第13話 拓郎、現る
グッズ販売ブースへ向かう三人。
実莉の本日の目標。
ホワイトドラぴこ。
それがどんどん近付いてくる。
胸が高鳴る。
足取りが軽い。
視界の先にはドラぴこの巨大看板。
限定グッズの文字。
ホワイトドラぴこ。
私のホワイトドラぴこ。
ホワイトドラぴこ。
ホワイトドラぴこ。
気付けば。
スタスタスタスタ。
歩く速度がどんどん上がっていた。
さらに加速する。
そして……
「ちょっ!」
グイッ。
腕を掴まれる。
「走んなくてもよくない??」
晃だった。
その瞬間。
実莉は我に返る。
「あ」
止まる。
周囲を見る。
自分が全力疾走していたことに気付いた。
少し離れた場所。
「はぁっ……」
「はぁっ……」
「ちょっと待って……」
陽奈が息を切らしながら追い付いてくる。
運動音痴である。
足が遅い。
「姉ちゃんほんと体鍛えて」
「うるさい……」
「イベントで走ること想定して生きてないの……」
「……というかまさかロングブーツ履いた女の子がこんなに足速いとか誰も予想できないでしょ……」
対照的に晃は平然としていた。
息一つ乱れていない。
実莉の無意識ダッシュにも余裕で付いて来ている。
「ご、ごめんなさい……」
乱れたトレンチコートを整える。
少し恥ずかしい。
「気にしないで」
晃が笑う。
「好きなんだね、ドラぴこ」
「えっ!?」
実莉が目を丸くした。
「なんで分かったの!?」
先程グッズ販売見に行こうとは言ったけど、
ドラぴこの名前は出てなかったはず。
「だって」
晃が真顔で答える。
「ドラぴこって言いながら走ってたから」
沈黙。
(自分の無意識怖)
実莉は真剣にそう思った。
「可愛いもんねぇ、ドラぴこ。わかるわかる」
陽奈も頷く。
そして。
ふと思い出したように言う。
「そういやさ」
「うちのギルドの可愛い女の子もドラぴこめっちゃ好きなんだよね」
ビクッ。
実莉の肩が跳ねる。
「あー」
晃が頷く。
「すいのことか」
ビクビクッ。
肩が二回跳ねた。
「そぉそぉー!」
陽奈が楽しそうに笑う。
「無事ゲット出来てるかなー?」
「てかこの会場来てるのかなー?」
「案外会えるかもな」
晃が言う。
「ひぇぇぇ」
陽奈が肩を縮めた。
「それはそれで心の準備が……」
そんな2人の会話を聞きながら。
います。
あなた方の目の前に。
もう会ってます。
実莉はそう思った。
「ドラぴこ人気高いんだなぁ、可愛いんだもの」
動揺しすぎている実莉。
詩人みたいな口調になる。
「今みのをさん居た???」
陽奈がツッコむ。
「居ない?」
「居たよね?」
「居たな」
晃も頷く。
「居ません」
実莉は即答した。
◇
そんなこんなで。
ついにグッズ販売ブース目前。
ホワイトドラぴこ。
あと少し。
あと少しで目的達成。
その時だった。
ドォン!!
大音量。
会場全体が揺れる。
巨大スクリーンが点灯した。
「お?」
「なんだ?」
周囲がざわつく。
スクリーンへ映し出される文字。
【ラスクロ武闘大会開催】
おおおおお!!
歓声。
拍手。
観客が一斉にスクリーンへ向く。
「へぇ」
晃が珍しく興味を示した。
「面白そう」
「あー」
陽奈が思い出したように言う。
「晃PvP好きだもんね」
PvP。
プレイヤー同士で戦うコンテンツである。
「そういや、さっきゲーム開いた時」
「イベント参加者用の武闘大会ボタンあったな」
「今までこのゲームにPvP無かったから、なんだろなーて思ってたの」
陽奈が顎に人差し指を付きながら思い出す。
「あーはいはい」
晃が頷く。
「貝類の衣装確認した時ねー」
「そうだけどっ!」
陽奈が赤くなる。
◇
スクリーン下。
一人の男性が登場した。
黒髪。
黒縁眼鏡。
イベントスタッフTシャツ。
スーツパンツ。
イヤホンマイク。
清潔感。
知的。
仕事出来そう。
そんな印象だった。
「わー」
陽奈が小声で言う。
「クールな人!」
「きっと貝類さんもあんな感じの寡黙な男前なのよ」
「変な妄想すんなよ」
晃が呆れる。
そして。
男性が口を開いた。
「ご来場の皆様、こんにちは。本日はお日柄もよく絶好のイベント日和でー」
(校長先生の挨拶始まった?)
内容の入ってこない謎の挨拶を軽く済ませたあと。
「皆様には本日、新コンテンツを体験して頂きます。武闘大会というPvPゲームです。」
予告がなかった新コンテンツの登場に
ザワつく会場。
「まあ、百聞は一見にしかずですので、」
「デモンストレーションを開始します」
落ち着いた声でそう言った。
「今回は私の普段使いのキャラクターで説明させて頂きます」
画面が切り替わる。
現れたキャラクター。
その瞬間だった。
会場がざわつく。
「えっ」
「いかつ……」
「強そう……」
巨大スクリーンいっぱいに映し出される。
正直、
キャラクターのインパクトのせいで
大事な新コンテンツの説明が入ってこない。
白髪。
長髭。
筋骨隆々。
上半身ほぼ裸。
巨大な盾。
威圧感の塊。
拓郎である。
ゲーム内の拓郎。
七十代くらいにしか見えない。
しかし筋肉だけ二十代。
謎の安心感と圧力を同時に持つラスクロ界の珍獣だった。
三人にとっては見覚えしかないその姿。
間違えるはずがない。
「「拓郎ーーーーー!?!?!?」」
陽奈と晃が同時に叫ぶ。
もちろん。
その叫び声は熱狂する客達の歓声の中に消えた。
実莉は。
口を開けたまま固まっていた。
(………………)
(いや短時間で身内遭遇しすぎじゃない!?)
冷や汗。
止まらない。
(えっ)
(あの筋肉マッチョじじいの中身)
(あの細身真面目系男子なの!?)
(しかも運営!?)
(待って処理追いつかない!!)
頭を抱える。
今日は何なんだ。
◇
そんなことも知らず。
峯拓郎は淡々と続ける。
「では」
「私と戦ってくれるプレイヤーを募集します」
シーン。
会場が静まった。
BGMだけが流れている。
観客達の心は一つだった。
(嫌だ)
(怖い)
(ひねり潰されそう)
誰も手を挙げない。
そりゃそうだ、
デモンストレーションの段階であんな岩石出されたら。
誰だって怯む。
後輩スタッフの不安が的中しているのだった。
完全に圧が強すぎた。
そして。
そんな空気の中ーー
一人だけ。
スッ。
高く手が上がる。
「いく」
陽奈と実莉が見上げる。
晃だった。
「え?」
「は?」
二人が固まる。
拓郎が眼鏡の位置を整える。
そして言った。
「ご協力ありがとうございます」
晃はポケットに手を入れたまま前へ出る。
スクリーンへ向かう。
観客がざわつく。
「イケメンだ」
「誰あれ」
「モデル?」
そんな声が聞こえた。
「では」
拓郎が問い掛ける。
「お名前と使用する職名をどうぞ」
晃はマイクを受け取る。
そして。
淡々と言った。
「朝倉晃」
少し間を置く。
そして口元を上げた。
「ハンマーで挑みます」
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