新聞
「これに目を通してくれないか?今週号の原稿だ」
ダニエルが紙の束をテーブルに置いた。
一番上の紙を手に取って、俺は目を丸くした。
「俺の写真!?」
一面のトップを飾っていたのは『コールポート、学園に入学』という大きな見出しと、俺がビーフシチューを前にスプーンをくわえている顔のアップだった。
「い、いつの間に撮られてたんだ……?」
「気付かれることはまずないさ。うちの記者たちは優秀でね」
原稿に目を走らせると、火事の直後の写真や、昨夜ようやく復旧したエレベーターから降りた時の写真まである。
「……まさか、自分の記事を作る羽目になるとは思いませんでした」
「話題に事欠かないとはこのことだな」
ダニエルはふっと笑った。
「まあ、新聞を作る側としては助かるがね」
「……はは」
原稿を読み進めていくと、ひとつの記事に目が留まった。
「定期テストランキング……」
トップはダヴェンポートか。次いでリッジウェイ、コールドン、ダニエル、シェリー。知っている顔が上位を占めている。
「これ、全員分の順位が載るんですか?」
「いや、10位までだな」
「……なんだ」
ほっと胸をなでおろした俺に、ダニエルが悪戯っぽく目を細めた。
「そうか。では趣向を変えて、『ワースト10ランキング』も載せたら盛り上がるかな?」
「冗談ですよね!?」
「ははは。そこからの怒涛の追い上げで話題を攫えるかもしれないぞ?」
「勘弁してくださいよ」
苦笑しながら頭を掻き、次の紙に手を伸ばす。
そこに書かれていた文字に、目が吸い寄せられた。
──ダヴェンポートの復刻版、バーレイより再販決定。
「え、復刻版!?」
「前回が好評だったようでね。今回は色違いが出るそうだ」
「すっげえ……」
感嘆しながら次の紙へ手を伸ばしかけて、途中で止まった。
「でも、どうやって?」
「大量のポイントを使用したからな」
「えっ?」
「ポイントを使うと、人間の世界で何かが起こる仕組みになっている。専門書に載ったり、アンティーク番組で取り上げられたり──そういう具合にね」
俺は頭を抱えた。
「うっわー……! 売店でノートとか買うためのものだと思ってた!」
「おや、カフェテリアでおやつを買うのにも使えるがね」
クックっと喉を鳴らして笑うダニエルを前に、俺は天を仰いだ。
「……詰んだ」
「だが、一発逆転の手はある。──品評会だ」
「何ですか、それ」
身を乗り出す。
ダニエルは紙の束をパラパラとめくり、一枚のプリントを取り出した。
「ここで認められることこそが、我々が復活するための一番の近道だ」
「品評会……優雅な響きですね」
「お上品な名前がついているがね。その実質は容赦のない優劣の競い合い、泥臭いコンテストさ。皆、目の色を変えて挑んでくる」
ダニエルは少し声を落とし、真剣な眼差しをこちらに向けた。
「この学園にある全ての授業は、最高の一作を作るためにあると言ってもいい。皆、この日のために渾身の新作を出すのだが……残念ながら、今回も特賞は『該当なし』だった」
「え……」
見れば、特賞の欄は空白だった。その下の賞には見知った名前が並び、莫大なポイントが記されている。優秀な生徒たちでも、特賞には届かない。
「厳しいんですね……」
「ああ、非常にね」
「今まで、特賞を取った人っているんですか?」
「いたさ。──ナントガルだ」
「ナントガル?」
「かつてウェールズ地方にあった名窯だ。一度は表舞台から姿を消したが、地元の熱い支援で奇跡の復活を遂げた。今は復刻版だけでなく、意欲的な新作も作り続けている」
一度消えた窯が、再び光の下へ戻ってくる。
その事実を聞いただけで、胸の奥に何かが灯る感覚があった。俺たちだって、そうなれるはずだ──そんな予感と、本当にそうなれるのかという不安が、同時にちりちりとくすぶっている。
「……俺たちが目指す姿、そのものですね」
「そうだな。そのために我々はここで学び、創作を続けなければならない……あ、そうだ」
ダニエルが何かを思いついたように、すっとペンを取った。
「今週の標語を何にしようか考えていたんだが、ちょうど良い言葉を思い出したよ」
さらさらと、流麗な文字が紙の上を走っていく。
『狂気のごとく創造せよ。たゆみなく創造せよ。この場所で、この瞬間に、人間の作品の最高にして完全なるものを作りださねばならない』
ダニエルは満足そうに微笑んでペンを置いた。
「カレル・チャペックの『イギリス便り』からの引用だ」
胸に突き刺さるような言葉だった。俺の口からは「かっけえ……」という幼稚な感嘆しか出てこなかったが、ダニエルはそれを笑わなかった。




