第32話 限定メニューと間接キスと
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専用入口から入り、少し歩く。
VIP席へ案内された五人。
個室になっており、外の喧騒も少し遠い。
部屋の奥には大きな窓があり、そこからはカフェ店内の様子が一望できるようになっていた。
「丸見えじゃん」
窓際へ歩み寄りながら晃が言う。
「マジックミラーですので、店内からはこちらは見えません」
拓郎が淡々と答えた。
「ほんと、抜かりないな……」
晃が感心したように呟く。
店内では開店直後にも関わらず、たくさんの人で賑わっていた。
グッズ販売スペース。
イートインスペース。
記念撮影スペース。
どこを見ても人、人、人。
まさに大盛況だった。
実莉と陽奈も窓際へ近付く。
「あっ!ホワイトドラぴこのマグカップがある!」
グッズ売り場の棚を指差しながら、実莉の目が輝いた。
「え、あんな小さいのよく見えるね……」
晃が目を凝らす。
「さすがドラぴこファン……」
「私全然見つけられないんだけど……」
陽奈も同じ方向を見ながら首を傾げる。
「やっぱ五年間ホワイトドラぴこ推してる人は違うね……」
「……え、今引いたよね?」
実莉が振り返る。
すると。
「「ヒイテナイヨ」」
陽奈と晃が同時にインコみたいな声を出した。
「絶対嘘じゃん!!」
「あと姉弟揃って同じ反応するのやめて??」
実莉が即座にツッコむ。
「おー、美味そう」
そんな仲間達をよそに、
海斗は既に丸テーブルへ腰掛け、メニュー表を開いていた。
「マイペースか」
窓際にいた四人のツッコミが一斉に飛ぶ。
「一旦メニュー選びますか」
拓郎が席へと促した。
「後で絶対ホワイトドラぴこのマグ欲しい……」
実莉が名残惜しそうに窓を見る。
「はいはい。ちゃんとご用意しますので」
拓郎が軽く流した。
「拓郎まで呆れ始めた!」
実莉は一人だけ不服そうだった。
何だかんだ全員が席へ着く。
テーブルには人数分の限定メニュー表。
全員が真剣な顔で眺めていた。
「悩むな……」
実莉が呟く。
「全部美味そう」
晃も珍しく迷っていた。
そんな中。
拓郎だけは迷いがなかった。
「私はこれですね」
そう言って指差す。
【ラスクロお子様ランチ】
沈黙。
全員が拓郎を見る。
メニューを見る。
もう一度拓郎を見る。
「子ども用じゃん」
晃が言う。
「ええ」
「拓郎さん食べるの?」
実莉も聞く。
「当然です」
真顔だった。
「なんで?」
陽奈が聞く。
「私が提案したメニューですから」
「仕事じゃん」
海斗が引き気味に言う。
その場の全員も頷いた。
完全に満場一致だった。
「仕事ではありません」
拓郎は真顔で否定する。
「評価です」
「それを仕事って言うんだよ」
晃が即ツッコミを入れた。
⸻
注文が決まる。
拓郎
【ラスクロお子様ランチ】
海斗
【灼熱のイグニスレイド激辛カレー】
「……俺これ頼んでないんだけど?」
海斗が言う。
「なかなか決まらなさそうでしたので、代わりに選んでおきました」
拓郎。
「なんで上から???」
「そして辛いの苦手なんだけど??」
「ゲームの世界だけでなく、現実でもイグニスを攻略したくありませんか?」
「……俺が食べるしかない」
すぐ乗せられる海斗であった。
晃
【ドーナツオムライス】
「あー!これゲーム内で作れるやつだ!」
陽奈が身を乗り出す。
「そうそう」
「実際に食べられるの結構アツい」
晃も少し嬉しそうだった。
「それで言うと私もゲーム内のやつ頼んだよ!」
そう言ってメニューを見せる。
全員が覗き込む。
陽奈
【ドラゴン肉の丸焼きプレート】
大きな肉の塊の写真が載っていた。
「待って」
実莉が言う。
「絶対食べきれないでしょ」
「いける」
陽奈。
「無理だって」
「今日はお腹空いてる」
「根拠になってない」
そして。
実莉
【ホワイトドラぴこ限定ムースケーキセット】
全員が頷く。
「やっぱり」
実莉は堂々としていた。
五周年イベントでコソコソぬいぐるみを探していた人とは思えない。
「だってホワイトドラぴこだよ?」
当然らしい。
⸻
しばらくして料理が到着する。
「おおー!」
陽奈が目を輝かせた。
巨大なドラゴン肉。
「ほんとに頼んだんだ……」
晃が若干引いていた。
実莉の前にはホワイトドラぴこムース。
白くてふわふわ。
うさ耳付き。
可愛い。
「かわいい……」
実莉が幸せそうに呟く。
その横にはポーション型ボトル。
緑色の限定ドリンク。
実莉はストローで一口飲む。
「美味しい」
満足そうだった。
その時。
横から晃が覗き込む。
「それどんな味?」
「ん?」
「一口ちょうだい」
そして。
自然に。
本当に自然に。
ストローを手に取る。
チュッ。
飲んだ。
「……」
実莉フリーズ。
「お、普通にメロン系かな」
晃。
「美味い」
「けど予想通りの味だな」
「もう少し捻り入れて欲しかった」
運営に文句を言い始める。
「私の担当外です」
拓郎がぷいっとそっぽを向いた。
そんな会話など実莉の耳には入らない。
(え)
(今)
(同じストローで飲んだ)
(関節キスでは??!?!?)
脳内会議開催。
顔が熱くなる。
「実莉ちゃん?」
陽奈が声を掛ける。
「へっ?!」
変な声が出た。
陽奈。
察する。
(あー)
(そういう感じか)
ニヤァ。
「な、なに」
「ナンデモナイヨ」
「今日二回目のインコ登場してる」
誰が見ても何か察している顔だった。
海斗も気付いて少しニヤニヤしている。
「若いねぇ」
「黙ってください」
実莉即答。
晃と拓郎だけは何も気付いておらず、
ポーションドリンクの味について真面目に討論していた。
「そんなにクレームを言うのであれば、差し上げた無料ドリンクチケット返して頂きますよ」
「え、この人卑怯なんだけど」
晃は拓郎を指差して不服そうだったが、
素直に黙った。
⸻
食事を続けながら、
話題は自然とゲームへ移る。
「そういえばさ」
陽奈が言う。
「五周年イベント終わってから」
「ゲームでのみんなの感じ変わったよねぇ」
全員頷く。
「確かに」
実莉。
「特に女子二人変わりすぎ」
晃。
「誰のせいだと思ってるの」
実莉が晃を見る。
五周年イベントで身バレを促した張本人である。
「俺じゃないです」
晃が目を逸らした。
その時。
陽奈が前から気になっていたことを聞いた。
「ねぇ海斗さん」
「ん?」
「なんで貝類だけ全然変わらないの?」
全員が頷く。
確かに。
顔合わせ後も。
貝類だけは。
『おつ』
『了解』
『いく』
相変わらず短文ばかりだった。
「確かに」
拓郎も頷く。
「私は絶対もっと騒がしくなると思っていました」
すると。
海斗が少し困った顔をした。
「あー……」
珍しい。
言葉に詰まる。
「実はさ」
四人が見る。
「俺」
少し間を置いて。
「日本語打つのあんま得意じゃないんだよね」
個室が静まり返った。
チャットの違和感を感じ始めて一ヶ月。
ついにその謎が解き明かされようとしていた――。
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