図書室
自主学習の時間になり、俺とコールドンは図書室へと向かった。
重い木製のドアを開けると、ひんやりとした空気に古い紙の匂いが混じる。あちこちの席で、生徒たちが静かに本を広げていた。
窓際を通りかかると、座っていたダニエルがこちらに気づき、ふわりと微笑んだ。
「何か探し物かな?」
「あ、はい。俺の、竹と雀の作品を見にきました」
「奇遇だな。私も今ちょうどその時代を調べていた」
ダニエルが掲げた本の表紙には、金文字で『英国陶磁器の意匠の変遷・第7巻〜19世紀ジャポニズム〜』とあった。
「それ、僕も前に読みました」
コールドンが親しげに相槌を打つ。――さすが優等生、もう専門書か。
「へー、俺も後で読んでみようかな」
背伸びして言うと、隣からジト目で凝視された。
「……君には、まだ早いんじゃないかな」
「あ、それ第七巻だもんな。じゃあ第一巻から……」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
コールドンが呆れてため息をつくと同時に、ダニエルが後ろの棚から薄い一冊をスマートに抜き出した。
『アンティークカップ入門』
「これくらいが、今の君にはちょうど良いだろう」
眩しいほどの笑顔。
―――馬鹿にされてるのか、親切なのか。判別はつかないが、確かに今の俺にはちょうどいい。
「……ありがとうございます」
本を受け取り、愛想笑いを返す。隣を見ると、コールドンがそっぽを向いて肩を震わせていた。
「図書室では静かに」
低く苛立った声が降ってきた。ダヴェンポートだ。貸出カウンターの奥から、冷徹な視線でこちらを睨みつけている。
「すみません」
コールドンがすぐに居住まいを正す。ダニエルはふふっと笑って目配せすると、何事もなかったように本へ視線を戻した。
コールドンが俺の肩を引き寄せ、耳元で囁く。
「ダヴェンポートが、今日は倉庫の鍵を持ってるんだ。良い子にしてないと貸してくれないよ」
「わかった、おとなしくする」
カウンターには返却本が山積みになっていた。ダヴェンポートは一冊ずつ厳しい目でチェックしながら仕分けている。
「あの……」
「何だ」
本から目を離さず、ぶっきらぼうに応じる。相変わらずガードが固い。
「探したい過去の作品があって……倉庫の鍵、借りてもいいですか?」
「ダメだ」
秒で断られた。
「え、なんでですか?」
「昨日ボヤを起こした奴に、倉庫の鍵を渡せるか。中で何をするかわかったものじゃない」
「……ええ~」
「何か言ったか?」
手が止まり、鋭い視線が飛んでくる。
「いえ! 何でもないです!」
慌てて首を振る俺の前に、コールドンが一歩進み出た。
「僕が責任を持って監視しますから」
「本当に大丈夫ですから」
「いい加減にしろ」
声が一段低くなる。まずい、と思った俺は、山積みの本に目を留めて提案した。
「戻ってきたら、この本の仕分け、俺も手伝います! だから……!」
ダヴェンポートは手を止め、俺とコールドンを交互に見比べると、小さくため息をついた。
「……それならいい。目当てのものを見つけたらすぐ戻れ」
ガチャリ、と真鍮の鍵がカウンターに置かれた。
「ありがとうございます!」
ダヴェンポートはもう次の本を手にしていて、こちらを見もしなかった。それでも一応会釈をしてから、俺たちは図書室の最奥にある倉庫の扉へと向かった。




