第71話 依頼の内容は
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実莉の後をついてたどり着いたのは、こじんまりとした小会議室だった。
ガラス張りの扉の鍵を開ける。
「さぁ、入って。」
促されるままに中に入る男3人。
外部に面する壁は全面ガラス張り、廊下とはすりガラスで仕切られている。
広さの割に閉塞感のない部屋だ。
白い壁と、ダークグレーを基調としたフローリング。
壁には、何か書かれた跡のあるホワイトボード。
そのホワイトボードに向かって並べられた白い机の上には、数台のノートパソコンと黒いリュックが置かれていた。
「あっ、さっき書いてた字が消しきれてなかったね。」
ホワイトボードを見た実莉が、慌ててクリーナーで文字を消す。
「何かに使ってたんですか?」
最後に部屋に入った国崎が、入口の扉を閉めながら首を傾げる。
「うん。今朝、晃くんにオリエンテーションをしてたの。」
「秘密のレッスンだ」
「違うから。」
「違う。」
口を片手で覆いながら呟く相澤に被せるように、実莉と晃がツッコミを入れる。
「なーんだ。」
「ばか。」
ホッと胸を撫で下ろす相澤の頭を、国崎が軽く叩く。
そんな2人を横目で見ながら、実莉と晃は机を向かい合わせにセッティングし出す。
その様子に気づいた国崎も、慌ててセッティングに参戦する。
「ありがと。」
「んで、この部屋で何するんですか?」
椅子の向きを整えながら相澤が尋ねる。
「ここね。」
「さっき朝礼で話してたんだけど、コンビニの新作スイーツの広告依頼が来てて」
「専用にしばらく貸し切ったの。」
「へぇー。」
「よし、セッティング完了!」
二人がけの机同士を向かい合わせに配置し、4人が話し合いをしやすい形にセッティングされた。
その机を見て、相澤が腕を組みながら考え込む。
「あの、ひょっとして。」
「俺もその依頼担当のメンバーに含まれてます?」
「うん。」
「初知りなんですが??? てっきり新人と先輩と国崎の3人でやるものだと。」
「え? 俺も初知りだよ。」
「お前も聞いてないんかい。」
不思議そうに首をかしげる国崎に、即ツッコミを入れた。
「ごめんねー、急に決まっちゃったからさ。」
「いやいや! のん先輩のご命令とあらば何でもやりますので問題なしです。な、相澤!」
申し訳なさそうに両手を合わせる実莉に、全力で返事をする国崎。
「えぇー……」
国崎は不服そうな相澤の足を思いっきり踏んづける。
「いだぁっ!?」
驚いて国崎の方を向き、抗議しようとする。
空気を読めと目で訴えられ、仕方なく頭を縦に振る。
「……分かりました。やります。」
「ありがと! ほんと助かる。」
実莉に笑顔で礼を言われ、満更でもなさそうな相澤。
そして、それを白い目で見る国崎。
気にする様子もなく先に席につく晃。
「よし! じゃあ2人とも、仕事道具持ってこの部屋に集合!」
実莉はパンっと一回手を叩き、指示を出す。
「「はい!」」
国崎と相澤は元気よく小会議室を後にした。
───
「では改めてー」
「短期間だけど、一緒に仕事をする仲間同士、自己紹介をしとこう!」
実莉が笑顔で言った。
小さな会議室の一角で向かい合わせに座る4人。
実莉、晃。その向かいに国崎、相澤。
自己紹介を促された3人は、互いに顔を見合わせた。
「じゃあ俺から。」
沈黙を破ったのは国崎だった。
「国崎翔馬です。25歳。この会社入って3年目になります。」
「……それだけ?」
実莉が物足らなさそうに尋ねる。
「え、足りないですか?」
「あと少し欲しいかな! ほら、特技とか趣味とか。」
「あー……」
「特技というほどでは無いんですけど、料理は結構しますね。完全に男飯だけど。」
「確かに。この前の焼きそば、美味しかったぁ。」
思い出したように実莉が頷いた。
「あ……ありがとうございます。」
その一言に少し誇らしげに鼻の下を指で擦る。
自分の作った料理が実莉に認められた事実を噛み締めていた。
──晃に勝った。
心の中でそう思った直後。
「料理でいえばさ」
実莉が晃の方を向く。
「晃くんのカレーもめちゃくちゃ美味しかったなー。」
「!」
国崎がバッと晃を見る。
「……カレー?」
晃が跳ねた髪をピョコンと揺らしながら首を傾げる。
「ほら、一度お邪魔した時に振舞ってくれたやつ。」
「あぁ、そんなこともあったね。」
「なっ……」
(なんだと……のん先輩を自宅に招いてるのか?!)
