仮装・障害物競争
ニューホール先生の軽快なアナウンスが、校庭スピーカーから響き渡った。
『さあ、注目の第三種目は「仮装・障害物競走」です! 簡単に流れを説明しましょう。走者はまずコース上に並べられた大きなカゴから好きなものを一つ選び、中に入っている衣装に素早く着替えます。そして、その衣装のまま様々な障害物をクリアしてゴールを目指します。衣装に付属している小道具は自由に使っていただいて構いません!なお、優れた仮装を披露した生徒には、審査員特別賞が贈られます』
「どんな衣装が入ってるのか楽しみだねえ! 僕は格好いいヒーローがいいなあ!」
タスカンが目を輝かせてシェリーに話しかける。一方、隣のコールドンは浮かない顔で腕を組んでいた。
「校長のチョイスだとしたら、絶対に一筋縄じゃいかない変なのが紛れてるぞ……」
『それでは――位置について、よーい……スタート!!』
パーンという号砲とともに全員が一斉に飛び出した。中身の見えない大きなカゴの前になだれ込み、それぞれ勘だけを頼りにカゴを引っ張り寄せる。
「やったー! スーパーマンだ!」
タスカンは歓声を上げ、カゴから飛び出した鮮やかな赤と青のヒーロースーツにさっそく袖を通し始めた。シェリーが「良かったね」と優しくクスッと笑う。そして自分のカゴから、フリルがふんだんにあしらわれた黒と白のエプロンドレスを取り出した。
「僕のは……メイドさんのお洋服かな?」
「似合いそうだけどね……」
コールドンはシェリーの衣装を見て恐ろしい想像をしたのか身震いした。そしておそるおそる自分のカゴを覗き込み――「ウッ」と苦しげな声を漏らした。
「ふ、不思議の国のアリス……!?」
「ん? 何だこれ?」
俺は自分のカゴから衣装を取り出し、首を傾げた。手にあったのは、白いジャケットと揃いのズボン、ふわふわのウサギの耳カチューシャだった。
「海賊の長か、悪くないな」
ダニエルは羽根のついた豪華なキャプテンハットを優雅に被り、ニヤリと微笑む。 一方で、一人だけ途方に暮れていたのがダヴェンポートだった。
「おい……これ、どうやって着るんだ……?」
彼の手には、重厚で複雑な構造をした金属の甲冑パーツが握られていた。
着替えを終えた生徒から順に障害物へと走り出していく中、甲冑の装着に手間取り「くそっ、このベルトが届かん……!」と焦るダヴェンポート。そこへ、ヒーロースーツに着替え終えたタスカンが疾風のように駆け寄った。
「手伝います、ダヴェンポートさん! 困っている人を助けるのがヒーローの役目ですから!」
「同じく。困窮者を救うのはロビンフッドの使命だからな」
緑色の帽子をかぶり狩人の衣装に身を包んだスウォンジーも現れ、手際よく甲冑のパーツを持ち上げた。
「スウォンジーさん!?」
「おいタスカン、そこを押さえてろ」
「はい!」「よし、次は胸当てだ」
「はい!」
二人の息の合った連携により、見る見るうちに武骨な全身鎧が組み上げられていく。
「何だ……この状況は……」
ダヴェンポートは目をしばたたかせながらも、逆らうこともできずされるがままになり、やがてガチリと兜がハマると、重苦しい鉄仮面の中からぼそりと呟いた。
「……すまん。助かった」
*
『こちら放送席! さあ、第一の障害物は「仮装ステージ」です! ステージ上で各々の役に成りきった完璧なポーズを決め、審査員の先生方から得点をもらわなければ通過できません!』
ステージ前には順番を待つ走者たちが並んでいた。 真っ先に登壇したのはダニエルだ。海賊王の衣装を身に纏い、腰の剣に手を添えて優雅かつ雄々しくポーズを決める。
「ダニエルさん、カッコいいー!!」
歓声と黄色い声援が飛び交う中、ダニエルは満足げに微笑み、悠々と手を振りながらステージを降りた。
俺の衣装は、上下白の仕立ての良いスーツに、大きな懐中時計、そしてウサギの耳。どうやら『不思議の国のアリス』に登場する白ウサギの役らしい。 そしてその少し前、水色と白の可憐なエプロンドレスに身を包んだコールドンがいた。髪を下ろし、黒いリボンのカチューシャをつけた姿は、かなり可愛らしく仕上がっている。だが、本人の表情は般若のように険しい。
「おーい、アリス! 俺、時計持った白ウサギだからよろしくなー!」
列の後ろから手を振って声をかけたが、盛大に無視された。
コールドンの順番が来た。覚悟を決めたらしく、腹をくくった顔でステージ中央へ上がると、カメラに向かって手で可愛らしくハートを作り、バッチリとウインクを決めてみせた。
「アリス〜! いいぞー! 超似合ってるー!」
俺の大声援と観客席からの大きな拍手を浴びながら、コールドンは顔を真っ赤にして逃げるように次の障害物へと猛ダッシュしていった。
続くシェリーは、いつもの落ち着いた様子で登壇した。メイド服姿でモップを滑らかにかけ、中央でふっと動きを止めると、額の汗を手の甲でぬぐい、天使のような可憐な微笑みを浮かべた。
――静まり返る観客席。そして、どよめき。
「おい……あいつら本当に男子か……? 可愛すぎないか!?」
隣にいた他寮の生徒が戦慄しているのが聞こえ、俺はここぞとばかりに胸を張った。
「ふふん、甘いな! 二人は我がローズ寮が誇る名優だからな! 特に女装の可憐さにかけては、シェリーの右に出る者はいないんだぞ!」
シェリーと入れ替わりに俺がステージに登ろうとすると、着替えで大幅に遅れていたダヴェンポートが、タスカンとスウォンジーと共にようやく到着した。周りを見渡して、ダヴェンポートは兜の奥から低い声で呟いた。
「カオスだ……」
「わー!シェリーかわいい!!コールポートさんも、白ウサギ可愛いですー!」
「おお、なかなかサマになっているぜー!」
タスカンとスウォンジーの声援を背に受けながら、俺は白ウサギのポーズを決めた。




