第5話 あっくん、巻き添い
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家で一通り騒ぎ終えて。
晃は一人、コンビニへ向かう夜道を歩いていた。
陽奈のアパートから徒歩五分。
姉に無許可でスマホを覗いた罰として、今晩のデザート調達係を命じられたのである。
「こんな遅くから可愛い弟を一人で出歩かせやがって」
ぶつぶつ文句を言いながらも、ちゃんと買いに行くあたりは案外素直だった。
本人は絶対認めないだろうが。
コンビニの自動ドアが開く。
『いらっしゃいませー』
店員の挨拶に軽く会釈を返し、そのままデザートコーナーへ向かう。
頭の中には先程の姉の注文。
『甘ったるいのが食べたい。でも夜だから罪悪感のない感じのやつで!』
姉からの無理難題な注文が脳内再生される。
「矛盾してんだろ……」
頭を掻きながら呟く。
チョコバナナパフェ。
違う。
濃厚バスクチーズケーキ。
違う。
雪いちご大福二個入り。
違う。
「やっぱ無いじゃん」
ため息を吐きながら手に取った雪いちご大福を棚へ戻そうとした、その時。
視界の端に文字が飛び込んできた。
『豆乳クリーム使用』
『通常クリームよりカロリー大幅カット!』
「……これだな」
即決だった。
雪いちご大福二個入りをカゴへ放り込む。
ついでに自分用のホット缶コーヒーも追加。
レジへ向かう。
「お願いします」
晃は一見愛想が無さそうに見えるが、挨拶や礼儀はちゃんとしている。
レジにいたアルバイトの女の子が顔を上げた。
そして。
固まった。
「…………」
「…………」
レジが進まない。
晃は首を傾げる。
「……あの、何か?」
「はっ!?」
店員が飛び上がった。
慌ててバーコードを読み始める。
手が若干震えている。
(イケメンだ……)
(めっちゃイケメンだ……)
(芸能人?)
(モデル?)
(え、近くない?顔良くない?)
頭の中は大混乱である。
ピッ。
ピッ。
ピッ。
そして。
店員は雪いちご大福を手に取った。
「こ、こちら温めますか!?」
「……いや、それはダメになるでしょ」
「ハッ!!」
店員の顔が一瞬で真っ赤になる。
「し、失礼しました!!」
「ふっ」
晃が小さく笑った。
ほんの少しだけ口元が緩む。
それだけだった。
それだけだったのだが。
店員は固まった。
(わらっ―――)
(笑ったーーー!!)
(かわいっ!!)
(えっなに今の!?)
(反則では!?)
心の中で大暴れしながらレジを打つ。
顔は真っ赤だった。
「ありがとうございました!!」
必要以上に元気な声が店内へ響く。
晃は軽く頭を下げて店を出た。
「変な店員だったな」
本人だけが何も気付いていなかった。
◇
帰り道。
ホットコーヒーを片手に歩いていると。
前方から嫌な声が聞こえてきた。
「ねぇ、ちょっと遊んでこーよ」
「全然俺ら奢るし?」
「あの、結構です」
「ははっ、つれないなー」
ナンパだった。
街灯の下。
チャラそうな男二人。
その前には女性が一人。
肩までの艶やかな赤髪。
仕事帰りなのだろう。
白いジャケットに黒のインナー。
細身のパンツスタイル。
ヒールを履いていても姿勢は崩れない。
整った顔立ち。
切れ長の瞳。
仕事のできそうな空気を纏った美人。
二十代後半くらいだろうか。
ただ。
今は明らかに困っていた。
「急いでいるので」
「だから送るって言ってんじゃん」
「そうそう」
「結構です」
断っている。
何度も。
完全に嫌がっている。
晃は視線を逸らした。
本来なら関わりたくない。
面倒だから。
全力でスルーしたい。
だが。
問題が一つあった。
そのナンパ現場。
自分の帰り道ど真ん中なのである。
「……勘弁してくれよ」
頭を掻く。
ため息。
無視して通ろうにも通れない。
迂回するのも面倒。
かといって、このまま長引かれるのも困る。
「はぁ……」
コーヒーを一口飲む。
そして。
嫌々ながら歩き出した。
チャラ男二人の横を通過しようとして――
女性と目が合った。
一瞬。
助けを求めるような視線。
晃は再びため息を吐いた。
「……めんどくさ」
そう呟きながら歩み寄る。
「すみません」
突然割り込んできた晃に男達が振り返る。
「あ?」
「なんだお前」
晃は女性を見た。
そして。
「あれ」
無表情のまま言う。
「先帰ってたんじゃなかったの」
「……え?」
女性が固まる。
晃も固まる。
実は何も考えてなかった。
勢いだけで声を掛けた。
だが顔には出さない。
「えーと、姉ちゃん、鍵持ってる?」
「え……あ……」
女性は一瞬で察した。
頭の回転が速い。
「も、持ってるわよ」
「なら良かった」
晃は頷く。
「お袋さん待ってるから」
お袋さん誰だ。
女性もそう思った。
だが乗る。
「そうだったわね」
「早く帰ろうか」
「えぇ」
二人の息はなぜか合っていた。
チャラ男達はポカンとしている。
「あ、彼氏?」
「「弟です」」
即答だった。
二人とも少しだけ驚く。
初対面なのに。
タイミングまで同じだった。
「じゃあ行くので」
晃はそう言って女性の横へ立つ。
そして。
「行くよ、姉ちゃん」
「誰が姉ちゃんよ」
思わず女性がツッコんだ。
「あ」
「……」
「……」
チャラ男達を見る。
「仲良いっすね」
「仲良いですね」
晃「そう見える?」
男2人「見える見える」
なんとか誤魔化せたようだ。
女性は小さく安堵の息を吐く。
そして二人はその場を離れる。
少し歩いたところで。
女性が立ち止まった。
「ありがとう」
そう言って頭を下げる。
「別に」
晃は缶コーヒーを飲む。
「帰り道だっただけ」
「それでも助かったわ」
街灯に照らされた赤髪が揺れる。
綺麗な人だな。
晃はそう思った。
だが。
それ以上特に感想はない。
「じゃ」
軽く手を振る。
帰ろうとした、その時。
女性のスマホから通知音が鳴った。
ピロン。
画面が一瞬見える。
そこには。
『Last Chronicle Online』
の文字。
晃の足が止まった。
女性も固まった。
二人は同時にスマホを見た。
そして。
ゆっくり顔を上げる。
「……ラスクロ?」
「……え?」
「あ、あ!私急いでるので!ありがとう!」
スマホ画面を隠しながら足早にその場を去る女性。
運命の悪戯は
思ったより早く動き始めていた。
その後、自宅にて。
「遅くなかった?なにしてたの」
本物の姉に詰められる晃。
「なんかデザート温められそうになって、ナンパされた美人助けてた」
「何言ってんだこいつ」
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