第20話 オフ会でやってみたかったこと
賑やかなイベント会場の一角。
ベンチと机が並べられた休憩スペースでは、四人の美男美女が向かい合うように座っていた。
机の上には四台のスマホ。
画面にはそれぞれ『LAST CHRONICLE ONLINE』が映し出されている。
そして表示されているのは――
ハル。
アキ。
すい♡。
貝類。
五年間一緒に遊んできた仲間たちのキャラクター達だった。
全員がしばらく無言で画面を見つめる。
「なるほど……」
ぽつりと陽奈が呟く。
「こうやって見ると、ほんとに会えたんだなって実感するなぁ」
頬杖をつきながら言う。
海斗が吹き出した。
「えー、今更?」
「実際の人だけ見てても、そんなに実感湧かなかったんですから」
「まあ、それは分かるかも」
実莉も小さく頷く。
ゲームの中で毎日会っていた相手。
なのに現実で会うと別人すぎる。
頭では理解していても、まだどこか夢みたいな感覚が残っていた。
すると。
「あっ!」
突然陽奈が声を上げた。
全員の視線が集まる。
「どうした?」
晃が聞く。
陽奈はニヤッと笑った。
「ちょっとやってみたかったことがあるんだけど……」
──────
…一方その頃
イベントスタッフ専用休憩室。
「ふぅ……」
一人の男がパイプ椅子へ腰を下ろした。
外からはイベント会場の賑わいが微かに聞こえてくる。
他には誰もいない。
静かな空間だった。
手入れされた短髪の黒髪。
首から下げられたスタッフ名札。
黒縁眼鏡を外し、イベントTシャツの裾で丁寧にレンズを拭く。
再び掛け直す。
その動作でチラリと見えた腹筋は程よく鍛えられていた。
峯拓郎。
武闘大会のデモンストレーションを終え、ようやく一息ついているところだった。
ペットボトルを開ける。
水を飲む。
その時。
ガチャ。
「お疲れ様です」
ドアが開いた。
入ってきたのは同じスタッフTシャツを着た男性。
今朝、デモンストレーションの代役を頼んできた後輩だった。
「あぁ、杉田。お疲れ様」
「急なお願いだったのにありがとうございました」
杉田と呼ばれた男が頭を下げる。
肩まである黒髪を団子にまとめた青年だった。
「問題ない」
「デモンストレーション凄かったですね」
杉田が笑う。
「なんかマッシュヘアのイケメンが出てきたとかで女子スタッフが騒いでましたよ」
そう言いながら自販機で水を買う。
(まあ、素人相手に本気出しすぎとは言えないけどな)
杉田は内心そう思った。
水を取り出し、拓郎の隣へ座る。
「……そうか」
拓郎は短く答えた。
そしてふと
晃との試合を思い出す。
ほんの少しだけ。
口元が緩んだ。
杉田の動きが止まる。
(え……)
(今笑った……?)
非常にレアである。
明日雪でも降るんじゃないかと思った。
その時。
再びドアが開く。
「杉田さん!すみません!」
呼び出しだった。
「あー…すぐ行く」
杉田が立ち上がる。
「今日は俺、一応イベント運営統括補佐なんで」
そう言って苦笑した。
「大変だな」
「まあ、そういう仕事ですから」
軽く頭を下げる。
そして出て行こうとしたところで振り返った。
「あ、そうだ」
「このあと武闘大会担当のスタッフ来るらしいので」
寝坊だったらしいが…それは黙っておく。
「拓郎さんは休んでてください」
「昨日も会社泊まりだったんですから」
「わかった」
「後は任せる」
杉田は部屋を出て行った。
再び静寂。
拓郎は時計を見る。
少し時間ができた。
晃との約束を思い出す。
「武闘大会終了後に粗品をお渡しします」
そう伝えた。
だが
ふと気付く。
「……あ」
連絡先。聞いていない。
自分の名刺だけ渡し、晃の連絡先を聞きそびれた。
完全なミスだった。
「どうしたものか……」
頭に手をやる。
普段ならあり得ない。
疲れているのかもしれない。
それに。
まさか五年来のゲーム仲間と出会うなど予想もしていなかった。
少なからず動揺もあった。
考えた末。
スマホを横向きにする。
ラスクロ起動。
ゲーム内チャットなら連絡できる。
