作戦会議〜的当て
ローズ寮の仲間たちはコールドンを囲むように小さな輪を作った。コールドンは声を潜め、作戦を切り出す。
「……次の的当てだけど、僕たちも精霊の力を借りよう。豆袋に密かに水を含ませて、その重さで缶を崩すんだ。狙うのはピラミッドの重心――一番下の段、真ん中の缶と缶の間。どうかな?」
コールドンの提案に、周りの生徒たちは次々と頷き、賛同の声を上げた。
「いい作戦だな」「袋が配られたら、すぐに手の中で握って密かに濡らしておけば悟られずに済む」
仲間たちが真剣に頷き合う中、俺だけが気まずく手を挙げた。
「あの〜……俺、まだそんな器用な術できないんだけど……」
全員の視線が一斉に俺に集まった。ハッとしたように目を見開く仲間たちの中で、コールドンだけがあっけらかんとした顔で笑った。
「コールポートには、そんな細工なんて必要ないんじゃないかな? だって君、毎日庭で犬たちとボール投げして遊んでるでしょ。誰よりも遠くへ、正確に投げるコントロールがあるんだからさ」
校庭では次の種目の準備が速やかに整い、マイクに乗ったニューホール先生の声が響きわたった。
『第二種目は、豆袋を使った『的当て』です! 台の上には、10本の空き缶が下から4、3、2、1と美しいピラミッド型に積み上げられております。ひとり一袋、的に向かって勢いよく投げ、倒した本数がそのまま得点となります!』
出番を待つ間、俺たちは手渡された握りこぶし大の豆袋を使って軽くキャッチボールをし、肩を温めた。
『では、第一組、位置についてください! スタート!』
一番手に立ったタスカンとシェリーは、緊張した面持ちで慎重に狙いを定め、見事に狙い通りヒット。それぞれ8本の缶を倒し、「わーい!」と声を弾ませてハイタッチを交わした。
いよいよ俺の番だ。しっかりと足を踏み込み、大きく腕を振りかぶって――ブンッ!
放たれた豆袋は一直線に風を切り、狙い過たずピラミッドの土台を激しく穿った。金属音が甲高く弾け飛び、10本の缶が一瞬で豪快に宙を舞う。
「おっしゃあ! パーフェクト!」
思わず突き上げた拳に、ローズ寮の仲間から大歓声が湧き起こった。控えの列へ戻る途中、スウォンジーとすれ違った。
「……たいしたもんだな」
肩越しに聞こえた低い呟きに、俺は笑みを返した。
そして迎えた最終組。的の前に立ったのは、見慣れた顔ぶれだった。
「えいっ!」 コールドンが投げた水を含んだ重い袋は、狙い通りの重心を捉えて9本の缶を薙ぎ倒した。「やった!」と飛び跳ねるコールドン。 続くダニエルは余裕の笑みを崩さぬまま優雅に投球し、見事パーフェクトを達成。 一方、ダヴェンポートは9本にとどまり、「……チッ、ついてないな」と忌々しそうに不機嫌な声を漏らした。
最後に前に出たのは、スウォンジーだった。 彼は深くフッと一息吐くと、独特の低い構えを取った。勢いよく振られた腕から放たれた豆袋は、猛烈な勢いで旋回しながら、今まで誰も見せたことのない鋭い軌道を描いた。
――ガガガガァンッ!!
凄まじい衝撃音とともに、ピラミッドどころか台の上の全ての缶が一瞬で粉砕されたかのように吹き飛んだ。
静まり返る校庭。誰もが呆然と口を開けていた。
「な、何だ……? 今の軌道は……」
目を見開いたまま俺は、真っ先にスウォンジーの元へ駆け寄った。
「すげえ! どうやったんだよ今のアレ! 精霊の力、全然使ってなかっただろ!?」
勢いよく詰め寄る俺に、スウォンジーは意外そうにキョトンと目を丸くした。後ろから追いついてきたコールドンが「……あちゃー、それ直接聞いちゃうんだ」と額を押さえて呟く。
「変化球だよ」
スウォンジーは破顔し、指先を見せてくれた。
「こうやって指の端を引っ掛けて滑らせるように投げると、強力な回転がかかるんだ。お前が精霊の力を一切使わずに素手でパーフェクトを出したからさ……俺も自分の腕一本でどこまでできるか、試してみたくなったんだよ」
爽やかに笑うスウォンジーを見て、周りのリーキ寮の生徒たちは、気まずそうに苦笑いを浮かべて首をすくめた。
「おお〜っ! すげえ! こうか? こうやって指をかけるのか!?」
俺がさっそく投げ方のフォームを真似してみせると、スウォンジーは「ちげーよ、ここはこう握るんだ」と、呆れつつも親切丁寧に手取り足取り教えてくれた。
「よし、覚えたぞ! 次の投球で絶対変化球投げてやる!」
「ハハッ、次……もう的当ての出番、無いだろ?」
スウォンジーの柔らかいツッコミに、周りからどっと笑いが起きた。
その賑やかな光景を、少し離れた場所からダヴェンポートが不機嫌そうに見つめていた。
「……何なんだ、あいつらは。能天気な奴らだ」
「ふふ、微笑ましいじゃないか」
隣で目を細めるダニエルに、ダヴェンポートは低い声で尋ねた。
「……投げ方はお前とほぼ同じだったはずだ。だが、俺の袋はあと一歩のところで威力が届かなかった。お前、何か他に仕掛けたのか?」
ダニエルはふっと妖しく微笑むと、ポケットから豆袋を取り出し、ダヴェンポートの手の上にぽんと乗せた。
「ただ濡らすだけでは、芸がないだろう?」
ダヴェンポートの手の上に載った豆袋は、ズッシリと尋常ではない重量感を主張していた。袋の口を覗き込んだダヴェンポートの目が丸くなる。
「……錬金術か……?」
澄ました顔のダニエルに、ダヴェンポートは「……食えない奴だ」と呆れたように息を吐いたのだった。




