決闘
俺はスウォンジーに連れられ、ウェルシュ・リーキ寮の前庭へと出た。いつの間にか集まったギャラリーがぐるりと取り囲む中、俺とナントガルは中央で対峙していた。
「――これより決闘のルールを説明する!」
スウォンジーが通りのいい大声で叫んだ。
「物理攻撃、魔法攻撃、いずれの使用も許可する! ただし周りに危害を加えるのは一切禁止! どちらかが気絶するか、あるいは降参を表明するまで戦いは継続されるものとする!」
「お、おいおいっ……ええーっ!?」
俺の焦りをよそに、ナントガルは美しく右手をすっと前に差し出し、一歩も引かない構えを取った。俺は慌てて身を縮め、防御の姿勢をとる。
「――ローズクラスター!」
ナントガルの手のひらから、無数の薔薇の花びらが爆風とともに打ち出された。ただの花びらではない。刃のように硬く研ぎ澄まされた結晶となって、容赦なく服を切り刻む。
「痛っ……く……!」
「出たぞ! ナントガルが得意とする薔薇の攻撃だ!」とギャラリーの精霊が声を上げる。
こめかみのあたりを切ったらしく、じわりと温かいものが頬を伝う。理由も分からず切りつけられて、腹の底から熱い塊がせり上がってくる。
「何なんだよ一体! 俺はお前とどんな関係だったのかを知りたくて来ただけなのに!」
「黙れ! ――レインボーリング!」
次の瞬間、眩い虹色の環がいくつも出現し、身体を締め上げた。
「うぐっ……!?」
「なるほどな! ナントガルの透き通る釉薬は七色に光るって言うからな!」と誰かが叫ぶ。
ナントガルは冷ややかに見下ろした。
「どうだ。手も足も出まい」
「ぐ……ぎぎ……ふんっ!!」
全身の力を極限まで込め、力任せにその環に圧をかける。パリィン! と鋭い音を立てて虹色の環が粉々に砕け散った。
「うそだろ、馬鹿力だな……」とスウォンジーが呆気にとられ、ナントガルも目を見開いた。
「……ならば、これでどうだ! ――グラウンドクラッシュ!」
ズンッ! と全身に破格の重圧がかかり、あまりの重さに両膝が地面につく。歪んだ磁土のように身体が重く沈み込んでいく。
「窯変崩壊の力を使ったのか!?」と誰かが息を呑む。
「これで終わりだ」
ナントガルが静かに、高く手を掲げた。とどめの一撃が放たれる――そう覚悟した瞬間だった。
「コールポートーーッ!」
聞き慣れた声が響いた。門の向こうを見ると、コールドンを先頭にローズ寮の仲間たちがわらわらと押し寄せてきていた。
「助けに来たよ!」
「待て! 今は決闘中だ!」とスウォンジーが立ちふさがる。
「「え? 決闘……!?」」
押し寄せたローズ寮の面々がざわめく。……が、次の瞬間。
「が、頑張れー! コールポート! 負けるなー!」
(おいおい! 助けに来たんじゃないのかよ!)
思わずツッコミを入れそうになったが、地面に手をついて必死に立ち上がろうともがいた。激しい圧力と頭の痛みの渦中で、脳裏にふっとひとつの鮮烈な「作品」が浮かび上がる。
――そうだ。俺の中にも、あるはずだ。
「――コールブルックデール!!」
手のひらから一気に光が溢れ出す。無数の色鮮やかな花々が空間いっぱいに舞い散り、それと同時に、地を覆うようにふわりと柔らかな花弁を持つ、奇跡のように美しい薔薇が一面に咲き乱れた。
「……!?」
誰もが息を飲み、その光景に呆然と立ち尽くす。前庭の喧騒が嘘のように静まり返った。
ナントガルは震える手で膝をつき、足元に咲いた一輪の薔薇をそっと摘み上げた。その花びらを愛おしむように見つめ、小さく呟く。
「……ビリングスリーさんの薔薇……」
ぽつりと漏らしたナントガルは、そのまま固まるようにうつむいた。その瞳から零れ落ちそうになる涙を、歯を食いしばって必死に堪えているようだった。
スウォンジーがそっと歩み寄り、ナントガルの肩に優しく手を置く。
「……もう、このくらいでいいだろ」
そして俺の方へ振り向くと、爽やかに言い放った。
「よし、決闘はお開きだ! 談話室に戻ろう。……そこにいるローズ寮の生徒たちも、今日だけは特別に招待してやるよ」
「コールポート、大丈夫!?」
駆け寄ってきたコールドンに肩を支えられ、なんとか立ち上がる。地を覆っていた薔薇の花は風にふわりと揺れて消えていった。




