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《3章迄完結済17万文字突破!》リアルとゲームのギャップが凄いが何故か絵になる美男美女  作者: 小春日和
第3章 夏祭り編

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第45話 相合傘


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メイン5人のリアルとゲームのキャラクター計10人をイラスト化したスタンプセットとなっています。

たっぷり40個入りです。


海斗から夏祭りの誘いが届いてから、一週間ほどが経ったある日の夕方。


都内の広告代理店オフィス。


少し早めに仕事が片付いた実莉は、珍しく定時で帰れそうだった。


普段なら素直に嬉しいはずなのに、今日はそうでもない。


実莉は小さくため息をつきながら、オフィスの窓の外へ視線を向けた。


夏至が近づくこの季節。


本来ならまだ明るい時間帯だ。


だが今日は違った。


「あーあ、まだ降ってる……」


六月初旬。


今年は暑くなるのが早かった分、梅雨入りも例年より少し早かったらしい。


昼過ぎから降り始めた雨は、いつの間にか雷を伴う激しい雨へと変わっていた。


分厚い雲に覆われた空は、夕方前だというのに薄暗い。


「こんな中帰るの嫌なんだけど……」


スマホで雨雲レーダーを確認する。


だが、雨が止む気配はない。


駅までは徒歩十分ほど。


雷雨の中を歩くには少し遠い距離だった。


タクシーを使おうかとも思った。


しかし、オフィス前のロータリーを見下ろし、タクシー待ちの長蛇の列を見た瞬間、その考えは消えた。


今日は曇り予報だった。


傘を持ってきていない人も多いのだろう。


幸い、実莉は折りたたみ傘を持っている。


ただ――。


「歩くか……」


そう呟き、オフィスの窓際から離れ、エレベーターへ向かう。


エントランスホールに降り、


鞄から取り出したのは、普段日傘として使っている小さめの折りたたみ傘だった。


普通の雨なら十分。


だが今日の豪雨相手では、正直心許ない。


実莉が困ったように傘を見つめていると――。


「のん先輩!!」


エントランスに響く大きな声。


驚いて振り返る。


少し離れた場所から、大きく手を振りながら駆け寄ってくる男性社員の姿があった。


茶色がかった癖っ毛。


人懐っこい笑顔。


180センチ近い長身。


どこか大型犬を思わせる雰囲気の青年。


国崎翔馬だった。


「のん先輩っ……!」


ようやく追いついた国崎は肩で息をしながら笑う。


「良かった……! 間に合った!」


「そんな大声で何回も呼ばなくても聞こえてるから。」


呆れたように実莉が言う。


「いや、エレベーター乗る直前にも呼んだんですけど無視されたんで!」


「ごめんそれは聞こえなかった。」


「だから今回は大声で呼びました!」


「もしかして……」


実莉が目を丸くする。


「階段使って降りてきたの?」


「うっす!」


「体育会系すぎる……」


「褒め言葉ですよね?」


ケラケラ笑う国崎。


「そんなことより。」


国崎は実莉の手元の小さな傘を見る。


「のん先輩、この天気の中、その傘で帰るつもりですか?」


「そうだけど……」


「だめです。」


即答だった。


「絶対びしょ濡れになります。」


そう言いながら、国崎は自分の持っていたビニール傘を差し出す。


「入ってください。俺の傘に。」


「……へ?」


あまりに自然な申し出に、変な声が漏れる。


「嫌ですか?」


少しだけ不安そうに覗き込んでくる。


「あ、いや……! 嫌じゃないんだけど!」


実莉は慌てて首を横に振った。


「気持ちは嬉しいんだけど、

そんなことしたらくにも濡れちゃうでしょ?」


「全然大丈夫です」


国崎は即答する。


「むしろ入ってくれた方が嬉しいかもしれないですし……」


「え?」


「あ、いや、その……」


国崎は視線を逸らした。


「のん先輩のために濡れるなら本望です。」


「なにそれ」


思わず実莉が笑う。


つられるように国崎も照れ笑いを浮かべた。


「行きましょうか。」


国崎が傘を開く。


「駅まで。」


「……じゃあ、お言葉に甘えようかな。」


軽く頭を下げ、実莉は傘の中へ入った。


二人は並んで歩き始める。


雨脚は相変わらず強い。


風が吹くたび、濡れないよう自然と距離が近づいた。


(近っ……)


