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実力S級の俺、配信切り忘れで「虚無顔でボスを瞬殺する姿」が全国放送されてた件。今さら「ただの荷物持ち」とは言えない 〜定時で帰りたいので、追放してくれてありがとう〜  作者: U3
第1章:追放・バズり・ざまぁ編

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4/14

第4話 お祭り騒ぎ

 深夜2時。


 本来であれば、多くの人々が寝静まっているはずの時間帯だ。


 しかし今夜、日本のインターネット、特に探索者関連のコミュニティは、かつてないほどの熱気に包まれていた。




 震源地は、動画共有サイト『D-Tube』にアップロードされた一本のアーカイブ映像。


 タイトルは、『【放送事故】閃光の剣カイトの配信に映った謎のおっさん、ボスを瞬殺してしまう』。




 巨大匿名掲示板『ダンジョンちゃんねる』では、この話題に関するスレッドが秒速で消費され、新たなスレッドが乱立するという異常事態に陥っていた。




★★★★★★★★★★★




【D-Tube】探索者総合スレ 1845層目【放送事故】




 1: 名無しの探索者


 例の動画見たか?


 あれマジなら今世紀最大の発見じゃね?




 2: 名無しの探索者


 見た。


 とりあえず俺の常識が崩壊したわ。


 ミノタウロス・ジェネラルって、A級昇格試験の門番だぞ?


 それをあんな……散歩ついでみたいに……。




 3: 名無しの探索者


 >>2


 しかも装備が酷い。


 ホームセンターで売ってそうな作業着に、武器は錆びたナイフ一本。


 舐めプにも程があるだろwww




 4: 名無しの探索者


 お前ら落ち着け。


 あれは絶対フェイクだって。


 カイトのチャンネルだぞ? 登録者2000人の底辺が、売名のためにやった合成動画に決まってる。




 5: 名無しの探索者


 >>4


 合成にしてはクオリティ高すぎないか?


 ボスの血飛沫の演算とか、崩れ落ちる時の質量感とか、ハリウッド映画レベルだぞ。


 カイトごときにそんな技術あるわけない。




 6: 名無しの探索者


 特定班まだー?


 おっさんの正体割れた?




 7: 名無しの特定班


 今やってるけど、データがない。


 胸につけてるバッジは間違いなく「F級」のもの。


 顔認証もかけたが、該当する上位ランカーはゼロ。


 マジで「無名のF級おじさん」としか言いようがない。




 8: 名無しの探索者


 F級www嘘だろwww


 F級って荷物持ちとか雑用係だぞ?


 あんな動きできるわけねえじゃん。




 9: 名無しの探索者


 動画の12:45あたり見てみろ。


 ボスが斧振り下ろした瞬間、おっさんあくびしてるぞ。


 「ふあぁ」って。


 完全にボスを舐め腐ってる。




 10: 名無しの探索者


 >>9


 その直後の動きがヤバい。


 0.25倍速で見ても何してるか見えん。


 すれ違ったと思ったらボスがバラバラになってる。


 これ「斬撃」じゃないよな? 「解体」だよな?




 11: 名無しの探索者


 おっさん「悪いけど残業はお断りだ」


 ↑これ流行らせようぜ




 12: 名無しの探索者


 >>11


 言ってることは社畜なのに、やってることが英雄で草。




 13: 名無しの探索者


 でもさ、冷静に考えてみ?


 あんな実力者が今まで無名なわけないじゃん。


 協会は何してんの?




 14: 名無しの探索者


 >>13


 協会が無能なのはいつものこと。


 もしくは、何らかの理由で隠蔽されてたか……。


 国の秘密兵器説、あると思います。




 15: 名無しの探索者


 秘密兵器がヨレヨレのシャツ着て半額弁当の話してるわけないだろwww




★★★★★★★★★★★




 ネット上の議論は平行線をたどっていた。


 「本物派」と「CG派」。


 特に、既存のトップランカーたちのファンからは、「ぽっと出のおっさんが最強なわけがない」「俺の推しの努力を否定された気分だ」というアンチコメントも多数投稿されていた。




