仮装・障害物競走の続き
『第二の障害物は「お皿パズル」です! 割れたお皿の破片を正しく繋ぎ合わせ、一枚の皿を完成させてチェックポイントへ提出してください。なお、精霊の力を使用することは固く禁止されています!』
コース上にはいくつかの大きな木箱が置かれ、中には大量に割れた青と白の陶器の破片が山積みになっていた。ランダムに混ざり合った途方もない破片の山を前に生徒たちがひるむ中、コールドンが「あっ」と声を上げて一つの破片を拾い上げた。
「これ、うちの窯のパターンだ」
「自分の窯の作品なら容易に見つけられるな」
ダニエルもまた、青い繊細な花柄の破片をすっと拾い上げた。
「私のもあったぞ。破片の山の中で、そこだけが美しく光輝いて見えた」
「うおお、スゲーなこれ……! 青と白ばっかりで、俺にはどれも同じに見えるぞ!?」
俺がしゃがみ込んで頭を抱えている隣で、シェリーも手際よく破片の山を掻き分けていく。
「ウィロー柄、スポードのブルーイタリアン、バーレイのアジアティックフェザンツ……よし、まずは種類ごとに分類しよう」
「コールポート、同じ青と白でも微妙に色合いや転写のタッチが違うんだよ。特にウィロー柄は一番判別が難しくて……」
「あっ! これ、コーリー先生のウィローだ! 俺、これ集める!」
「……人の話を聞かないね、君は」
コールドンがあきれ顔で溜め息をついた。
一方、別の箱ではダヴェンポートが「よし、フローラの完成だ」と静かに皿を組み上げていた。隣のスウォンジーも「おっ、できたか。俺もこれでどうだ!」と最後のピースをパチンとはめ込む。
「タスカンはどうだ?」
「僕もあと少しなんですが……」
タスカンが必死に繋ぎ合わせていたフルーツと花が描かれた美しいお皿。ほぼ元通りになっていたが、中心付近に爪の先ほどの小さな欠けが残されていた。
「俺の窯の『フルーツ・アンド・フラワーズ』か……」と、ダヴェンポートが眉をひそめる。「破片が小さすぎて見つけるのは至難の業だな……」
「皆さん、僕のことは気にせず先に行ってください! 遅れちゃいます!」
涙目になるタスカン。しかしスウォンジーは迷わずその場にしゃがみ込み、破片の山をガシガシと掻き分けた。
「二人で探せば早いだろ」
「……チッ、仕方ないな」
ダヴェンポートは呟くと、右手を前に突き出した。指先にすっと魔力を込めると、破片の山の中から一欠片の小さな陶片がふわりと宙に浮き上がり、吸い込まれるようにタスカンの皿の欠けた部分へぴたりと収まった。
「え……?」
「おいダヴェンポート、お前そんなことしたら……!」
ダヴェンポートはフンと鼻を鳴らし、兜の面を上げた。
「早く行け。これで着替えの手伝いの借りは返したぞ。……スウォンジー、あとは頼む」
ぽかんと立ち尽くすタスカン。すかさず見張り役のボウ先生が厳格な声で告げた。
「ダヴェンポート。破片探しに精霊の力を使うのはルール違反です。ここで失格とします」
「ダヴェンポートさあん!!」
泣き叫んで留まろうとするタスカンを、スウォンジーは「行くぞ!」と強引に脇に抱え上げ、チェックポイントのゲートを駆け抜けた。 残されたダヴェンポートは「やれやれ」と呟き、去っていく二人の背中に微かな笑みを浮かべた。
スウォンジーは第三の障害物の手前でタスカンを地面に降ろした。シクシクと泣きじゃくるタスカンの両肩を力強く掴み、真っ直ぐ目を見つめる。
「あいつはな、お前に勝ってほしかったんだよ。お前なら勝てる。……だって、スーパーマンだろ?」
「え……あ!」
タスカンがハッと顔を上げると、二人の目の前には高さ10メートルを超えるボトルオーブンが聳え立っていた。頂上からは金の鐘が吊り下げられており、先行する走者たちが必死に外壁の煉瓦に手をかけてよじ登っている。
