休み時間
「あの、さっきはごめん」
廊下で、コールドンが、ちょっと決まり悪そうに声をかけてきた。
「君が皿を出そうとしたの、止めちゃったから」
「……別に、気にするなよ」
思ったよりぶっきらぼうな口調になった。コールドンの顔が、一瞬で固まる。
「あ……僕、怒ったんじゃなくて」
「わかってる。何かあったら危ないと思ったんだろ」
「うん……そう、なんだけど」
コールドンが視線を床に落とす。歯切れの悪い間があった。
「君の竹と雀の作品……次の自主学習の時間に図書室に見に行かない?」
「あ、うん。それは見てみたい」
話が逸れたことに、俺は少しほっとした。並んで歩き出す。
昨日ボヤを起こした部屋の前で足が止まった。覗き込むと、何事もなかったように整然としている。
「もう直ってんの!?」
「昨日の掃除係、優秀だったんだね」
悪戯っぽく笑うコールドンにつられて、俺も笑った。ふっと、空気が緩む。
「なあ、さっきは何でとっさに止めたんだ?俺、そんな危ないことしようとしてないだろ」
軽い気持ちで聞いたつもりだった。けどコールドンは足を止めて、少し黙った。
「……昨日、火を出したばっかりだったから」
「あー、それは悪かったって」
「違う。そうじゃなくて」
コールドンが、初めてちゃんとこっちを見た。
「……怖かったんだ」
その一言だけ、様子が違った。
いつも冷静で、何でもスマートにこなす完璧な優等生だと思ってた。なのに耳の先が赤い。
――怖かったのは、俺だけじゃなかったのか。
「俺の方こそ悪かった。昨日は迷惑かけたし……助けてくれて、ありがとな」
コールドンの強張っていた顔が、ふっとほどける。
「竹と雀、早く実物見てみたい」
「うん……僕も」
気まずさが溶けていく。けど耳に残った「怖かった」の一言だけ、まだ胸の奥に引っかかったままだった。
「その前に、売店寄ろう。単語帳も買わなきゃ」
売店のドアを開けた瞬間、物量に足が止まる。
天井まで積まれた絵の具、筆の束、粘土、白磁の皿。
「筆、こんなに種類あるのかよ」
「ネコのお腹の毛なんてのもあるよ。東洋では普通に使うらしい」
「ネコのお腹!?」
鍵付きのショーケースに、値札が5桁を超える薬瓶が並んでいるのが目に入った。
「これは?」
「魔法薬。制作の役に立つけど、僕は使ったことない」
どこか、目を逸らすような間があった気がした。
――使ったことない、じゃなくて、使わないようにしてる、みたいな。
「あ、単語帳あった」
コールドンが棚から見つけて持ってくる。値札は『100p』。
「金、一銭も持ってねえけど」
「ここはポイント決済だよ。最初に3000ポイントもらってるはずだから、学生証出して」
「そっか」
レジで学生証を差し出す。ピッ、と読み込まれた音の後、少し間があった。
「あの……マイナス2万ポイントになってますけど」
「は!?」
「昨日のカーテンの弁償代です」
隣でコールドンが吹き出した。
「あはは……っ、お腹痛い……!」
「笑いすぎだろ!じゃあ俺、どうすりゃいいんだよ!」
涙目のコールドンが、自分の学生証を差し出す。
「彼の分、これで。――僕が立て替える」
「いや悪いって!」
「テストの点や行事の表彰でも稼げるよ。出世払いでいい」
「うわ、完済とうぶん先だな……」
「かもね」
笑い合いながら売店を出て、図書室に向かった。