国崎の心臓がうるさい。


隣を見る。


肩まで伸びた艶やかな赤い髪。


整った横顔。


ふわりと香る柔軟剤の匂い。


――俺、今のん先輩と相合傘してるじゃん。


そう実感した瞬間、国崎は慌てて前を向いた。


普段ならいくらでも話題が出てくる。


なのに今日は何も出てこない。


聞こえるのは雨音だけ。


しばらく沈黙が続いた。


「ほんと、ごめんね。」


そんな中、先に口を開いたのは実莉だった。


「巻き込んじゃって。」


「リュック濡れちゃうでしょ?」


そう言いながら、傘を少し国崎側へ押し戻す。


指先が触れた。


「あっ……」


トクン。


国崎の心臓が跳ねる。


しかしすぐに我に返る。


「だめです。」


国崎は慌てて傘を実莉側へ戻した。


「俺の荷物より先輩優先です。」


「でもノートパソコン入ってるでしょ?」


「防水加工なんで大丈夫です。」


「でも――」


「大丈夫です。」


また押し返す。


また戻される。


数回繰り返したところで――。


「ふふっ。」


「何してるんだろう、私たち。」


「俺も分かんないです。」


二人同時に笑った。


結局、傘は二人の真ん中に落ち着いた。


そしてまた沈黙。


しばらくして。


「いつもごめんね。」


実莉がぽつりと言った。


「え?」


「気を遣わせてばっかりだなって思って。」


「この前だって、落ち込んでた時にお昼誘ってくれたし。」


「今日だって傘入れてくれたし。」


「ほんと気の利く後輩だなって思っちゃう」


少しだけ照れくさそうに笑う。


「でもさ、」


「今日の天気予報だけで、こんな大きな傘持ってきてるなんて、ほんと用意周到だね。」


「私は折りたたみ傘しか持ってこなかった。」


「まさか準備の面で、くにに負けるとは思わなかったなぁ。」


「いやいや。」


国崎は苦笑した。


「俺、今日傘持ってきてなかったですよ。」


「これはロッカーに置いてた置き傘です。」


「なーんだ。」


実莉が笑う。


「じゃあ、くにも普通に忘れてきてたんじゃん。」


「なんか安心した。」


「え、ひどくないですか?」


「思ったこと言っただけ」


楽しそうに笑う実莉。


その横顔を見ながら、国崎は思う。


もし今日、本当に傘を持ってきていたら。


先輩に一本渡して終わっていたのだろうか。


そっちの方がスマートだったのだろうか。


――いや。


たぶん違う。


もし二本持っていたとしても。


きっと俺は、一緒に入ろうって言っていた。


(何考えてんだ俺……)


慌てて首を振る。


「良かった。」


実莉が前を見る。


「無事着いたね。」


駅の明かりが見えてきていた。


「っすね。」


もう少しだけ。


この時間が続けばいいのに。


そんな小さな願いは、


傘に跳ね返る雨の音に飲み込まれていく。


「ありがとう。」


改札前の屋根の下。


実莉が笑う。


「本当に助かった。」


「いえ。」


国崎は畳んだ傘を軽く振った。


「もし良かったら――」


先輩の最寄り駅からも傘、さしましょうか。


そう言おうとした、その時だった。


「実莉さん?」


後ろから声が聞こえる。


振り返る。


グレージュのマッシュヘア。


前髪の隙間から眠たそうな綺麗な二重が覗く。


朝倉晃だった。


「あ、晃くん!?」


晃くん。


互いを名前で呼び合う親しげな距離感。


その光景を見た瞬間。


チクリ


国崎の胸が、なぜか少しだけ痛んだ。

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