第15話 5年間見てきた癖
晃と拓郎のデモンストレーションを終えた後も
武闘大会会場はまだ熱気に包まれていた。
そんな盛り上がりを背に
朝倉陽奈は一人、本日の目的を遂行するためイベント会場を彷徨っていた。
貝類探索である。
スマホを横向きにする。
慣れた手つきでラスクロを起動。
ログイン。
フレンド一覧。
迷うことなくスクロールする。
そして開く。
『貝類』
プロフィール画面。
そこには見慣れた銃士の姿があった。
いつもと違う部分といえば
イベント来場者限定の誕生日コスチュームを着ているところ。
間違いない。
確実に会場へ来ている。
だが。
ステータス表示はオフライン。
最終ログイン履歴。
三十分前。
「さっきまでログインしてたんだ…」
陽奈は小さく呟いた。
三十分前。
つまり
まだ会場のどこかにいる可能性が高い。
いや。
絶対いる。
そう思いたかった。
「急がなきゃ……」
胸の奥が焦る。
晃と実莉、二人には申し訳ない。
だが今は
どうしても優先したいことがあった。
貝類。
五年間一緒に戦ってきた相手。
会いたかった人。
今日はそのために来たのだ。
「それにしても……」
周囲を見回す。
「ほんと大規模なイベントだなぁ……」
思わず感心してしまう。
広大な会場。
凝った装飾。
大量のスタッフ。
どこを見ても人、人、人。
人気ゲームなのは知っていた。
だが
実際に見ると想像以上だった。
人波に押される。
知らない誰かと肩がぶつかる。
気付けば
陽奈の足は止まっていた。
「これ……見つけられんのかな……」
弱音が漏れる。
こんなに広い会場。
何万人もいる参加者。
顔も知らない相手。
本当に見つかるのだろうか。
だが
諦めたくなかった。
五年間。
一緒に戦ってきた。
誰よりも一番長く
貝類を見てきた自信がある。
無愛想な返事。
時々見せる優しさ。
レイド中の冷静な判断。
完璧な射撃。
全部知っている。
気付けば
貝類のことを考えない日は無くなっていた。
推しというものなのか。
単なる憧れなのか。
それとも…。
まだ分からない。
だからこそ。
今日
確かめたかった。
もし会えるなら。
もう二度とないかもしれない機会だから。
「……やっぱ諦めない」
陽奈は小さく笑った。
そして再び歩き出す。
その時だった。
視界の斜め前。
大きな人だかりが見えた。
武闘大会会場にも負けない盛り上がり。
「すげぇ!!」
「また更新した!」
「ほぼ全部命中してんじゃん!」
「誰だよあのイケメン!」
観客達が騒いでいる。
なんだろう。
気になった陽奈は自然と
声のする方へゆっくりと足を向けていた。
歩き出す。
気付けば歩く速度がどんどん上がる。
吸い寄せられるようだった。
たどり着いた先。
そこはリアルレイド体験エリアだった。
巨大スクリーン。
模擬武器。
ドラゴン討伐タイムアタック。
ランキング形式のアトラクション。
だが…
「見えん…」
まさかこんな所で自分の身長を恨むことになるとは。
人だかりが壁となりよく見えない。
陽奈はつま先に力を入れ、ぐんっと背伸びをした。
一瞬だけ
ランキングが見える。
⸻
1位
KAITO
⸻
「かいと……?」
聞き覚えのない名前。
その瞬間。
再び大歓声が上がった。
陽奈もつられて視線を向ける。
歓声の先。
そこに一人の男性がいた。
高身長。
癖っ毛パーマ風の栗色の髪。
目元にかかる長めの前髪。
時折見える横顔。
高い鼻。
綺麗な輪郭。
上から二つ目のボタンまで開いた黒いシャツ。
首元ではシルバーのネックレスが光っている。
誰が見てもこう思う。
(イケメンだ…)
陽奈も例外ではなかった。
「やばぁ……」
陽奈は思わず目を見開く。
どうやらあの男性がKAITOらしい。
その時
男性が銃を構えた。
スクリーン内。
ドラゴン型モンスターが出現する。
パンッ。
乾いた銃声。
続けて二発。
パンッ。
パンッ。
歓声。
ダメージ表示。
ランキング更新。
陽奈は固まった。
「……え?」
もう一度。
男性が撃つ。
無駄がない。
派手さもない。
だが
異常なほど正確だった。
パンッ。
パンッ。
パンッ。
一歩横へ移動。
そして即座に発砲。
「……あれ」
胸がざわつく。
見覚えがあった。
また撃つ。
三発。
少し位置を変える。
敵の動きを先読みして即座に発砲。
「うそ……」
心臓が跳ねる。
知っている。
この戦い方。
何百回も見た。
レイド。
ボス戦。
ランキングイベント。
ギルド戦。
五年間。
何千回も。
画面越しに見てきた。
貝類の癖。
三発撃った後の位置取り。
敵の動きを完璧に読んだ照準。
無駄弾を撃たないところ。
全部。
全部同じだった。
「……え」
陽奈は視線が離せなくなる。
男性が再び銃を構える。
ドラゴンの頭部。
弱点。
迷いなく撃つ。
パンッ。
『CRITICAL』
巨大な文字。
会場が沸く。
歓声。
拍手。
ランキング更新。
⸻
1位
KAITO
⸻
その瞬間だった。
陽奈の中で全てが繋がる。
名前に入る「かい」の文字。
銃使い。
そして。
この戦い方。
五年間、誰よりも見てきた。
だから分かる。
絶対に間違えない。
陽奈の唇が震えた。
「あれは……」
目の前の男性から目が離せない。
「あれは……」
鼓動が速くなる。
そして確信した。
「貝類さんだ」
違ったらどうしよう。
勘違いだったらどうしよう。
そんな考えは。
その瞬間全部吹き飛んだ。
五年間。
会いたかった人。
やっと見つけた。
気付けば
陽奈の足はもう動いていた。
人混みを掻き分ける。
一直線に進む。
KAITOへ向かって。
リアルレイド終了。
歓声の中。
男性が銃を下ろす。
そして振り返る。
その瞬間。
陽奈は目の前まで来ていた。
息が上がる。
心臓がうるさい。
でも止まれない。
陽奈は勢いのまま声をかけた。
「あの!!」
突然呼び止められた男性が振り返る。
長いまつ毛。
切れ長の目が見開かれる。
欧州を思わせる色素が薄めの彫り深い顔立ち。
近くで見ると想像以上だった。
だが
そんなことより
確認したいことがあった。
陽奈は勢いのまま声を出す。
「ハルって、分かりますか!!?」
会場の喧騒が
一瞬だけ遠くなった気がした。
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