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《2章迄完結済15万文字突破!》リアルとゲームのギャップが凄いが何故か絵になる美男美女  作者: 小春日和
第3章 夏祭り編

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第49話 天然タラシあっくん



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夏祭り当日。


夕方。


ビルの隙間から差し込む夕陽が街を黄金色に染めていた。


昼間の熱を残したアスファルトからは、じんわりと熱気が立ち上る。


日が傾き始めたというのに、まだ昼間に負けないほど暑い。


そんな中。


コツコツと規則正しいヒールの音を響かせながら、足早に歩く女性がいた。


足音に合わせて揺れる赤髪。


目の前の信号が赤に変わり、道路の手前で足を止める。


乃村実莉だった。


ちらりとスマホの画面を見る。


「やば、約束の時間ギリギリ……」


今日は直属の部下である国崎が早退した。


その仕事を少し手伝っていたこともあり、退勤時間を少しだけ過ぎてしまったのだ。


『ちょっと、家の手伝いがあって……』


そう言って深く頭を下げていた国崎の姿を思い出す。


家の手伝い。


具体的に何をするのかは聞いていない。


だが、無遅刻無欠席の国崎が早退するのは珍しかった。


「きっと大事なお手伝いなんだろうな……」


そう呟いた瞬間、信号が青に変わる。


実莉は再び駆け足になった。


向かう先は――


朝倉陽奈のアパートだった。



ピンポーン。


無事に到着した実莉は、息を整えながらインターホンを鳴らす。


スマホを確認すると、時刻は約束ぴったり。


家の中からパタパタと足音が近付いてくる。


「はーーーい!」


勢いよく開いたドア。


そこに立っていたのは――


すでに浴衣に着替え終えた陽奈だった。


普段は肩下まで伸びた髪を下ろしている陽奈だが、


今日は左右でふんわりとまとめたお団子ヘアになっていた。


浴衣に似合うスッキリとした髪型だった。


「わぁ……陽奈ちゃん、すごく似合ってる。」


玄関先。


薄桃色と白を基調とした浴衣姿の陽奈が、その場でくるりと一回転する。


「ほんと!? よかった、ありがとう!」


揺れる髪飾り。


散りばめられた可愛らしい小さな花柄。


色合いは普段の陽奈のイメージと完全一致。


だが私服とはまた違う雰囲気だった。


「その浴衣、かわいいね。」


実莉が言うと、陽奈は嬉しそうに笑った。


「でしょ?」


「これね、晃が作ったの。」


「え?」


思わず晃を見る。


陽奈の少し後ろ。そこでは白Tシャツ姿の晃が壁にもたれながら立っていた。


「おかえり、実莉さん。」


そう言って軽く手を上げる。


「た、ただいま……」


自分の家に帰ってきたわけではない。


それでも、その一言だけで少し胸が温かくなる。


「これ、高校の頃に作ったやつ。」


晃が陽奈の浴衣を指差す。


「デザイン系の学校だったから。」


まるで大したことではないように言う。


「作ったって……デザインだけじゃなくて?」


「縫製も。夏休みの課題だったから。」


「えぇ……」


実莉は思わず、もう一度浴衣を見る。


綺麗な色使い。


繊細な花柄。


既製品だと言われても疑わない完成度だった。


「すご……」


「晃くんって、本当に何でもできるんだね。」


「別にそんなことない。」


「あるよ。」


陽奈が即答する。


「この人、変なところ器用なんだよねぇ。」


「変なところって何……」


晃が呆れたように言う。


「あ、違う違う!」


陽奈が慌てて言い直す。


「家事とかめっちゃ器用にこなす! 優秀な弟!」


晃は肩をすくめ、そのまま部屋の奥へ戻ろうとする。


そんな姉弟のやり取りを見ながら、実莉は小さく笑った。


陽奈が纏う、晃の手作りの浴衣。


鮮やかだけれど派手すぎない。


主張しすぎない柄。


まるで着る人自身を主役にするために、あえて落ち着いたデザインにしたかのようだった。


ぼんやりと眺めているうちに――


ぽつりと、本音が零れる。


「いいな……」


「え?」


陽奈が目を丸くする。


