スポーツ・デイ開催
あっという間に三日間の準備期間が過ぎ、ついにスポーツ・デイ当日を迎えた。 校庭には、ローズ寮とリーキ寮のみならず、スコティッシュ・シスル寮やアイリッシュ・シャムロック寮の生徒たちも一堂に会し、色とりどりの旗がはためく中で熱気に包まれていた。
朝礼台の上で、コーリー先生がマイクを握る。
「皆さん、おはようございます! いよいよ待ちに待ったスポーツ・デイの開幕です。初夏の爽やかな気候のもと、たまには机を離れ、仲間とともに汗を流すのも良いリフレッシュとなるでしょう。日頃の成果を存分に発揮し、楽しんでください!」
パチパチと拍手が湧き起こる中、マイクは実況席へと引き継がれた。
「こちらは放送席。実況は私、ニューホールがお送りします。第一種目は『スプーン競走』! ルールは至ってシンプルです。スプーンに生卵を乗せたまま走り、折り返し地点を旋回してスタート地点へ戻ってきてください。途中で卵を落とした者は、その時点で即失格となります!」
スタート地点に立ったボウ先生が、高く右手を掲げ、鮮やかに旗を振り下ろした。
「第一組、スタート!」
パンッという合図とともに、10人の生徒が一斉に飛び出した。スプーンの上の卵を落とさないよう、絶妙なバランスを取りながら速度を上げていく。 頭一つ抜け出したのは俺だった。
『第一コーナー、折り返し地点です! ここでコールポートが華麗にターン! その後を数名が追うが――あーっと、接触事故発生! 二名の生徒が激しく衝突し、卵を割ってしまったーっ!』
後ろで「あッ!」という悲鳴と卵の割れる音が響き、背筋がヒヤリと冷えたが、俺はすぐに視線を手元に戻した。
(余計なこと考えちゃダメだ、集中、集中……!)
すぐ隣まで他寮の生徒が迫っている。ゴールは目の前だ。 ラストスパートをかけようと強く地面を蹴り飛ばした――その瞬間! 衝撃でスプーンの上から卵がふわっと宙に浮き上がった。
「うおっ!?」
とっさに全身の体勢を低くして速度を落とし、落下してきた卵をスプーンの皿で滑らかに受け止める。危機一髪セーフ! ――だが、その隙を逃さなかった隣の生徒が、一気に俺を抜き去ってゴールテープを駆け抜けた。
(……くそっ、二着か!)
奥歯を噛みしめ息を整えていると、ニューホール先生のアナウンスが響く。
『続いて第二組、スタートです!』
第二組の生徒たちが一斉に駆け出していく。その中にコールドンの姿を見つけ、俺は固唾をのんで見守った。
(頑張れ、コールドン……!)
順調に中間地点を通過しようとした、その時だった。 折り返し地点のコーンを曲がる際、隣を走っていた生徒がぐっと身を寄せ、コールドンと肩が激しく接触した。
「あッ……!」
二人の手からスプーンが弾け飛び、二つの生卵が地面に叩きつけられて黄色い中身をぶちまけた。
『あーっと! 二組目でも接触! 両者ともに卵を落下させ、残念ながら失格です!』
肩を落としてコースを外れていくコールドン。俺は急いで彼の元へと駆け寄った。
「コールドン! 大丈夫か? 怪我はない?」
声をかけると、コールドンはいつも見せないようなムスッとした表情で、低い声で呟いた。
「……僕の隣の生徒、精霊のチカラ使ってた」
「え!? マジで!?」
「でも、ズルをしてたのは彼だけじゃない」
「……そうか、やっぱりか」
俺はまだ競技が続いているトラックへと鋭い視線を向けた。
「俺の組で一着になったやつも変だと思ったんだよな。どんなに猛ダッシュしても、卵がスプーンにピタッと張り付いてるみたいに見えたし……」
「うん。僅かに体を浮かせて、走った時の振動がスプーンに伝わらないように風の力を使ってたんだよ。足音も妙に静かだったでしょ?」
「言われてみれば、全然ドタバタ音がしなかった……!」
「だから……腹が立ったから、わざとぶつかって落とさせてやったんだ」
「えぇっ!? わざと!?」
驚く俺をよそに、コールドンは遠くで「惜しかったね〜」などと白々しく談笑している他寮の生徒たちを、キッと強い眼光で睨みつけた。
「そっちがその気なら、こっちだって……」
そこへ、走り終えたシェリーやダニエルたち仲間が集まってきた。
「コールドン、怪我はないか?」「大丈夫ですか?」
「みんな、ありがとう。僕は大丈夫。……それより、みんなにちょっと聞いてもらいたいことがあるんだ」
静かな怒りをたたえたコールドンの瞳を見て、俺たちは顔を見合わせた。フェアプレイを破った奴らへの、反撃の作戦会議が始まろうとしていた。




