中。
拓郎がふと思い出したように発言した。
『拓郎:そういえば明後日だな、イベント』
その言葉を聞いた瞬間全員が思った。
(なんでお前が言うんだ)
現実世界で七十代の老人にしか見えないマッチョ盾職。
絶対興味無さそうなのに。
妙にイベント情報だけ詳しい。
『ハル:あっ!そうでしたね!』
『すい♡:もう明後日なんだー!』
『アキ:はや』
すると。
貝類がぽつりと言った。
『あ、そういやその日』
『俺の誕生日だな』
『ハル:え?!』
真っ先に反応したのは当然ハルだった。
ゲーム内でウサギ耳がぴょこんと跳ねる。
『すい♡:えっ!?』
『アキ:マジで?』
『拓郎:ほう』
『貝類:たぶん』
『アキ:たぶんって何』
『貝類:最近忘れる』
『すい♡:忘れちゃダメだよー!』
そんな中。
拓郎がまた謎情報を投下した。
『拓郎:誕生日月の人はイベント参加すると限定アバターのシリアルコード貰えるらしいぞ』
(だからどこ情報なんだよ)
全員が思った。
『貝類:ふーん』
『貝類:アバか』
そんな会話を画面越しに見ながら、陽奈の目が光った。
立ち上がる。
「来る」
「は?」
晃が見る。
陽奈は真顔だった。
「これ絶対貝類さん来る」
「来ないでしょ」
「来る」
「なんで?」
「分かんない」
陽奈は胸を張った。
「私の直感」
「外しそうその直感」
「うるさい」
陽奈はスマホを握りしめた。
そして。
決意したように言う。
「私参加するわ」
「イベント」
晃が顔を上げる。
「はー?」
「行くの?ひちゃ」
「行く」
即答だった。
「止めても行くから!」
「別に止めないよ……」
晃は肩を竦める。
勝手に行けばいい。
自分には関係ない。
そう思っていた。
……が。
ふと横を見る。
陽奈が腕を組んでいた。
真剣な顔で。
「当日の服どうしようかな……」
「髪巻くべきかな……」
「ワンピースかな……」
「でも可愛すぎるとあざといかな……」
「ナチュラル系……?」
「いやでも貝類さん好み分かんないし……」
スマホを放置している。
完全に乙女モードだった。
朝倉陽奈。
二十六歳。
養護教諭。
天然っぽく見える。
だが実際はかなり計算高い。
抜け目もない。
そして。
普通に可愛い。
グレージュの長い髪は毛先にかけてピンク色になっている。
柔らかな雰囲気。
笑顔も愛嬌がある。
昔からモテる。
弟から見ても客観的にそう思う。
だからこそ。
(こいつ一人でイベント行かせて大丈夫か……?)
心配になる。
変な男に声掛けられそうだし。
変な男に騙されそうだし。
変な男に着いて行きそうだし。
「……俺も行く」
陽奈が固まった。
「え?」
「まじ?」
「うん」
「意外すぎるんだけど?!」
晃は視線を逸らした。
少しだけ考えてから。
「……もしかしてシスコン出た?」
陽奈がニヤニヤする。
晃は即答した。
「ちがうわバーカ」
だが。
その返答には説得力がなかった。
イベントまで。
あと二日。
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