 そんな混沌とした状況を一変させる出来事が起きたのは、午前3時のことだった。




 D-Tubeの通知が一斉に鳴り響く。


 日本で最も有名と言っても過言ではない、あのトップ探索者が緊急生配信を開始したのだ。




『【緊急】今の騒動について、プロの視点から解説します』


 配信者:Suzu's Edge




★★★★★★★★★★★




「……こんばんは。高橋すずです」




 画面に映し出されたのは、息を呑むほど美しい金髪の美女だった。


 高橋すず。23歳。


 A級探索者にして、現役のファッションモデル。


 「氷剣の女帝」の異名を持つ彼女は、その美貌と、一切の妥協を許さないストイックなプレイスタイルで、男女問わず絶大な人気を誇っている。




 普段は無言での攻略配信がメインの彼女が、深夜に、しかも「解説枠」を取ることなど前代未聞だった。


 同接数は開始1分で10万人を突破した。




「こんな時間に枠を取ったのは他でもありません。今、ネットで話題になっている『ある動画』について、あまりにも的外れな議論が多かったからです」




 すずは不機嫌そうに眉をひそめ、タブレットを操作する。


 画面上に、例の「パジャマおじさん」の動画がワイプで表示された。




「単刀直入に言います。この映像は本物です。CGでも合成でもありません」




 彼女の断言に、コメント欄が爆発的な速度で流れる。




 『すず様が認めた!?』


 『マジかよ』


 『いやいや、プロでも騙されてるんじゃね?』




「騙される? ……私を誰だと思ってるの?」




 すずは冷ややかな視線をカメラに向けた。その迫力に、アンチコメントが一瞬で止まる。




「この動画の、特に12分48秒からの1秒間。ここを見てください」




 すずが動画をコマ送りにする。


 ボスが斧を振り下ろし、おっさんがそれを回避し、すれ違う瞬間。




「ここで彼は、ただ避けているわけではありません。最小限の重心移動……わずか数センチ体を沈めることで、斧の風圧すら利用して加速しています。これは教科書通りの回避に見えますが、実際には極限まで研ぎ澄まされた体幹がなければ不可能です」




 すずの声に、いつになく熱がこもり始める。




「そして、ここ。すれ違いざまの攻撃。皆さんには『一回斬っただけ』に見えるでしょう? でも違います」




 彼女は画像をさらに拡大し、スロー再生する。


 画質が荒くて判別しにくいが、悠作の腕がブレて見えた。




「肘、手首、指先。それぞれの関節を独立して駆動させることで、彼はこの0.1秒の間に、少なくとも15回以上の斬撃を繰り出しています。しかも、ただ闇雲に斬っているわけじゃない」




 すずは興奮気味に画面を指差した。




「頚動脈、大腿動脈、腱の接合部、魔力供給路……。生物として『切られたら終わる』急所だけを、針の穴を通すような精密さで切断しているんです。だからボスは痛みを感じる暇もなく、自分が死んだことすら気づかずに崩れ落ちた」




 彼女の瞳がキラキラと輝いている。


 普段のクールな「氷剣の女帝」の姿はない。そこにいるのは、推しの尊さを語るただのオタク……いや、純粋に高い技術に憧れる一人の武道家だった。




「これを『CGだ』『インチキだ』と言う人は、探索者を辞めた方がいいです。自分の目が節穴だと宣伝しているようなものですから」




 バッサリと切り捨てる。


 気持ちいいほどの毒舌だ。




「この方は、力の使い方が洗練されています。無駄な力みが一切ない。まるで呼吸をするように、日常の動作の延長で『死』を扱っている……。美しいとさえ思います」




 うっとりとした表情で画面の中のおっさんを見つめるすず。


 コメント欄の空気が変わった。




『すず様がここまで言うならマジなのか……』


『てか、すずちゃん顔赤くない?』


『こんな早口なすず様初めて見た』


『まさかのガチ恋?』


『相手はおっさんだぞ!?』


『でも確かにおっさん、よく見るとイケオジかも』




「あ……」




 コメントを見て、我に返るすず。


 自分が熱くなりすぎていたことに気づき、咳払いをして表情を引き締める。




「コホン。……とにかく、私はこの動画が本物であると断言します。そして、彼のような実力者がF級に甘んじている現状……協会は何をしているのか、問い詰めたいくらいです」




 彼女は最後に、カメラを射抜くような視線でこう告げた。




「もし彼を見つけたら、私に連絡をください。……いえ、ストーカーとかではありません。ただ、一度お手合わせを……技術の教えを請いたいだけですので。絶対に、変な意味ではありませんから」




