第36話 お揃いマグカップ
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「何の話してんの????」
突然響いた陽奈の声に、男子三人が一斉に振り向いた。
完全に話へ集中し過ぎていた。
そこには大量のグッズが入った買い物袋を抱えた実莉と、きょとんと首を傾げる陽奈の姿があった。
実莉は満足そうな顔をしている。
対して陽奈は少し不思議そうだった。
突然全員から注目されたせいである。
「え、何?」
陽奈が目をぱちぱちさせる。
晃。
海斗。
拓郎。
三人とも微妙に固まっていた。
陽奈はそんな様子に違和感を覚える。
「今さ」
「ハルって名前聞こえた気がしたんだけど」
その一言に。
男子勢三人は同時に顔を見合わせた。
(バレてなかったな)
誰も口には出さない。
だが全員が同じことを思っていた。
安堵である。
最初に動いたのは拓郎だった。
「気のせいです」
あまりにも自然な返答。
顔色一つ変えない。
完璧なポーカーフェイスだった。
陽奈は少し首を傾げる。
だが。
「……そっか」
拓郎の落ち着いた様子を見て納得した。
丸め込めた。
実に簡単だった。
「そんなことより聞いてよ!」
陽奈が話題を変える。
「実莉ちゃんがマグカップ五個も買ったんだよ!?」
「増えてる」
「増えてるな」
「増えてますね」
晃、海斗、拓郎のツッコミが綺麗に重なった。
「え?」
陽奈が目を丸くする。
「なんで分かるの?」
「上から見てましたので」
拓郎が窓を指差した。
全員の視線がマジックミラーへ向く。
「あーーそっか」
「マジックミラーだったねここ」
陽奈はようやく思い出した。
「もう大変だったんだから」
疲れた様子で肩を落とす。
しかし。
その隣では。
「今日の任務は無事完了よ」
実莉が誇らしげに胸を張っていた。
完全勝利の顔だった。
「でもさ」
海斗が買い物袋を見る。
「流石に五個は買い過ぎだろ」
「予備の予備!」
フンッと鼻を鳴らす実莉。
ドヤ顔である。
海斗は呆れたように笑う。
だが次の瞬間。
何かを思いついたような顔になった。
「あ、じゃあさ」
そう言って実莉の買い物袋へ手を伸ばす。
「ちょ、何!?」
実莉が慌てる。
しかし海斗はお構いなしだった。
袋の中からマグカップを一つ取り出す。
「あっ」
実莉が手を伸ばす。
だが海斗の腕の方が長い。
届かない。
奪還できない。
そのままマグカップは晃の前へ運ばれた。
「え?」
今度は晃が戸惑う。
「どういうこと?」
「予備の予備なんでしょ?」
海斗は晃の肩へ腕を回した。
そして限定マグカップを押し付ける。
「それなら晃に持っててもらいな?」
「!?」
実莉が固まった。
否定したい。
返してほしい。
そう思っているはずなのに。
なぜか言葉が出てこない。
「家に五個もあったら置き場所困るだろ?」
「晃は結構しっかり者だし」
「安心して託せるぞ?」
「ぐっ……」
完全に言葉を詰まらせる。
数秒の沈黙。
そして。
「まあ……一個くらいなら……」
案外あっさり認めた。
その場にいた全員が同じことを思う。
(認めるんだ……)
実莉はチラリと晃を見る。
目が合う。
「まあ、実莉さんがそれでいいなら……」
晃はそう言ってマグカップを受け取った。
そして。
「ありがとう」
素直に礼を言う。
反射的に実莉が返した。
「とんでもないよ」
首をぶんぶん横に振る。
顔は少し赤かった。
そんな二人を見て。
海斗がニヤニヤする。
「ひゅー、お揃い〜」
「「そういうのでは無い」」
見事に重なった。
しかも真顔だった。
「ちぇっ」
海斗はつまらなそうに口を尖らせる。
完全に子供である。
その様子に陽奈が吹き出した。
「海斗さん絶対そういうの好きだよね」
「好き」
即答だった。
「面白いから」
「最低だ」
晃が呆れる。
