二人三脚
波乱に満ちた仮装・障害物競走を終え、慣れ親しんだ運動着に着替えた生徒たち。「やっぱりいつもの服が落ち着くね〜」「あのドレスは冷や汗が出たよ……」と口々に感想を言い合いながら、どこか晴れやかな表情で校庭へと戻ってきた。
係の生徒から二人三脚用の固い布紐が配られ、それぞれのペアが互いの足を並べて紐を巻きつけ始める。
「これでよしっと。コールドン、立てるか?」 「うん。せーの……っと」
俺とコールドンは肩を組み、歩調を合わせるようにゆっくりと踏み出した。ふと周りを見渡すと、ダニエルとダヴェンポートのペアが目に入る。 ダニエルは、美しく輝く金髪を、鮮やかな青いリボンで一つにきゅっと束ねていた。
「あれ? ダニエルさん、髪を結ぶなんて珍しいですね」
俺が声をかけると、ダニエルは隣のダヴェンポートをチラリと横目で睨みつけ、深々と溜め息をついた。
「彼が私の髪について、やれ『首に当たってくすぐったい』だの、やれ『走ると顔にバシバシ当たって邪魔だ』だのと文句ばかり言うからね」
「あはは、そうだったんですね! でもその青いリボン、すごくカッコいいですよ!」
「ふっ、感謝するよ。私達は根がマイペースな性分だからね。こういう時こそ、互いに歩み寄る努力が必要というわけだ」
「……ふん、自覚があるだけマシだな」
ダヴェンポートは横で呆れたように鼻を鳴らした。
一方、シェリーは自分とタスカンの足を丁寧に紐で結び終えたところだった。
「タスカン、さっきの障害物競走、本当にかっこよかったよ。本物のヒーローみたいだった」
「えへへ……」
褒められたタスカンは照れくさそうに頭を掻き、首を横に振った。
「僕一人の力じゃないよ。ダヴェンポートさんとスウォンジーさんのおかげなんだ。本当のヒーローは、あの二人だよ」
タスカンが尊敬の眼差しで見つめる先には、スウォンジーと、そのペアであるグラモーガンの姿があった。グラモーガンが足元を見つめながらスウォンジーに尋ねる。
「さっきの障害物競走、お前なら一位になろうと思えばなれたんじゃないか?」
「まあな。二位に留まったのは、ただの俺のわがままだ」
「おいおい。何考えてんだか」
「だが……今度は一切の手加減なしだ」
スウォンジーは太い紐を取り出すと、二人の足首を慣れた手つきで「8の字」に交差させて結び上げた。
「こうやって結ぶと紐が弛みにくいうえに、関節がある程度自由に動くらしいぜ」
「ほう、流石だな。なるほど」
二人は軽く声を掛け合いながら芝生の上を歩き出し、徐々にテンポを上げて走る感覚を確かめていく。
『さあ皆様、大変長らくお待たせいたしました! いよいよ本日最後の種目、「二人三脚」のスタートです!』
放送席のニューホール先生のアナウンスに力が入る。
『ルールを説明します。足は指定の紐でしっかりと結ぶこと。トラックの途中には障害物として横長の「ハードル」と、巨大な「水たまり」が立ちはだかります! これらを息を合わせて乗り越え、一番にゴールラインを駆け抜けるのはどのペアか!?』
『位置について――よーい……パーン!!』
号砲とともに、スウォンジーとグラモーガンのペアが炸裂音のような勢いでロケットスタートを切った。圧倒的な脚力で一気に先頭へと躍り出る。
(は、速い……! もうあんなペースで走るのか!?)
慎重にスタートを切った俺たちは、周囲の迫力に押されて思わず歩調が乱れそうになったが、「いち、に! いち、に!」と声を掛け合ってすぐにペースを取り戻した。
(よし! いいぞ、スピードに乗ってきた!)
手応えを感じたのも束の間、目の前に最初の障害物である横長のハードルが迫ってきた。 先頭をひた走るスウォンジーたちは、速度を一切落とすことなく軽々とハードルを跳び越えていく。二人の動きは完全にシンクロしており、一切の無駄がない。 その後ろからは、ダニエルとダヴェンポートのペアが猛烈な追い上げを見せていた。高身長で足の長い二人は、大きなストライドでひらりとハードルをクリアし、先頭との差をぐんぐん縮めていく。
そして、その後ろにタスカン&シェリーペアと、俺&コールドンペアがほぼ横一線で並んでいた。
「1、2! 1、2!」
元気いっぱいに声を合わせるタスカンとシェリー。 だがその時、俺は隣のコールドンの歩調が微妙に遅れ始めていることに気がついた。
(あれ……? コールドン、疲れてきたのか?)
俺は歩幅を少し縮め、コールドンの速度に合わせて走っていた。しかし、目の前のハードルを飛び越えて着地した瞬間――。
「痛っ……!」
短い悲鳴とともに、コールドンがガクッと片膝をついた。
「コールドン!? 大丈夫か!?」
「ご、ごめん……!」
コールドンは慌てて立ち上がろうとしたが、結ばれた足に体重をかけた瞬間、「……っ!」と激しい痛みに顔を歪めて崩れそうになった。足首を捻ったのだ。




