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第9話:ナンバーズ4の発表予告、神のスマホでの逆引き検索

第1章:【覚醒編】平成元の6歳児、神の玩具を起動する


第9話:ナンバーズ4の発表予告、神のスマホでの逆引き検索(1993年秋・10歳・小5)


一九九三年の秋、宮崎の心地よい夜風が、鈴木家の古い平屋の木製サッシをガタガタと静かに揺らしながら通り抜けていた。

世間は、この年に開幕したJリーグの熱狂と狂乱にすっかり目を奪われ、誰もが緑のピッチと真新しいユニフォームに歓声を上げていた。

テレビのニュースは連日、未曾有の冷夏による米不足とタイ米の緊急輸入を大騒ぎで報じている。

しかし、そんなお祭り騒ぎの裏側で、平成不況の冷たい毒素は地方の末端にいるサラリーマンの家庭へ、確実に、そして音もなく浸透しつつあった。

小学校五年制へと進級した鈴木雄大の肉体最適化プログラムは、この秋、日課のノルマとして「毎日五十回」の領域へ完全に到達していた。

自室の薄暗い畳の上で、雄大は寸分のブレもない完璧なスポーツ科学フォームのプッシュアップを刻んでいく。

十歳になった少年の骨格は、関節を一切痛めることなく、衣服の内側に硬質でしなやかなインナーマッスルを確実に編み上げつつあった。

前世の四十二年という歳月を生き抜いた精神力が、十歳の未成熟な肉体が上げる悲鳴を冷徹に無視させ、五十回の上下運動を完璧に完遂させる。

汗が一滴、古い畳の網目に吸い込まれて消えた。

雄大は深く静かに呼吸を整えると、学習机の引き出しの最も深い場所、二重底にした段ボールの隙間を開いた。

そこから取り出したのは、一九九三年の現世には一ミクロンも存在し得ない、完全に滑らかなガラスの質感を持つ極薄の黒い結晶体だ。

二〇二六年の5G回線を時空超越して受信し続ける、完全閲覧専用の神のスマホ。

液晶画面に触れると、遅延など皆無の超高速で天界のデータベースが起動し、淡い冷徹な光が雄大の引き締まった顔線を青白く浮かび上がらせた。

(もうすぐだな。お父さんの会社の冬のボーナスがどうなるか、わざわざ支給明細を見るまでもない。実家の家計がこのままじわじわと冷え込んでいくのを、ただの子供のフリをして指をくわえて見て見ぬ振りをするつもりは毛頭ない。俺を無条件で愛してくれるお父さんとお母さんを、前世のような生き地獄には絶対に落とさない。俺がこの手で、我が家の未来に絶対的な富の防壁を築いてやる。これは、そのための最初の仕掛けだ)

雄大はスマホの未来データベースの検索窓へアクセスし、翌年の一九九四年十月に日本国内で初めて発売されることになる「ナンバーズ4」の歴史ログを逆引きで検索した。

画面がわずかに明滅し、一九九四年十月の記念すべき「第1回抽選」の正確な開催日付と、一文字の狂いもない四桁の当選番号が液晶に映し出される。

世間の大人たちが夢を買い、一攫千金を夢見て確率の波に一喜一憂するはるか前。

まだ企画の段階であり、この世に影も形も存在していない宝くじの「正解」が、いま十歳の雄大の網膜に完全に、そして残酷なほどの確実さで焼き付けられていた。

(この四桁の数字が、俺たちのすべての始まりとなる最初の軍資金だ。だが、ただの小学五年制のガキが突然この数字を言い当てれば、いくら優しい親とはいえ、異常な事態を察知して激しく困惑する。最悪の場合、俺のこのカモフラージュが瓦解しかねない。大人たちが納得せざるを得ない完璧な言い訳――『この子は天才児だから直感で当ててしまったんだ』というアリバイの伏線を、今のうちに家庭内へ完全に張り巡らせる必要があるな)

雄大は使い古したJIS規格のシャープペンシルを握り、学校の授業で使っている自由帳の最も深いページの隅に、その正解の四桁の数字を硬質な笔致で静かに書き写した。

芯が擦れる微かな摩擦音だけが、静まり返った部屋に響く。

まだ手元にはお小遣いの数百円しかない、地方のただの小学生。

しかしその胸中には、愛する家族を前世の絶望から絶対に救い出すという無上の甘さと、それを実現するためなら現世のすべての確率やシステムすら冷徹に支配してみせるという、底知れない覇王の野心が熾烈に燃え上がっていた。

窓の外では秋の虫たちが静かに鳴き交わし、宮崎の平穏な夜が更けていく。

雄大は自由帳を閉じ、引き出しの奥底へと厳重に仕舞い込むと、暗闇のなかで次なる一手へ向けて、さらに深く、静かに爪を研ぎ澄ませた。

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