 早口で言い訳をして、配信は唐突に終了した。




★★★★★★★★★★★




 この「高橋すず擁護配信」の効果は絶大だった。


 トップランカーのお墨付きを得たことで、「パジャマおじさん最強説」は確固たるものとなり、ネット上の流れは「疑惑」から「崇拝」、そして「特定」へと完全にシフトしたのである。




【D-Tube】探索者総合スレ 1846層目【すず様公認】




 1: 名無しの探索者


 すず様があんなにデレるなんて……。


 あのおっさん、何者だよ。




 2: 名無しの探索者


 技術解説がガチすぎた。


 0.1秒で15回斬るとか人間じゃねえ。




 3: 名無しの探索者


 でもさ、あのおっさん、魔石だけ取って素材捨ててたよな?


 数百万捨てて「残業お断り」って帰る神経、すごくね?




 4: 名無しの探索者


 >>3


 そこが痺れるんだよ!


 金にも名誉にも興味ない、「ただ静かに暮らしたい最強の男」。


 これぞ男のロマンだろ。




 5: 名無しの特定班


 おい、お前ら朗報だ。


 動画の最後、おっさんが入っていった通路の先に何があるか知ってるか?




 6: 名無しの探索者


 どこ?




 7: 名無しの特定班


 20階層へのショートカットだ。


 あそこを通るってことは、地上の正規ゲートじゃなくて、20階層奥地の「裏ゲート」を使うつもりだったんだよ。




 8: 名無しの探索者


 裏ゲートって、S級ライセンス持ってないと使えないやつじゃん。


 やっぱりS級なのか?




 9: 名無しの特定班


 いや、F級バッジをつけてた。


 つまり……「無許可で裏ゲートを使えるほどダンジョンに精通している」かつ「監視システムをすり抜ける隠密スキルを持っている」ってことだ。




 10: 名無しの探索者


 ヤバすぎワロタ。


 これ、協会が血眼になって探す案件じゃん。




★★★★★★★★★★★




 翌朝。午前7時。


 木造アパート『ひまわり荘』の一室。




 小鳥のさえずりと共に、俺――鈴木悠作は目を覚ました。


 昨晩は角煮とビールで深酒をしてしまったが、目覚めは悪くない。


 古傷の腰痛も、今日は比較的マシだ。




「ふわぁ……よく寝た」




 布団から這い出し、伸びをする。


 カーテンを開けると、今日も日本晴れ。平和な一日の始まりだ。




 俺はキッチンへ向かい、コーヒーを淹れるためのお湯を沸かす。


 その間に、昨晩電源を切っておいたスマホを起動した。


 みのりからの着信攻撃が止まっているといいのだが。




 画面が点灯し、ロックを解除する。


 その瞬間。




 ブブブブブブブブブブブブブブブブッ!!!!!




 スマホが狂ったように振動し始めた。


 着信通知ではない。


 SNSの通知、メッセージアプリの通知、そしてニュースアプリの速報通知。


 それらが画面を埋め尽くし、処理落ちでフリーズするほどの勢いで溢れ出してくる。




『特定班が動いています! 逃げてください!』


『動画見ました! 弟子にしてください!』


『取材申し込みのお願い』


『【速報】パジャマの英雄、正体判明か?』


『みのり:バカ悠作!! 早く電話出なさい!! 家に行くわよ!!』




「……あ?」




 俺は寝ぼけた頭で、フリーズしたスマホを呆然と見つめた。


 何が起きている?


 俺は昨日、ダンジョンから帰ってきて、飯を食って寝ただけだ。


 何か法に触れるようなことをした覚えはない……いや、魔石をポケットに入れて持ち帰ったのは軽犯罪法違反かもしれないが、ここまで騒がれることか?




「……まさか、カイトの奴らが何か吹き込んだのか?」




 そう思った瞬間、玄関のチャイムが激しく連打された。




 ピンポンピンポンピンポン!!


 ドンドンドン!




「鈴木ーっ! いるんでしょ! 開けなさい!」




 ドアの向こうから聞こえてくるのは、聞き慣れた、しかし普段より1オクターブ高い、みのりの切羽詰まった叫び声だった。




「……なんだよ、朝から」




 俺はため息をつきながら、コーヒーカップを置いた。


 どうやら、今日の平和な休日は、開始5分で終了してしまったらしい。




 俺がドアノブに手をかけたその時。


 俺の平穏な日常は、完全に、そして不可逆的に崩壊しようとしていた。

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