↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
48/62

ファンクラブ

挿絵(By みてみん)

 俺の窯には、二百余年の歴史がある。その前半と後半をそれぞれ過ごした場所――故郷であるコールポートと、移転先のストーク・オン・トレント。


 時々記憶の断片に浮かぶ景色を、再びこの目で見てみたい。何とかして行く方法はないだろうか。


 居ても立ってもいられず、俺はコールドンに尋ねてみた。


「なあ、俺たちもリッジウェイさんみたいに、人間の世界に行くことってできないのか?」

「外出許可を取るのは難しいね」


 コールドンは少し考え込むようにあごに手を当てた。


「透明な状態で、周りに干渉せずに見に行くだけなら比較的許可が降りやすいけど。人間の姿になって行くとなると、ハードルも上がるよ」

「そっか……。やっぱり、俺じゃまだ無理かな」


 肩が自然と下がっていくのを感じながら、俺はぼそりとつぶやいた。そんな俺に、コールドンは優しく微笑みかけた。


「付き添いがいれば、もしかしたら……僕が一緒に先生へ聞きに行ってみようか?」

「本当に!? コールドンって本当に優しいよな!」

「いや……そんなことないよ。君にとって必要なことだと思うし……それに、僕も君が生まれたコールポートを見てみたいからね」

「よし! じゃあ、まずはコールポートに行って、その次にストーク・オン・トレントだな!」

「うん……そうだね」


 そうと決まれば行動は早かった。俺たちはさっそく事務室へ向かい、緊張しながらも外出許可申請を提出した。結果が出るまで、数日かかるらしい。


 *


 申請を終え、ほっと一息つきながら談話室へ足を向ける。扉を開けると、そこにはいつもの仲間たちが勢揃いしていた。


 ローズ寮の委員長がダニエルとダヴェンポートに交代して、まもなくひと月が経とうとしていた。


 いつものように六人でテーブルを囲み、取り留めのない会話を交わしていたとき、俺はふと妙な静けさに気づいた。


 周囲を見渡してみても、他の生徒たちが一向に俺たちのテーブルへ近寄ってこない。リッジウェイが委員長だった頃は、些細な悩み事でも誰かしらが頻繁に相談に訪れていたはずだった。


 ……俺たち、もしかして孤立してないか?


 ふと思いついた疑問を、そのまま口にしてみる。


「意見箱ってありましたよね? 最近、何か相談とか届いてるんですか?」


「いや、全く届いていないな。平和で実に良いことだ」

 ダニエルが優雅に紅茶をすすりながら、気にした風もなく答える。


「大抵の事は自分で解決できるからな」

 ダヴェンポートも当然と言わんばかりの態度で同意した。


 だが、本当にそうだろうか。俺は首をかしげる。


「もしかして……相談しづらいとか、相談しても無駄だって思われてるんじゃないでしょうか。以前、ミーキンさんと話した時に聞いたんです。俺たち王室御用達(ロイヤル)系の窯の精霊はエリートだから近寄りがたい、って」


 俺の言葉に、周囲の生徒たちは少し納得したような表情を浮かべた。


「基本、みんなライバルだからね」

 コールドンがどこか諦めたように肩をすくめる。

「僕らは周りに比べると、やっぱり能力が高いんだ。ロイヤルは余裕をかましてる、なんて陰口を叩かれることもあるしね」


「そうなんだ……」


 言われてみれば納得だった。成績は常に上位独占、演劇祭でも主役を張り、身に纏う服までもが自身の作品を反映して豪華絢爛。キラキラと光り輝く俺たちの姿は、周りからすれば壁を感じて当たり前なのかもしれない。


「私は他の生徒をライバルとさえ思った事が無いがな」

 ダニエルが涼しい顔で言い放つ。


「俺もそうだ。ハッキリ言って格が違う」

 間髪入れずに追従するダヴェンポート。


 ――こういうところだろう。


 俺は心の中でツッコミを入れた。このプライドの高さこそが、周囲を遠ざけている一番の原因ではないだろうか。


 すると、それまで大人しく聞いていたシェリーが、おずおずと口を開いた。


「あの……僕、皆さんのお仲間に入れてもらってますけど、王室御用達ではありません……」


 申し訳なさそうに身を縮めるシェリーに、すかさずタスカンが声を張る。


「シェリーは高級磁器の名門だよ! 遠慮することなんて何一つないって! ほら、ファンクラブだってあるんだし!」

「ふふ、ありがとう」


 シェリーは少し困ったように、それでいて和やかな笑みを浮かべた。


「……え、ファンクラブ??」


 耳を疑う俺に、シェリーは丁寧に教えてくれた。


「『シェリークラブ』というファンクラブが、本当に人間界に存在するんですよ」

「私にも『ダニエルセラミックサークル』というファンクラブがあるぞ」

 ダニエルが当然のように胸を張る。


「えっ!? じゃあ俺は!? 俺のファンクラブはある!?」


 期待に目を輝かせて周囲を見回す。だが、返ってきたのは容赦のない現実だった。


「……聞いたことないな」

「僕もないな。あ、でも『コーリー・ソサエティ』ならあるよ」

 コールドンがサラリと付け加える。


「コーリー先生のあるのに、俺のはないのかよ……!」


 すとん、と椅子の背もたれに体が沈み込む。人間界への旅行計画も一瞬吹っ飛ぶほどの衝撃だった。


 見事に沈没した俺の様子を見かねたのか、コールドンがどこか微笑ましそうに付け加える。


「……でもね、コールポート。落ち込むことはないよ」

「え?」

「ファンクラブとは少し違うかもしれないけれど、人間界には君の作品だけを専門に集めた『コールポート・ミュージアム』があるんだから」

「……えっ、俺専用の博物館!?」

「そうだよ。だから胸を張りなよ」


 さっきまでの沈み込みが嘘のように、体の奥からじわりと熱が広がっていく。ファンクラブはないかもしれないが、自分だけの博物館が存在する――それは間違いなく、俺の歴史と作品が今も人間界で深く愛されている証だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。