ログイン。
フレンド一覧。
アキ。
オンライン。
拓郎は少しだけ安堵した。
チャットを開こうとする。
その瞬間。
『すい♡からパーティ招待が届きました』
「?」
何となく承認。
画面が切り替わる。
そこにいたのは。
ハル。
アキ。
すい♡。
貝類。
いつものメンバーだった。
だが…どこか様子がおかしい。
⸻
海斗
「拓郎さん!ちょっとお借りしますね!」
普段素っ気なく文章も短い男から謎の敬語。
気味が悪い。
⸻
ハル
「よろ」
「そっちガードして」
普段の柔らかなイメージからは
到底想像のつかないほどの無愛想なチャット。
⸻
すい♡
「ちょ、操作ムズ」
♡が無い。
しかも矢が変な方向へ飛んでいる。
おかしい。
⸻
アキ
「あっ♡」
「やだ♡」
♡
が付いている。
…拓郎は真顔になった。
先程武闘大会で戦った
グレージュマッシュの猫系イケメン朝倉晃。
その顔が脳裏に浮かぶ。
しかし。
今目の前では。
アキが♡を飛ばしている。
「……気持ち悪いな」
誰もいない休憩室でぽつりと呟いた。
しばらく画面を見る。
そして察した。
「なるほど」
キャラクター交換をしているのか。
それなら全く統制の取れていないこの戦い方にも納得がいく。
____________
その頃。
休憩スペース。
四人は大盛り上がりだった。
陽奈の提案。
それは。
「みんなのキャラクター操作し合いっこしない?」
ゲームオフ会あるあるである。
全員即賛成。
結果。
海斗→ハル
陽奈→貝類
晃→すい♡
実莉→アキ
になっていた。
⸻
「いつもの癖で♡付けちゃった……」
実莉が頭を抱える。
晃が笑う。
「五年の癖は急には消えないって」
「うるさい」
実莉が睨む。
そんな睨みを気にする様子もなく、
「何気に弓職初めてなんだよね」
晃が言う。
「ムズいけど面白いな、次弓に転職しようかな」
「やめて」
実莉が即答した。
「それやったら近距離職、拓郎だけになるから」
「ちぇ」
不満そうだった。
⸻
陽奈は少し複雑だった。
今。
自分が貝類を操作している。
赤いマフラー。
黒いコート。
サングラス。
銃を構える姿。
五年間憧れてきた人のキャラクター。
少しだけ緊張する。
そんな隣では。
海斗がハルを操作していた。
「ハル攻撃するときも可愛いなぁ」
完全にタラシ発言である。
そんな時、ハルの画面の通知が光る。
「お?」
海斗が反射でタップする。
「あっ、待ってください!」
陽奈が止める。
だが遅い。
見た時には既にフレンドチャットが開かれていた。
送り主。
鯉という男性キャラだった。
「へぇ?」
海斗が笑う。
「ハル?モテてんじゃん」
「モテてないです!この人、しつこいんです」
陽奈は横から自分のスマホに手を伸ばし、
即座にチャットを閉じた。
「強引だねぇ」
ニヤッと笑う海斗。
「変な言い方しない」
⸻
「そういや」
陽奈と海斗の話を聞いていた晃が言う。
「すいの方にも鯉からの連絡来てたわ」
「えっ!?」
実莉が晃を見る。
「見たの!?」
「通知光るから」
「勝手に見る理由になってない!」
すると。
今度はアキにも通知。
送り主。
鯉。
その場にいる全員が固まる。
「女子キャラ全員に送ってんじゃん」
海斗がケラケラ笑う。
全員呆れた。
ゲームあるあるである。
「ちなみに」
海斗が言う。
「俺ゲームで一回も口説かれたことないんだけど」
「「怖がられてるからでしょ」」
実莉と晃が即答した。
「ひど」
⸻
その時。
拓郎からチームチャットが届く。
『全員、イベント会場で出会ったようですね』
バレている。
『アキさん』
『先程連絡先を聞きそびれてしまいました』
『私の自由時間が出来ましたので、お時間ある時にスタッフ専用入口まで来てください』
チャットを見た瞬間。
全員が一斉に晃を見た。
沈黙。
そして。
陽奈が顎に手を当てる。
「……密会?」
「違うわ」
即否定だった。
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