小さな別れ
昼休み、俺はリッジウェイの部屋に呼び出されていた。
「コールポート、ありがとう。そこに座って」
一人掛けのソファを指し示され、促されるまま腰を下ろす。
小さなテーブルには湯気の立つ紅茶とクッキーが用意されていた。
「委員会で決まってね。食堂に24時間利用できる軽食コーナーを設置することになったんだ」
「本当ですか?やった!」
思わず身を乗り出す俺に、リッジウェイは微笑みながら続けた。
「そこで、君にメニュー案を考えてほしいんだ」
「はい!まずカツサンドに、フィッシュアンドチップス、ステーキ&キドニーパイ、それから……」
指を折りながら勢いよく挙げると、リッジウェイが思わず吹き出した。
「それって……軽食?」
「あ、ハムサンドも美味しかったです!その節はありがとうございました」
「そっか、そんなこともあったね」
懐かしむように目を細めたリッジウェイが、ふと思い出したように尋ねてくる。
「君、この学園に来て今日で何日目だっけ?」
「四日目です」
「え!まだ四日目だったんだ?」
「はい。一日目にボヤを出して、二日目にエレベーターの故障で地下に行って、三日目に動物の事件があって……それで今日です」
「こんな短期間でこれほど色々なことが起きる生徒、今までいたかなぁ……」
リッジウェイは参ったというように苦笑した。
「入学早々、大変だったね。雑用係の仕事の方はどう?」
「新聞制作のお手伝いは、残りは動物事件の記事を書くことになりました。あ、そうだ、びっくりしたんですけど、森の中での俺たちの写真が撮られていたんです。一体何人記者がいるんだろうって思っちゃいましたよ」
「あはは、そうだったんだ。……そうそう、俺からも君に報告があるんだ。友達ができないって手紙をくれていた子だけどね。『もう友達ができたから大丈夫』って連絡があったよ」
「そうなんですか?それはよかったですね!」
——その子って、コールドンのことだったのかな。だとしたら、その『友達』って、俺のことなんだろうか。
そう思った途端、頬がじわりと熱を持つのを感じた。
リッジウェイの表情が、ふっと引き締まる。
「実はね、俺、研修でしばらく学園を離れることになりそうなんだ。だからその間、弟のことをお願いできるかな」
「そうなんですか……寂しくなりますね。でも、任せてください!……と言いたいところですけど、今は俺の方がお世話されっぱなしですけどね」
「ふふ、よろしく頼むよ。俺が不在の間、委員長の後任にはダヴェンポートかダニエルがつくと思う」
「わかりました」
そう答えながら——寮の雰囲気ががらりと変わりそうだな、と胸の奥で予感していた。
「あ、……ひとつ聞いてもいいですか?」
「うん、何かな?」
紅茶を一口含んだリッジウェイが、優しく首をかしげる。
「ダニエルさんのところで話が出たんですけど、品評会で優勝したナントガルって、どんな作品を提出したんですか?」
「……ナントガルはね、繊細な薔薇の絵付けと、まるで雪のように柔らかく美しい白磁が得意な窯だったんだ。だから誰もが、今回もその至高の伝統技法で挑んでくると思っていた」
そこまで言って、リッジウェイはカップをソーサーに静かに戻した。
「でも、彼は違った。今までの自分のスタイルとは全く違う、時代の先を行くモダンなデザインで勝負してきたんだ」
「え……?」
思いがけない言葉に、俺は思わず息をのむ。
「僕たちは、受け継がれてきた伝統を守り磨くだけじゃだめなんだ。時代に合わせて、新しい挑戦を続けていかなければならない……世界には、まだまだ学ぶべきことがたくさんあるよ」
どこか遠くを見つめるようなリッジウェイの瞳に、静かな情熱が宿っているのが見えた。俺は深く、頷いた。
「たまに様子を見に帰ってくるからね。その時は……ぜひ、ここでまた一緒にお茶をしよう」
「はい! 楽しみに待ってます」