そんな賑やかな時間も一段落した頃。
拓郎がテーブルを見渡した。
空になったグラス。
購入済みのグッズ。
時間もそれなりに経っている。
「では、そろそろお開きですかね」
その言葉に。
「そうだね〜」
陽奈も頷く。
すると。
「あ、その前に」
海斗がポケットからスマホを取り出した。
「ゲームだけの繋がりだと色々不便だから」
「そろそろ全員で連絡先交換しときたいんだけど」
そう言ってテーブル中央へスマホを置く。
画面にはLIMEのQRコードが表示されていた。
「確かにそれもそうですね」
拓郎もスマホを取り出す。
それにつられるように全員がスマホを出した。
ピッ。
ピッ。
読み取り音が続く。
ゲーム内だけだった繋がりが。
少しずつ現実へ広がっていく。
そんな中。
海斗が陽奈のLIMEアイコンを見て声を上げた。
「へぇー」
「かわいいー」
アイコンにはデフォルメされたうさぎのキャラクターが使われていた。
淡い色合いで。
どことなく陽奈らしい。
「ありがとありがと〜」
陽奈はスマホを操作しながら適当に返事をする。
明らかに流している。
だが海斗は気にしない。
「これ自分で選んだ?」
「うん」
「センスいいじゃん」
「ありがとありがと〜」
相変わらず雑だった。
「ほんとに聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「絶対聞いてないだろ」
「聞いてるってば!」
二人のやり取りは妙に自然だった。
「そんな事よりさ、」
陽奈が海斗のプロフィール画面を開き、みんなに見せる。
「海斗さん、苗字ターニッシュって言うんだね」
「あ、苗字言ってなかったっけ?」
海斗は4人に向き直り、片手を胸に当てる。
そして
軽くお辞儀をしながら冗談ぽく言う。
「ターニッシュ海斗です、以後お見知り置きを」
聞きなれない名前に、その場の4人が首を傾げた。
陽奈が言う。
「なんか」
「タニシみたい」
「タニシ????」
独特な感性に、その場の全員が一斉に笑う。
「失礼だな?初めて言われたよ。」
予想の斜め上を行く発言に肩を竦める。
「まあでも。
ひなちゃんになら、なんて呼ばれてもいいよ」
「じゃあタニシって呼んじゃうよ?」
「その代わり俺も、姫って呼ぶからね?」
その一言に、一気にドン引いた顔になる陽奈。
「絶対いやだ…」
「そういう発言、タニシというよりかもはやタラシなんだよ」
「あ、確かに!」
実莉が同意する。
「酷くない??」
気付けば冗談を言い合い、
笑い合っている海斗と陽奈。
その様子を見て、
拓郎はそっと腕を組む。
そして心の中で呟いた。
(なるほど)
晃を見る。
鈍感。
とにかく鈍感。
恋愛に疎すぎるタイプだ。
あれでは恋愛が進展するのに時間が掛かるだろう。
次に海斗を見る。
こちらは真逆だった。
距離感が近い。
褒めまくる。
笑わせる。
自然に会話へ入り込む。
だが。
(積極的過ぎるんですよね)
初対面でも距離が近い。
誰にでも優しい。
誰とでも仲良くなる。
その結果。
恋愛対象として見られる前に。
「この人こういう人なんだな」
で終わる可能性が高い。
むしろ女たらし認定されてもおかしくない。
(晃さんは鈍感過ぎる)
(海斗さんは積極的過ぎる)
(極端なんですよね……)
拓郎は内心ため息を吐いた。
その時。
「拓郎さん何見てるの?」
陽奈が声を掛ける。
「いえ」
拓郎は微笑んだ。
「皆さん面白いなと」
「何それー」
陽奈がふふっと笑った。
それにつられたように全員が笑う。
そんな様子を見ながら。
拓郎は改めて思った。
ゲームの中で始まった縁だった。
けれど。
きっとこの関係は
もうゲームの中だけでは終わらないのだろう、と。
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