第68話 変なライドに乗りながら
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平日の夜8時を少し回った頃。
仕事や学校から帰宅し、自分時間を過ごす人が増える時間帯。
last chronicle online
通称『ラスクロ』も例外ではなく、
プレイヤーのインが増え始め、賑わっていた。
今日もまた、
いつも通りのメンバーが集まっている。
「お待たせ! やっとインできたぁ〜。」
ふわりと揺れるおさげの髪型に、
うさ耳をピョコっと生やした文学少女風プレイヤー、
『ハル』。
魔法の杖を持ちながら、インする。
「おつー。」
同時に、
大きなハンマーを掲げたグレージュのショートヘア、
クール系美少女『アキ』もイン。
「あ! きたきた! お疲れさま!」
いち早く2人のインに気づいた『すい♡』が、
小さな手を目一杯伸ばし、大きく振りながら返事をする。
手の動きに合わせて、赤い着物の裾と、ふわふわのフリルがあしらわれたスカートが揺れる。
そんな愛らしいすい♡の両サイドに立つ大きな2人の男。
「お疲れ様です。」
岩石と謳われる自慢の筋肉。
強烈な威厳を放つ男『拓郎』が、
見た目に見合わないほど淡白な挨拶を返す。
「おつ。」
黒い丸サングラスと、鼻まで隠れるワインレッドのマフラーのせいで、
ほぼ表情が読めない無口な男『貝類』が、
拓郎に続けて軽く手を上げた。
キャラクターの見た目に関して、
相変わらずリアルとのギャップが激しい5人だ。
「集まったし、そろそろダンジョンに向かいましょうか。」
そう言って、唐突に得体の知れない謎の物体を召喚する拓郎。
どうやら数人乗り用のライドのようだ。
「移動が楽になるかなと思って購入しました。」
召喚されたライドの全貌を目の当たりにした4人の口から、同じ言葉が発された。
「「「「なんだこれ。」」」」
メルヘンな色使いの木製の船型ライド。
所々に可愛い小さな花の彫刻が施された、凝ったデザインだ。
四つの座布団が敷かれた乗客の座席部分の上には、丁寧に木製の屋根までついている。
先端には数本の紐が繋がれており、
その先ではカラフルな鳥が、水面から顔を出すかの如く地面に埋もれながらスイスイ泳いでいる。
この鳥たちが船を引っ張って進む仕様なのだろうか。
「これって……」
「鵜飼の船……?」
独特なデザインのライドに、少し引き気味のメンバー。
「ええ、先日、鵜舟での伝統的な漁をテレビで拝見しまして。」
「どうしても船のライドが欲しかったので、ライドガチャ回しまくりました。」
「需要あるの、そのデザイン。」
「拓郎さんって、変なライド収集する癖あるよね。」
思ったことをチクチクと口に出すメンバーの意見を気にする様子もなく、
筋肉質の巨体老人が、メルヘンな色使いの鵜舟(仮)ライドの先頭に乗り、紐を持つ。
メルヘンなライドデザインに見合わない岩石じじぃの突然の搭乗に、メンバーが顔を顰めた。
「似合わなさすぎる……」
「さあ、乗ってください。」
食い気味に急かされ、渋々、全員が乗り込む。
そして、動き出す鵜舟(仮)。
カラフルな鵜たちが地面をスイスイと泳ぎ、すごいスピードで船を引く。
途中で地面に潜り、魚をくわえて顔を出す。
かなり異様な光景に、
周囲のプレイヤーの注目が一気に集まる。
が、いちいち気にする5人ではない。
「すごーい! はやーい!」
「鳥、漁しながら船引っ張ってんの。器用すぎ。」
楽しむハルの隣で、アキが先端の鵜を眺めながら言う。
「なんか鳥たちが社畜に見えてきた……私も仕事の新しい案件頑張ろう……。」
「その見た目で仕事の話すんな。」
遠くを見つめながらぼそっと呟く5歳児に、貝類がツッコミを入れた。
「あ。仕事といえばさ、」
「実莉ちゃんと晃、ついに明日から同じ職場で働くんだよね!」
ハルが嬉しそうに言う。
「へぇ。」
「ほぉ。」
貝類と拓郎が短く返事する。
だが、明らかに興味を示していた。
「本名、普通に出してるね。」
すい♡がジトっとした視線を向ける。
「だ、大丈夫! チームチャットなんだから、私たち以外見れないし。」
ハルの返事に軽くため息をつきながら、アキの方を向いた。
「まさかゲームの中の人と一緒に働く機会があるなんて驚き。」
「ほんとに。」
アキもそう言って笑う。
「無事、書類も提出できたし、社員証も作れたよ。明日直接渡すね!」
「ありがとう。」
「一緒に通勤ですか。」
2人の会話を聞き、拓郎がライドを操縦しながら言う。
「青春だなー」
貝類の口元がニヤッと引きつる。
いくら口数が少なくても、
人の恋愛話が大好きな海斗の本性が滲み出ていた。
「そりゃ、初めは道分からないだろうし、道案内が必要だから一緒に通勤するよ?」
「調べりゃわかるけど……」
アキがぼそっと呟いた言葉に、少し慌てるすい♡。
「そ、そういうこと言わないで? とにかく私が声かけたから、責任持って連れて行くの。」
「そりゃどうも。」
2人のやりとりに、ライドの上では思わず笑いが起こる。
「そろそろ着きますよ。」
先頭で拓郎が乗客席を振り返る。
「よし! 賞金稼ぎしますかーっ!」
ハルが元気よく立ち上がった。
――――
そんな5人の様子を、遠くから画面越しに眺める女性。
肩下くらいまで伸びたセミロングの黒髪を静かに耳にかける。
清楚で大人しそうな印象だが、
画面にしっかりと向けられた眼差しからは、芯の強さが感じられる。
源香澄。
晃の大学時代の元カノ。
彼女の視線の向かう先には――
もちろん、アキの姿があった。
「やっと見つけた。」
口元を片手で軽く覆い、
アキを見つめながら、嬉しそうに微笑む。
「あっくんのサーバー。」
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