第64話 花火の終わり
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花火大会も終盤。
「きれい……」
大量の花火が夜空を大きく彩り、辺りは拍手に包まれ始める。
「そろそろ、終わっちゃうね。」
陽奈が名残惜しそうに空を見上げる。
「だね。」
海斗も笑いながら立ち上がった。
「人が混み出す前にみんなと合流しようか。」
「うん。」
陽奈も立ち上がろうとした、その瞬間。
「っ……!」
思わず顔をしかめる。
「ひなちゃん?」
「……ごめん。」
足元を見ながら苦笑した。
「草履、慣れてなくて。」
親指と人差し指の間が赤く擦れ、うっすら血が滲んでいた。
「豆できちゃった。」
「それ痛いやつじゃん。」
海斗はすぐにしゃがみ込み、陽奈の足元を見る。
「歩けそう?」
「歩けないことはないよ。」
そう言って無理に歩き出そうとする。
しかし。
「だめ。」
海斗が優しく制した。
「無理は禁物。」
「……う。」
陽奈は素直に足を止める。
「みんな呼ぶね。」
海斗はスマホを取り出し、ラスクロいつメンへ連絡を入れた。
それから十分ほど。
「ひなちゃーん!」
みはるが真っ先に駆け寄ってくる。
「足けがしちゃったの?だいじょーぶ?」
「うん、ごめんね。」
その後ろから晃、実莉、拓郎もやってきた。
拓郎の腕の中では、とうやがすやすやと眠っている。
眠りながらも、腕の中には海斗に貰ったラジコンを大切そうに抱えていた。
「とうやくん、寝ちゃったんだね。」
陽奈が微笑む。
「今日はいっぱい走り回ってましたからね。」
拓郎は優しく頭を撫でた。
「疲れたんでしょう。」
その姿を見ていた晃がぽつりと呟く。
「……ほんと、いいパパにしか見えない。」
「私もそう思った。」
実莉も笑いながら頷く。
「そうですか?」
拓郎は不思議そうな顔をする。
「では恋人を探すところから……」
「じゃあ……!」
みはるの元気な声が響く。
嫌な予感がする。
「みのりちゃんとたくろーさんがけっこんしたらいいと思う!」
「「なんでそうなる???」」
晃と実莉のツッコミが綺麗に重なった。
先程と同じ単純思考である。
またか、と拓郎が溜息を付きながらみはるに近寄る。
「ダメですよ、みはる。」
「実莉さんにはもう、お相手が居ますから。」
「居ないけど?!」
実莉が反射で答える。
「今回は振られる前に動いたな…」
その様子を見ていた海斗が呟いた。
「そういえば。」
晃が思い出したようにポケットからスマホを取り出す。
「姉ちゃん。」
「これ。」
「あ。」
陽奈が目を丸くする。
「忘れてた。」
「ほんと何しにスマホ持ってきてるの。」
晃は呆れながら手渡した。
「ごめんごめん。」
陽奈は頭をかきながら受け取る。
「それより。」
晃の視線が陽奈の足へ向く。
「足、大丈夫なの?」
「え?」
皆の視線が一斉に集まった。
「血出てるじゃん。」
「うーん。」
陽奈は困ったように笑う。
「歩けないことはないかな。」
そう言って再び立とうとする。
「だから無理しない。」
海斗がすぐに止めた。
「今日は大人しくして。」
「……はい。」
陽奈は素直に座り直す。
そのやり取りを、拓郎は黙って見つめていた。
(……珍しい。)
普段の陽奈なら。
『大丈夫だから。』
『一人で歩けるよ。』
そう言って意地でも無理をしそうなものだ。
それなのに今は、驚くほど素直だった。
明らかに花火前と違う。
拓郎は静かに二人を見る。
「……何かありました?」
空気が少し変わった気がした。
「な、ナニモナイナニモナイ!」
陽奈が慌てて答える。
その横で海斗が肩をすくめた。
「まぁ……。」
「仲良くはなったかな。」
「具体的には?」
拓郎が真顔で返す。
海斗は悪戯っぽく片目を閉じながら言う。
「愛を深めてた。」
「――っ!!」
その瞬間。
グリッ。
「痛ぁっ!!」
陽奈の足がしっかりと海斗の足を踏んづけていた。
海斗がピョンピョンと飛び上がる。
「素足踏まれたぁぁぁ!!」
陽奈はジトッと睨んだ。
「変なこと言うから。」
「ひどい。」
「自業自得。」
実莉と晃が吹き出した。
みはるもつられて、ケラケラと声を上げる。
そんな中。
拓郎だけが真顔だった。
「……そうですか。」
静かにメガネの位置を整える。
「そこ流すんだ」
晃が思わずツッコむ。
笑い声が落ち着いた頃。
「じゃあ、どうやって帰る?」
実莉が尋ねる。
「俺、トラちゃん呼んでる。」
海斗がスマホをしまいながら答えた。
「トラちゃん?」
陽奈が小さく首を傾げる。
「集合の時にいた俺のいとこの」
「あー!虎太さん!」
「口元に焼きそば付けてるけどシゴデキそうな青年ですね」
拓郎も頷く。
「矛盾の印象」
晃がツッコミを入れた。
少し笑いながら海斗が冗談ぽく言う。
「そう、その焼きそば男の車あるから。」
「可哀想に…変なあだ名ついちゃったな。」
晃がボソっと呟いた。
「ひなちゃん送ってもらうよ。」
「助かる……。」
陽奈がほっと息をついた。
しばらくすると、一台の車がゆっくりと止まる。
「お、来た来た。」
海斗が片手を上げ、ゆっくり車に近づく。
全員、海斗の跡を継いで歩く。
運転席の窓が開いた。
「お待たせっすー!」
虎太がひょこっと顔を出す。
「あーー!やきそばおとっ……むぐっ」
大きく手を振りながら大声を出そうとするみはるの口を慌ててふさぐ拓郎と海斗。
「やきそば……?」
「なんでもないですのでお気になさらず。」
「はぁ……?」
虎太は拓郎の一言に首を傾げながらも、
海斗の隣にいる陽奈の姿を確認すると、海斗へそっと近付いた。
「海斗さん。」
「ん?」
虎太は口元を隠しながら耳打ちする。
「……おっ?お持ち帰り成功っすか?」
親指を立てる。
海斗も真顔で親指を立て返した。
「そうそう。」
「大成功。」
「聞こえてるよー。」
陽奈が呆れた目を向ける。
虎太と海斗は顔を見合わせる。
「「冗談冗談。」」
二人同時に笑い出した。
笑い方がそっくり。さすが従兄弟である。
「もう。」
陽奈はため息をつく。
「じゃあ。」
虎太が後部座席のドアを開ける。
「どこまで送りましょうか?」
海斗が真顔で答えた。
「うーん……俺ん家。」
ゴンッ。
「痛っ!」
陽奈の拳が海斗の腕へ飛んだ。
「却下。」
そして虎太へ頭を下げる。
「虎太さんすみません、私の家までお願いします。」
「了解っす!」
虎太が八重歯をニッと出しながら人懐っこい笑顔で頷く。
「それじゃ。」
「またラスクロで。」
「お疲れー!」
「今日はありがと!」
皆がそれぞれ手を振る。
車がゆっくりと走り出す。
花火大会がが終わった夏祭り会場から帰路に着く人々が増え始めていた。
夏祭りの灯りが少しずつ遠ざかっていく。
今日という一日は、
陽奈にとっても、海斗にとっても、きっと忘れられない夏の思い出になっていた。
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