第4話 家にいたのは
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「おかえりー、ひちゃ」
リビングへ入った瞬間だった。
ソファにだらしなく腰掛けた青年が、スマホをいじりながら片手をひらひら振る。
口にはポテトチップス。
見慣れた光景だ。
そして陽奈は、そのポテチの袋を見て固まった。
「そのポテチ……」
ゆっくりと指を差す。
青年も袋を見る。
「あ?」
「私が楽しみに買っておいた梅はちみつ味のやつじゃん!!」
叫んだ。
「もぉーーーー!!勝手に食べちゃって!!」
「ごめんて」
まったく悪びれる様子もなく謝る青年。
その軽さが腹立つ。
「限定だったんだからね!?」
「知ってる」
「知ってて食べたの!?」
「うん」
「最低!」
陽奈は盛大に膨れた。
だが青年は気にしない。
スマホを横向きに持ったまま、空いている手でさらにポテチを摘まむ。
パリッ。
「晩飯作っといたから、その代金として頂きました」
机を見る。
ふわふわ卵のオムライス。
サラダ。
スープ。
普通に美味しそうだった。
「……よかろう」
鞄を床へ置きながら頷く。
「許された」
「でも少しは残しといてよね!」
「はいはい」
陽奈は洗面所へ向かう。
手を洗いながら文句を続ける。
「ほんと食べ物の恨みは怖いんだから」
「あ、ごめん」
「ん?」
「今売り切れた」
陽奈が振り向く。
青年は空になった袋を丸めていた。
「…………」
袋がゴミ箱へ吸い込まれる。
ポイ。
「全部食べたぁぁぁぁぁぁ!!」
「ごちそうさま」
「ごちそうさまじゃないのよ!!」
やられた。
完全敗北である。
まあ夕飯があるし。
今日は我慢しよう。
そう自分に言い聞かせながら席につく。
オムライスを一口。
美味しい。
悔しい。
美味しい。
悔しい。
複雑な感情だった。
そんな時。
青年がスマホから目を離さず言った。
「そろそろギルドの宴会始まるけど、INしなくていーの?」
「あっ!」
陽奈が時計を見る。
二十時五分。
「ほんとだ!」
慌ててスマホを取り出す。
ラスクロを起動。
慣れた手付きでログインする。
読み込み中。
その間にふと隣を見る。
青年のスマホ画面。
そこにはラスクロが映っていた。
アキが立っている。
グレージュ色のショートボブ。
整った顔立ち。
黒を基調とした重戦士装備。
巨大な戦鎚を軽々と担ぐクールな少女。
ギルドでも人気の高いキャラクターだ。
「あー」
陽奈はニヤニヤした。
「何見てんだよ、姉ちゃん」
視線に気付いた青年がこちらを見る。
「ごめんごめん」
陽奈は笑う。
「アキちゃん今何してるかなーって」
「リアルでアキちゃんって言うな」
「えー」
この青年。
朝倉晃。
陽奈の二つ下の弟である。
少し長めのグレージュの髪。
気だるげな目元。
整った顔立ち。
黒いゆったりした服装。
いかにも芸術家という雰囲気を纏った男だった。
名門大学を中退し、現在はイラストレーター兼デザイナーとして活動している。
自由人。
マイペース。
だが仕事は一流。
そして。
ラスクロでは――
『アキ』
という少女キャラクターを使っていた。
「晃はこういう女の子が好きなんだねぇ?」
陽奈がニヤニヤする。
「違うって」
「またまた」
「ゲームの女子に言い寄られんのダルいから女キャラ使ってるだけ」
「はいはい」
陽奈は頷く。
「モテ男はゲームでも苦労しますねー」
「信じてないなこいつ」
晃はジト目になった。
だが陽奈は全く気にしない。
オムライスをもぐもぐ食べながら笑っている。
「モテるの楽しいのに」
「そう言いながら貝類落とせてないの知ってるからな」
「ぶっ!!」
陽奈が盛大にむせた。
「な、なんで知ってんの!?」
顔が真っ赤になる。
晃は悪戯っぽく笑った。
「スマホ開いた」
「は!?」
「前に通知見えた」
「見ないでよ!」
「無理だろ」
「無理じゃない!」
陽奈は机を叩いた。
「番号まで知ってんの!?」
「知ってる」
「なんで!?」
「登録名が貝類だった」
「やめてぇぇぇぇぇ!!」
顔を抱える。
死にたい。
穴があったら入りたい。
「ここまで来ると犯罪だよ!?やめて!?このシスコン!!」
「シスコンじゃねぇよ」
即答だった。
「じゃあ何でそんな把握してんの!?」
「姉ちゃん分かりやすいから」
「そんなことない!」
「貝類から返信来るたびニヤけてる」
「ニヤけてない!」
「今も赤い」
「赤くない!」
「赤い」
「赤くない!」
完全に赤かった。
晃は吹き出す。
「ははっ」
「笑うな!」
「いや無理」
「最低」
「頑張れよ」
「何を!?」
「恋」
「だから違うってぇぇぇぇ!!」
ギャーギャー。
ギャーギャー。
騒がしい姉である。
晃は苦笑しながらスマホへ視線を戻した。
そして小さく呟く。
「まぁ、無理そうだけど」
「聞こえてるからね!?」
即座にツッコミが飛ぶ。
今日も朝倉家は平和だった。
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