第74話 晃、身バレ?!
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「……さて。」
朝9時。
小さな会議室にて。
「早速仕事に取り掛かろう。」
実莉は2枚のスイーツ写真が貼り付けられたホワイトボードをダンッと叩く。
「まずは、キャッチコピーを考えたいの。」
「はい!」
真っ先に手を挙げたのは相澤だった。
「はい、相澤くん。」
「『夏祭り気分を、コンビニで!』」
「王道だね。」
「じゃあ、『お祭り行けなくても大丈夫!』」
「ちょっと寂しくない?」
「『夏は祭りだ! 祭りはスイーツだ!』」
「急に暑苦しくなったね。」
「『りんご飴じゃないよ、りんごプリンだよ!』」
「商品説明になってる。」
次々と飛び出してくる相澤の案に、実莉は苦笑しながらホワイトボードへ書き留めていく。
「相澤くん、意外といっぱい出てくるね。」
「俺、こういうの考えるの好きなんですよ。」
相澤は得意げに胸を張る。
その隣では、国崎も腕を組みながら考え込んでいた。
「じゃあ俺は……『今年の夏は、ちょっと特別な夏に。』とかどうです?」
「お、いいじゃん!」
相澤が食いつく。
「じゃあ、『ひとくち食べれば、夏祭り。』」
「それもいいね。」
実莉は頷きながら、いくつかの案を書き出していく。
しばらく3人で意見を出し合った後。
「……うーん。」
実莉はホワイトボードを眺めた。
「商品の特徴がもう少し伝わる方がいいかも。」
「だったら、これじゃないですか?」
相澤がホワイトボードを指差す。
「『コンビニで、夏祭り。』」
「……!」
実莉の目が止まった。
「短くて分かりやすいし、今回の商品のコンセプトにも合ってる。」
国崎も頷く。
「確かに。店頭ポスターにもWebバナーにも使いやすそうですね。」
「でしょ?」
相澤がニッと笑う。
「じゃあ、これを軸に考えてみようか。」
「決まりですね。」
こうして、キャッチコピーの方向性が決まった。
続いて、商品の見せ方について話し合う。
「晃くん。この辺り、イラストで表現するとしたらどんな感じになりそう?」
実莉がタブレットを晃に差し出す。
「んー……。」
晃は写真をじっと眺めた。
そして。
「こんな感じ?」
タブレットを操作する指が、迷いなく動いていく。
数分もしないうちに、赤いりんご飴型の容器を中心に、金魚すくいのゼリーや夏祭りらしい小物を配置したラフが完成していった。
「え、早っ。」
相澤が身を乗り出す。
「これ、今描いたの?」
「うん。」
「いやいやいや。ちょっと待って。」
相澤がタブレットを覗き込む。
「めちゃくちゃ上手いじゃん。」
「仕事だから。」
「仕事だからで済ませるレベルじゃなくね?」
国崎も横から画面を覗き込む。
「……すごいですね。」
商品の形を活かしながら、背景には小さな提灯や金魚、風鈴などが配置されている。
まだラフだというのに、完成した広告のイメージがはっきりと浮かんでくる。
「これなら、かなりイメージしやすいね。」
実莉が嬉しそうに笑った。
「さすが晃くんだね。」
「……まあ。」
晃はいつも通り淡々と返事をする。
その隣で。
「…………。」
国崎は無言になった。
まただ。
また実莉が、晃を褒めている。
(……くっ。)
小さく拳を握る。
(俺だって褒められたいのにー…!)
そんな国崎の心情など知る由もなく、晃は次のラフを描き始めていた。
そして、あっという間に午前の作業時間が過ぎていった。
────
昼休み。
国崎と実莉は社員食堂へ。
一方、晃と相澤はそのまま小会議室で昼食を取っていた。
「いただきまーす!」
相澤がコンビニ弁当の蓋を開ける。
「いただきます。」
その隣で、晃も自分の弁当箱を開いた。
中には、色とりどりのおかずが綺麗に詰められている。
だし巻き卵に、焼き鮭。
ほうれん草のおひたしに、きんぴらごぼう。
そして、照り焼きチキンと白いご飯。
派手さはないものの、どれも丁寧に詰められていて、いかにも手作りといった弁当だった。
「…………。」
相澤の箸が止まる。
そして。
ゴクリ。
小さく唾を飲み込んだ。
「それ、彼女の手作り弁当か?」
「まさか。俺が作っただけ。というか朝飯の残り詰め込んだだけ。」
そう言って晃は無表情でひとくち頬張った。
相澤はポカンと口を開けたまま、そんな晃を見つめていた。
「……すげぇ。生活スキル高ぇ……。」
「普通だって。」
「俺も作ってみるか。」
相澤は自分のコンビニ弁当を見つめる。
「まずは卵焼きからだな。」
「頑張って。」
「なんか他人事だな、お前。」
「他人事だし。」
「冷たっ!」
相澤がケラケラと笑う。
しばらく弁当を食べ進めていたが、ふと何かを思い出したように相澤が口を開いた。
「そういやさ、朝倉は乃村先輩とどういう仲なの?」
「どういう……?」
晃は箸を止める。
「ほら、幼なじみとか、高校の先輩後輩とか?」
「いや、違うけど。」
晃は少し考え込む。
実莉のことだ。
きっと職場ではゲームの事を隠しているに違いない。
「まぁ、5年くらいは仲良くしてるかな。」
「なが! どうやって知り合ったんだよ。」
グイグイと質問してくる相澤に、晃が少し困っていると。
廊下からキャッキャと女子社員の声が聞こえてきた。
「……?」
そちらを向く。
硝子の扉の向こうで、女子社員2人が晃を見ながら何やら騒いでいる。
「なんだ?」
相澤も振り返る。
2人が首を傾げていると、女子社員たちは顔を見合わせた。
そして意を決したように、小会議室の扉を恐る恐る開ける。
「あの……。」
「はい?」
晃が顔を上げる。
女子社員の1人が、少し緊張した様子で口を開いた。
「ラスクロのアキさんですよね?」
「…………。」
晃の動きが止まる。
隣では、相澤もポカンと口を開けていた。
「……え?」
女子社員たちは顔を見合わせ、嬉しそうに頷く。
「やっぱり!」
「昨日の朝礼で見た時から、もしかしてって思ってて……!」
「私、アキさんのファンなんです!」
「え、ちょ、待って。」
相澤が晃を見る。
「朝倉、お前……ゲームやってんの?」
晃は無言で箸を置いた。
そして。
「……まあ少し。」
「マジかよーーーーー!!!」
小さな会議室に、相澤の大声が響き渡った。
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