ダニエル
気がつくと、俺は活気溢れる店の中に立っていた。
美しい陶磁器の陳列棚が壁際にずらりと並び、客たちが商品を熱心に見定めている。店員たちが忙しそうに立ち回る中、見覚えのある顔がふたつあった。まだどこか幼さの残る少年姿の、リッジウェイと——俺だ。
過去の俺は、陳列されたダニエルの作品を前に、目を丸くして口をポカンと開けている。隣に立つリッジウェイは、眉間に皺を寄せて困惑しているようだった。
「すっげ〜……! なんでこの窯、できたばかりなのにこんな凄いもの作れんのかな!? デザインはユニークだし、使っている色の数も多いし、技術的にはもう最高レベルじゃん!」
過去の俺が思わずといった様子で声を上げる。すると、隣のリッジウェイがハッと振り返った。
「君も精霊だね。そんなことも知らないの? ここの経営者のヘンリー・ダニエル氏は、長年あの『スポード』の右腕として、王室御用達のブランドを支えてきた人なんだ」
「あ、なるほど! 教えてくれてありがとう」
「え、と、俺はリッジウェイだけど……君はどこの窯から?」
「ジョン・ローズ。俺んとこ、ここから遠いんだ」
「知ってるよ。有名だからね。でも……俺たちにとって、厳しい戦いになりそうだよ」
リッジウェイは台の上の商品に視線を落とした。
過去の俺は相変わらず感心してキョロキョロと商品を眺めまわしている。と、店の奥からさらにもうひとりの精霊が現れた。今より少し幼い、少年姿のダニエルだ。
「ふーん、偵察かな?」
不意を突かれ、過去の俺とリッジウェイは言葉を失う。
「まあ、好きに見ていってくれ。真似したければ真似てみても、こちらは一向に構わないよ」
ダニエルは自信に満ちた、不敵な笑みを浮かべた。
すると、過去の俺がなぜか一歩前に踏み出した。
「じゃあ、遠慮なく、真似させてもらうよ! ……んで、そのうち絶対に追い越すから!」
ダニエルは一瞬目を見張り、それから「ははっ」と愉快そうに笑い声を上げた。
「生意気で面白い奴だ」
リッジウェイは横で「なんて不遜なことを……!」とあわあわと慌てている。
「では、せっかくだから、いいものを見せてあげよう」
ダニエルは楽しげに目を細めると、両手で何かをそっと支えるような仕草をした。その掌から、まばゆい光とともに一枚の皿が現れる。
鮮やかな黄緑の地に、立体的に盛り上がった贅沢な金の植物模様。そして真ん中には、気品ある貴族の紋章。
「『シュルーズベリー・サービス』。シュルーズベリー伯爵からオーダーを受けた、この国で最も豪華なシリーズだ」
——その美しさに目を奪われた瞬間、胸の奥がギュッと掴まれるような感覚がした。
過去の俺の顔を見てわかった。ああ、やっぱり俺だ。
視界が再び白く染まった。
*
気がつくと、賑やかな店は消え、静かなダニエルの部屋に戻っていた。
「……何か、わかったかな?」
大人びた風貌のダニエルが、当時の少年のような、いたずらっぽい笑みを浮かべてこちらを見ている。
「……俺、めちゃくちゃ生意気でしたね」
思わず頭を抱えると、ダニエルがふっと吹き出した。
「実際、俺、そのあと本当に模倣品作ったんですね?」
「ああ。お前だけでなく、他の窯も真似していた。だが、いずれも本物のクオリティには及ばなかったな」
「ですよね。やっぱり、コピーはコピーだ……」
「模造品の中では、お前のが一番良くできていたがな」
「はは……」
落胆する俺に、ダニエルは柔らかな声をかけた。
「だが、『模倣は最大の敬意』と言うだろう? お前は私の窯が無くなって半世紀たった後も、コピーを作っていた。随分と長い間、愛してくれたものだ」
その言葉に、俺は少し照れくさくなりながら、キャビネットの食器へ目を向けた。
「……だって、本当に、悔しいくらい素敵じゃないですか」
ダニエルは嬉しそうに、ふっと今日いちばんの温かい笑みを浮かべた。
「さあ、おしゃべりはこれくらいにしておこう。約束通り、新聞の編集作業を始めようか」
「はい」と答えながら、俺はもう一度だけキャビネットの中の薔薇のカップに目をやった。——悔しいくらい素敵だと、今も思う。そしておそらく、あの頃の俺も、まったく同じことを思っていたのだろう。