『さあ! 続々と選手たちが最終障害物に到着しております! ボトルオーブンのてっぺんに吊り下げられた鐘を鳴らし、最後の直線100メートルを走った先がゴールとなります!』
俺がボトルオーブンの下に辿り着いた時には、すでにダニエルを先頭とする数名が頂上付近にまで達していた。 コールドンも果敢に壁の中腹を登っていたが、突然、下から強い風が吹き抜けた。
「わっ!?」
ふわっとエプロンスカートがめくれ上がり、とっさに後ろを押さえたコールドンはバランスを崩し、手が煉瓦から離れてしまった。
「うわぁっ!」
「危ない!」
俺は地面を蹴って滑り込み、落下してきたコールドンを両腕でガッチリと受け止めた。そっと地面に降ろして胸を撫で下ろす。
「ふぅー、危なかったな!」
「あ、ありがとう……助かった……」
「アリスにやっと追いついた。白ウサギが追う立場になるなんて変な話だけどな」
「フフッ……本当だね」
「ん? コールドン、スカートのポケットになんか入ってるぞ」
「え? 本当だ、小瓶……? 『Drink Me』って書いてある」
「それ、飲むと大きくなれるやつだ!」
「あ……っ!」
コールドンが意を決して小瓶の薬を飲み干すと――次の瞬間! ゴゴゴゴと音を立ててコールドンの体がグングンと巨大化し、あっという間にボトルオーブンと肩を並べるほどの大きさになった。登っていた生徒たちが「うわああ!?」と見上げる。
「すっげーーーっ! 」
巨大化したコールドンは、目の前にぶら下がる鐘を指先でチョンと弾いた。
ガランガランガラン――!!
派手な音を立てて鐘が揺れ動く。役割を果たしたコールドンの体はシュルシュルと縮み、無事に元の大きさに戻ると、そのままゴールラインへ走り出した。
「行けるぞコールドン! 走れーっ!」
俺が拳を突き上げて叫んだ、その時だった。
シュッ――カーン!!
俺の頭上を風を切る一筋の矢がかすめ飛び、ボトルオーブンの鐘を見事に射抜いたのだ。 見ると、ボトルオーブンの下でスウォンジーがロビンフッドの弓を携えてニッと笑っていた。
「えぇぇっ! 弓矢で鳴らすのあり!?」
全員が呆気にとられる中、スウォンジーはタスカンに向かって力強く頷いた。
「行け、ヒーロー!」
タスカンは赤と青のマントをバサッと翻すと、ふわりと身体を宙に浮かせた。片腕を前に突き出す完璧なヒーローのポーズで、ぎゅーんと一気に10メートルの頂上まで急上昇。頂上に降り立って鐘を直接鳴らすと、そのままゴールへ向かって一直線に急降下し、コールドンをかわしてゴールテープを切り裂いた。
『大逆転ーーーっ!! タスカン、見事一着でゴールイン! 二着はスウォンジー! 僅差でコールドンを抜き去りましたー!!』
「やったあーっ!」
歓喜の声を上げるタスカンはスウォンジーとハイタッチを交わすと、すぐさま「ダヴェンポートさん! 勝ちましたよー!」と失格者エリアへ飛んでいった。
俺もゴールラインの芝生の上に倒れ込んでいるコールドンの元へ駆け寄った。
「惜しかったな、コールドン!」
肩で息を荒くしながら、コールドンは「……最後の最後で抜かれちゃったぁ」と悔しそうに呟き、それから大きく深呼吸をした。
「あー……! やっとこの服から解放されるー!」
大の字になって芝生に転がるコールドン。そこへ、スウォンジーが歩み寄り、上から顔を覗き込んだ。
「そのストラップシューズじゃ走りにくかっただろ。足、挫いてないか?」
コールドンは気まずそうに苦笑いを浮かべた。
「……君はまだ、ロビンフッドのつもり?」




