↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/62

三人のクリスマス

挿絵(By みてみん)

 冬が来た。

 コールポートの地に雪が降る。温かいボトルオーブンを除いて、工場はうっすら雪化粧している。

 クリスマスになると窯は休みに入る。がらんとした部屋に静寂が満ちる中、俺はふと思った。

 隣の窯のあいつ、何してんのかな。

 コーリー先生がいたから、俺はよかった。でもそうじゃなかったら——。


「コーリー先生。トーマスのやつも呼んでみますか?」


 先生は満面の笑みで賛成した。


 しんと静まり返った工場の中で、あいつは窓際に座って頬杖をつきながら、ぱらぱらと落ちてくる粉雪をじっと眺めていた。

 俺が入ってくると反射的に振り返って、怪訝な顔をした。


「何だよ……また来たの?」

「悪いけど、そういうの、今日は無しにしようぜ」

「え?」

「クリスマスだから、休戦ってことで」


 俺はなるべくさらっと言った。


「うちで一緒に過ごさない?」

「……何だよ、急に」

「コーリー先生から声かけて来いって言われたんだけど」

「……コーリーさんがそういうなら」


挿絵(By みてみん)


 照れくさそうに顔を赤くして、少し距離を置いて俺の後についてくる。数分歩いたらもううちの窯に着いた。


「近いよな、本当に」

「うん……」


 出迎えてくれたコーリー先生の顔を見た瞬間、あいつの表情がわずかにほぐれた。

 怒った顔しか見たことなかったけど、笑うとかわいいんだな。


 先生お手製のオーツ麦のケーキとお茶で、三人のパーティーが始まった。俺と先生がくだらない話をして、あいつが笑う。

 ただそれだけの、ささやかな時間。

 パーティーが終わって、あいつが帰り際に玄関で立ち止まった。


「……あのさ」


 振り返らないまま、小さな声で言った。


「また来年も、呼んでくれる?」


 俺は思わず笑った。


「当たり前だろ」


 あいつは振り返らないまま、でも少し肩の力が抜けたのがわかった。

 なんだ。普通にかわいいやつじゃないか。


 それから、俺たちの距離感は少しずつ変わっていった。

 たまに話もした。喧嘩もした。

 クリスマスには、また三人でオーツ麦のケーキを食べた。


 ―――――――――――――――


 1803年、俺の窯が、やらかした。

 銀行業に手を出して、盛大に失敗した。

 普通じゃないってのは、数字を見なくてもわかる。いつだって強気で、「問題ない」の一言で場を収めてきたローズさんの顔が——今日は、磁器みたいに白かった。

 ……これは、まずい。

 コーリー先生はといえば、腕を組んで静観の構えだ。できることは何もない、とでも言いたげな目をしている。そういえば、先生の窯が経営難に陥って俺たちに買収された時も、こんな顔をしてたんだろうか。

 でも——先生の口から「倒産」という単語が出た瞬間、俺の頭の中で何かがガラガラと崩れ落ちた。


「……倒産?」


 声が、震えた。


「なんで。なんで⁈ 俺たち、どうなるんだよ!」

「落ち着かんか。新しい出資者が決まるのを待つしかないのだ」


 先生は静かに、しかし確かな声で続けた。


「……だがな、わしの読みでは——買収されたとしても、工場はそのまま残る。ローズさんも現場監督として雇われるだろう」


 ……そんなもんか。

 上が変わるだけ? 俺たちの日常は、続く?

 そして——先生の言った通りになった。

 トーマスの窯が株を買い占めるかと思ったが、意外にも動かなかった。


 そんなバタバタが続いていたある日。

 聞き覚えのある声が、背後から飛んできた。


「よう。どう?」


 振り向くと、あいつが立っていた。涼しい顔で。


「……何が?」

「倒産した気分」


 にやりと、口の端を上げる。


「俺の勝ちだな」

「なっ——!そんなこと言いに来ただけかよ!!」

「立て直し、大変だろうな」


 あいつは肩をすくめ、踵を返しながら言い捨てた。


「せいぜい頑張れよ」

「お前に言われなくても——やるに決まってんだろ!」


 ニヤッ、と。

 もう一度だけ笑って、あいつは歩き去った。

 ……あれ。

 もしかして。

 心配して、発破かけに来てくれた……?

 ったく。

 素直じゃねーな、ほんと。


 それからしばらくして、トーマスの窯とうちの窯は——粘土の共同仕入れ、運河の利用、いくつか利害が一致するところは協力することになった。

 べつに仲良くなったわけじゃない。ライバルは、ライバルのままだ。

 ローズさんは相変わらず窯を切り盛りしながら、独自のルートでビジネスを広げ、着々と蓄財していた。

 強い人だよ、本当に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。