三人のクリスマス
冬が来た。
コールポートの地に雪が降る。温かいボトルオーブンを除いて、工場はうっすら雪化粧している。
クリスマスになると窯は休みに入る。がらんとした部屋に静寂が満ちる中、俺はふと思った。
隣の窯のあいつ、何してんのかな。
コーリー先生がいたから、俺はよかった。でもそうじゃなかったら——。
「コーリー先生。トーマスのやつも呼んでみますか?」
先生は満面の笑みで賛成した。
しんと静まり返った工場の中で、あいつは窓際に座って頬杖をつきながら、ぱらぱらと落ちてくる粉雪をじっと眺めていた。
俺が入ってくると反射的に振り返って、怪訝な顔をした。
「何だよ……また来たの?」
「悪いけど、そういうの、今日は無しにしようぜ」
「え?」
「クリスマスだから、休戦ってことで」
俺はなるべくさらっと言った。
「うちで一緒に過ごさない?」
「……何だよ、急に」
「コーリー先生から声かけて来いって言われたんだけど」
「……コーリーさんがそういうなら」
照れくさそうに顔を赤くして、少し距離を置いて俺の後についてくる。数分歩いたらもううちの窯に着いた。
「近いよな、本当に」
「うん……」
出迎えてくれたコーリー先生の顔を見た瞬間、あいつの表情がわずかにほぐれた。
怒った顔しか見たことなかったけど、笑うとかわいいんだな。
先生お手製のオーツ麦のケーキとお茶で、三人のパーティーが始まった。俺と先生がくだらない話をして、あいつが笑う。
ただそれだけの、ささやかな時間。
パーティーが終わって、あいつが帰り際に玄関で立ち止まった。
「……あのさ」
振り返らないまま、小さな声で言った。
「また来年も、呼んでくれる?」
俺は思わず笑った。
「当たり前だろ」
あいつは振り返らないまま、でも少し肩の力が抜けたのがわかった。
なんだ。普通にかわいいやつじゃないか。
それから、俺たちの距離感は少しずつ変わっていった。
たまに話もした。喧嘩もした。
クリスマスには、また三人でオーツ麦のケーキを食べた。
―――――――――――――――
1803年、俺の窯が、やらかした。
銀行業に手を出して、盛大に失敗した。
普通じゃないってのは、数字を見なくてもわかる。いつだって強気で、「問題ない」の一言で場を収めてきたローズさんの顔が——今日は、磁器みたいに白かった。
……これは、まずい。
コーリー先生はといえば、腕を組んで静観の構えだ。できることは何もない、とでも言いたげな目をしている。そういえば、先生の窯が経営難に陥って俺たちに買収された時も、こんな顔をしてたんだろうか。
でも——先生の口から「倒産」という単語が出た瞬間、俺の頭の中で何かがガラガラと崩れ落ちた。
「……倒産?」
声が、震えた。
「なんで。なんで⁈ 俺たち、どうなるんだよ!」
「落ち着かんか。新しい出資者が決まるのを待つしかないのだ」
先生は静かに、しかし確かな声で続けた。
「……だがな、わしの読みでは——買収されたとしても、工場はそのまま残る。ローズさんも現場監督として雇われるだろう」
……そんなもんか。
上が変わるだけ? 俺たちの日常は、続く?
そして——先生の言った通りになった。
トーマスの窯が株を買い占めるかと思ったが、意外にも動かなかった。
そんなバタバタが続いていたある日。
聞き覚えのある声が、背後から飛んできた。
「よう。どう?」
振り向くと、あいつが立っていた。涼しい顔で。
「……何が?」
「倒産した気分」
にやりと、口の端を上げる。
「俺の勝ちだな」
「なっ——!そんなこと言いに来ただけかよ!!」
「立て直し、大変だろうな」
あいつは肩をすくめ、踵を返しながら言い捨てた。
「せいぜい頑張れよ」
「お前に言われなくても——やるに決まってんだろ!」
ニヤッ、と。
もう一度だけ笑って、あいつは歩き去った。
……あれ。
もしかして。
心配して、発破かけに来てくれた……?
ったく。
素直じゃねーな、ほんと。
それからしばらくして、トーマスの窯とうちの窯は——粘土の共同仕入れ、運河の利用、いくつか利害が一致するところは協力することになった。
べつに仲良くなったわけじゃない。ライバルは、ライバルのままだ。
ローズさんは相変わらず窯を切り盛りしながら、独自のルートでビジネスを広げ、着々と蓄財していた。
強い人だよ、本当に。