同時に、部屋へ戻ろうとしていた晃も振り返った。


「あ……」


しまった。


慌てて口を押さえる。


「いや、違っ……!」


「その、羨ましいなって。」


「自分のために作ってくれる人がいるって、なんか素敵だなって思って。」


誤魔化すように笑う。


少しだけ気まずい沈黙。


すると――


「じゃあ作るよ。」


晃が言った。


「……え?」


「実莉さんの分。」


視線が合う。


相変わらず感情の読みにくい表情。


だけど、その言葉だけは妙に真っ直ぐだった。


「来年は。」


その瞬間。


時間が止まったような気がした。


来年。


来年も。


また一緒に夏祭りへ行く前提みたいな言葉。


胸の奥が、トクンと鳴る。


だがその瞬間。


突然、ラスクロ限定カフェの日の記憶が蘇る。


帰りの駅前の噴水広場。


晃に告白をした女性。源香澄。


『今は彼女を作る気になれないんだ』


『恋愛はしたくない』


香澄に向けて真っ直ぐに放たれた晃の一言が脳内で反芻する。


そうだ。ときめいたらダメだ。


そう言い聞かせながら、実莉は頭を勢いよく振った。


「……い、いいよ! 大丈夫!」


実莉は慌てて笑う。


「浴衣作るのって大変だろうし……」


「まあね。」


晃はあっさり頷いた。


そして。


「でも、実莉さんのなら作りたいかも。」


「っ……」


今度こそ言葉が出なかった。


隣では陽奈が、


「晃って、たまにこういうことサラッと言うんだよねぇ。」


とのんきに笑っている。


本人に自覚はないらしい。


実莉は熱くなった頬を誤魔化すように、玄関の外へ視線を向けた。


「あれ?」


陽奈が横から顔を覗き込む。


「実莉ちゃん、顔赤くない?」


晃に聞こえないくらいの小さな声。


「!?」


思わず顔を隠す。


「あ、赤くない! 暑いだけ……!」


「へぇ〜、そっかぁ。」


陽奈はにやりと笑う。


「晃、天然タラシなところあるから……」


ぼそっと呟く。


「何? どうしたの?」


後ろから晃の声。


「ナンデモナイヨ!」


陽奈は即答すると、そのまま実莉の手を引っ張った。


「さ! リビングはクーラー効いてるよ!」


そのままスタスタと晃の前を横切って、リビングへ向かう。


晃は二人の姿を見つめながら、小さく首を傾げた。



リビングのテレビ前。


ローテーブルの横には、大きな紙袋が置かれていた。


先日、陽奈と実莉が二人で選んだ浴衣のセットだ。


陽奈はそれを持ち上げ、嬉しそうに笑う。


「よし! 実莉ちゃんも浴衣に着替えちゃおー!」


「着替えるって……ここで!?」


「うん。クーラーこの部屋しかつけてないし。」


当然のように答える陽奈。


「え……でも……」


実莉の視線が向く先。


キッチンでは晃が麦茶を用意していた。


リビングの様子は丸見えである。


「あー!」


陽奈がようやく気付く。


「ちょっと晃! あんたはあっちの部屋で待ってなさい!」


「え? 別に見ないけど。」


「そういう問題じゃない!」


陽奈が即ツッコミ。


「女子更衣室で麦茶用意する人がどこにいるの!」


「いつから女子更衣室になったんだよ。」


そう言いながらも、晃は麦茶だけテーブルへ置いた。


「適当に飲んでね。」


「あ、ありがとう。」


「はい! 用事終わったんだから向こう行く!」


陽奈に背中を押されながら、晃はリビングを後にする。


「えー……暑いから嫌なんだけど……」


締め出されたドアの向こうから不満そうな声が聞こえる。


その足音が遠ざかっていった。


「なんか、ごめんね?」


実莉が申し訳なさそうに言う。


「え? いいのいいの!」


陽奈は笑う。


「女子の着替える空間に居座るやつが悪い。」


「そんなことより――」


浴衣を実莉へ差し出す。


「着替えるよ、浴衣!」


嬉しそうな陽奈につられて、実莉の気持ちも少しずつ高まっていく。


久しぶりの浴衣。


夏祭り。


数時間後には屋台を回って、


そして花火を見上げている。


「そうだね。」


浴衣を受け取り、実莉は大きく頷いた。


夏の始まりを告げるような夕暮れが、


窓の外に広がっていた。

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