テディベアピクニックの続き
四つ目の庭園はコールドン。ギリシャ・ローマ風の大理石彫刻が並び、中央に東屋が鎮座している。
さっき悔しい思いをした俺は、「どこに隠した!? 探すぞー!」と鼻息荒く意気込んだ。コールドンは「お手柔らかに」と苦笑している。
シェリーは彫刻の隙間を念入りに調べ、タスカンはしゃがんで花壇の中を覗き込む。俺は東屋の周りをくまなく探した。
目の前ばかり探している俺たちを見て、ダニエルが「少し離れたところから見てみるか」と一歩引いた。
するとダヴェンポートが「そうだな、この上に登ってみるか」と、ひらりと石造りの柵に飛び乗った。
「あった。東屋の屋根の上だ」
「えっ!?」
見上げても、下の俺たちからは何も見えない。
「見つかっちゃったか。クマに透明な糸をつけて、上に投げ入れたんです」
コールドンが糸をシュッと引っ張ると、見事にクマが手元に落ちてきた。
「お二人が、思ったよりちゃんと探してくれたのが誤算だったな」
「一応、勝負だからな」とダヴェンポート。
五つ目は、ダニエルのローズガーデン。色とりどりのバラが咲き乱れる素晴らしい景色に、タスカンが「わあー、綺麗!」と歓声をあげた。俺たちもすっかりゲームを忘れ、しばしバラの香りと美しさにうっとりと見惚れてしまう。甘くて少し青い香りが幾重にも重なって、頭の芯まで染み込んでくるようだった。
ダニエルは普段からバラを背負っているような華があるけれど、本物のバラの中に佇むと輪をかけて麗しい。
「一年で最もバラの美しい季節だな」
「うう……色と香りでクラクラしそうだぜ」
俺が頭を押さえると、ダニエルは優しく微笑んだ。
「さあ、見つけてごらん」
みんなで探し歩いていると、シェリーが地面の札に目を留めた。
「バラの一つひとつに名札がついていますね。ダニエルさんはロマンティックだから、バラの名前がヒントになっているのかも」
「うん、そうかも! でも、ダニエルさんなら何を選ぶかなあ……」
タスカンが頭を悩ませ、コールドンも「うーん、ゆかりのある王侯貴族の名前かな?」と考える。俺はピンときた。
「恋人の名前かも! 女性の名前を探そうぜ!」
張り切って探していると、俺は白いバラの木の根元にちょこんと置かれたクマを偶然見つけた。
「あったーー!」
名札を見て俺は首をかしげる。
「あれ? 『サマーメモリーズ』……?」
「人の名前じゃなかったんだ?」とコールドン。
ダニエルはニッコリと微笑み、俺たちを見つめた。
「無論、過去に出会った人々も大切だ。だが私はこの庭を歩いていて……今日みなと過ごした時間を、『夏の思い出』という名のバラに重ねたのだよ」
予想もしなかったダニエルの言葉に、俺の喉の奥がじんと熱くなった。下級生たちも、しばらく声を失っていた。
そして最後、残るはダヴェンポートの庭だ。
彼が選んだのは、なんとウィローパターンの絵柄にそっくりな中国風庭園だった。柳が揺れ、池には赤い橋がかかり、建物まで皿の絵そのままだ。
「あ! ウィローの景色! そのまんまじゃん!」俺が驚くと、
「へえー、こんな場所があったんだ」とコールドンも目を丸くする。
「懐かしいですね」とシェリーが目を細め、タスカンも橋を指さした。
「あの橋もありますよ! みんなで渡ってみませんか?」
ダニエルも感心したように頷く。
「なかなか面白い選択じゃないか」
ダヴェンポートは「俺も初めて見た時は驚いた」と呟き、「ストーク・オン・トレントのビダルフガーデンを参考にしたんだろう……物好きだな」とそっけなく付け足した。だが、俺たちが喜んでいるのを見て、どこか満足そうだ。
「さあ、さっさと終わらせて帰るぞ。早く探してくれ」
「よしっ!」と俺は早速池の中を覗き込んだ。
「……池の中には隠してない」とダヴェンポートの呆れ声が聞こえる。
コールドンとダニエルはパゴダ(東屋)へ、タスカンとシェリーは橋を渡って対岸へ向かった。
しかし——探しても探しても、一向に見つからない。
気づけば時間だけが過ぎ、あんなに晴れていた空にはどんよりとした雲が広がり始めていた。
パゴダから出てきたコールドンとダニエルが首を振る。対岸から戻ってきたシェリーとタスカンも「なかったです」と落胆している。俺も頭を抱えた。
「どこにもない! 降参だ!」
するとダヴェンポートは口元にわずかな笑みを浮かべ、隠し場所へと歩き出した。灯篭の前でしゃがみ、中に手を伸ばす——だが、彼の動きが止まった。
「おかしい……なくなっている」
「えっ!?」
「本当にここなのか?」とダニエル。
「間違うわけがない。誰かが持ち去ったのかもしれない」
「でも、俺たちの他に誰も見なかったぞ……?」俺が困惑していると、タスカンが「まだ近くにあるかもしれないです!」と声を張り上げた。
しかし、ダヴェンポートは空を見上げて首を振る。
「いや、もうすぐ雨が降り出す。諦めて戻ろう」
ダヴェンポートが庭を出ようとした、その時だった。
「嫌です、僕は!」
タスカンが目に涙をため、拳を握りしめて叫んだ。
「タスカン……」シェリーが心配そうに寄り添う。
「ダヴェンポートさんのテディベアは……タスカンが一生懸命作ったんです! もう少しだけ探してもいいですか……?」
その言葉に、ダヴェンポートの視線がタスカンの指先に注がれた。そこには、針で傷つけたのか、小さな絆創膏がいくつも貼られていた。
「……ああ」
ダヴェンポートは短く答えた。
みんなで必死に捜索を続けたが、どこにもクマの姿はない。ついにポツリ、ポツリと雨が落ちてきた。それでもタスカンは涙を拭いながら探している。
暗くなった空を見上げ、ダヴェンポートが静かに言った。
「そろそろ本格的に降り出すぞ。ピクニックの場所に戻ろう……タスカン、ありがとな」
しょんぼり肩を落とすタスカンを慰めながら、俺たちは丘へ駆け戻り、急いで後片付けを始めた。俺は遠くを走り回っていた犬たちへ向かって大声で叫ぶ。
「ゴグー! マゴグー! 帰るぞー!」
ダッシュで駆け寄ってきた二匹。そのうちゴグの口元を見て、俺は目を見開いた。
「あっ! お前が持ってたのか!?」
ゴグの口には、しっかりとダヴェンポートのテディベアが咥えられていたのだ。
「あ〜あ、すっかりおもちゃになっちゃってるね」とコールドンが苦笑する。
「全く、これだから犬は嫌なんだ!」
ダヴェンポートは怒りをあらわにしたけれど、タスカンは心から嬉しそうにクマを受け取った。
「でも、見つかって良かったです! ヨダレでびしょびしょだから、洗ってから返しますね。ほつれたところも直さなきゃ!」
無邪気に笑うタスカンを見て、ダヴェンポートは呆れたようにため息をつく。
「大変だな、お前も……」
「良かったね、タスカン」シェリーもクスッと笑う。
「さあ、これで心置きなく帰れるな。私は濡れるのが嫌いだから急がせてもらうぞ」
ダニエルの言葉に背中を押され、俺たちは雨が強くなる前に笑いながら走り出した。