(しかも手料理を振舞ってるなんて……)
負けた……
国崎が衝撃の事実にショックを受ける。
固まった国崎の横顔を見た相澤が、笑いをこらえる。
そんなことに気づく様子もなく、実莉が話を進める。
「この流れで晃くん、自己紹介行っちゃおう!」
「朝倉晃。24歳です。フリーのイラストレーターしてます。一応デザイン科の学校も卒業してます。特技は無いです。」
「料理。」
実莉にコソッと囁かれる。
「特技は料理です。」
実莉の囁きに素直に従い、自己紹介を修正する。
「イケメンで料理もできるのは反則。」
ボソッと相澤が呟く。
「ありがとうございます。」
「褒めてないし!」
晃に真顔で頭を下げられ、食い気味に否定する。
「じゃあ最後、相澤くんね。」
「はーい。」
「相澤健人です。くにと同じく25歳、勤続年数も同じです。趣味は…、ゲームかな。」
「「ゲーム」」
実莉と晃が同時に復唱する。
「ちなみにどんなゲーム?」
「バトルロイヤル系っすねー。」
「「バトルロイヤル系かー」」
「何すか、2人揃ってその、そっちかーぁみたいな反応。」
「してないしてない。いい趣味だなと思って。」
「分かんないけど、ゲームの趣味褒められたの初めてです。」
「自己紹介はこのくらいにして……」
実莉は立ち上がり、資料を手に取る。
「早速、依頼内容を確認していこっか。」
そう言って、ホワイトボードに写真を数枚貼り付ける。
中央に割り箸のようなものがさし込まれたりんご飴の形をした赤い透明プラスティック容器の中に、プリンが入ったもの。
シュワシュワした透明ゼリーの中に、赤い金魚をかたどった寒天が浮かぶデザート。
「おー、美味そー。」
「今回広告を依頼されたのは、この2つのスイーツ。」
「季節限定、夏祭りをイメージしたデザートなの。」
「で、この商品の店頭ポスター、Webバナー広告、店頭POPを依頼されてる感じ。」
「なるほど。ちなみに納期はどのくらいですか?」
メモを取りながら国崎が尋ねる。
「3週間。」
「短!」
相澤が思わず声をあげる。
「いけるだろ。」
国崎は腕を組みながら言う。
「4人もいるし、役割決めて動いたら結構余裕あると思うの。」
「で、担当なんだけど……」
「私とくにでクライアント担当メイン、相澤くんはアイデア出しメイン、晃くんはイラスト・デザインで!」
「えー、俺、営業がいい……」
「お前がクライアント対応したら、いらないことまで口出しするからダメだろ。」
「いけず!」
「いけずって何だよ。」
「まぁまぁ。相澤くんって、発想力豊かだし、周りが驚くようなこと思いついてくれるかなって思ったから、この役割をお願いしたいの。」
「やります!」
「変わり身早いな。」
「よし! じゃあよろしくね!」
実莉はそう言って、一旦部屋を後にする。
「あ、そうだ。」
部屋を出る直前、振り返る。
「みんな歳近いんだから、仲良く仕事してね!」
笑顔で一言言い残し、その場を離れた。
部屋に残されたのは男3人。
なんとなく気まずくなり、静まり返る。
そんな中、相澤が机越しに晃の顔を覗き込んだ。
「……何?」
眠たげな瞳で、不思議そうに相澤を見つめ返す。
その瞬間。
相澤の手が晃の顔へ伸びた。
「えっ」
相澤はその手で晃の前髪をかきあげる。
突然の出来事に、空気が固まった。
晃も国崎も、驚いた表情で相澤を見ている。
しばらく続いた沈黙の後。
「……うん、本当にイケメンだわ。」
納得したように髪から手を離した。
「何してんのお前……」
驚きながら呆れる国崎。
「初対面でそんなことされたの初めて。」
乱れた前髪を軽く整える。
「驚かなさすぎてこっちがビビるんだけど……」
国崎は、同期の突然の奇行にも動じることのない晃に、ドン引く。
「ま、3週間よろしくな。イケメンマッシュ君」
相澤はそう言って、ニヒッと笑った。
「……よろしく。」
変な人だな。
そう思いながらも、晃は小さく頷いた。
こうして、少し変わった同期2人との、短い共同作業が始まった。
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