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第7話:1991年のバブル崩壊、その瞬間をデータベースで目撃する

第1章:【覚醒編】平成元の6歳児、神の玩具を起動する


第7話:1991年のバブル崩壊、その瞬間をデータベースで目撃する(1991年春・8歳・小3)


一九九一年春、鈴木雄大は小学校三年生へと何事もなく進級を執行した。

日課として骨格の内に積み重ねてきた自重筋トレのノルマは、この春から「毎日三十回」へと静かに引き上げられている。

世間はまだジュリアナ東京の狂乱や、お立ち台で扇子を振る女たちの熱気、そして大都市の街道を我が物顔で滑走する最高級外車の氾濫といった、バブル経済のきらびやかな残り香に盲目的に浮かれていた。

三菱地所がニューヨークのロックフェラーセンターを買収し、日本が世界を買い換えるといった大言壮語が新聞の紙面を飾る。

銀行は無担保で億単位の融資を乱発し、大人たちは誰もが永遠の右肩上がりの繁栄を信じて疑わず、街には締まりのない欲望の笑気ガスが充満している。

だが、夕暮れの西日が差し込む自宅の学習机の前で、雄大は引き出しの奥から取り出した神のスマホのガラス面に、静かに指を滑らせていた。

(踊っていられるのも今のうちだ。実体のない信用だけで膨れ上がったお前たちの虚飾の砂の城は、今この瞬間から音を立てて崩れ落ちる。世界を買うだと? 笑わせるな。数年後には世界中からハゲタカが押し寄せ、お前たちのその有り金を全て毟り取っていく未来を、俺はこの目で視ている)

二〇二六年の5G回線が時空を超えて網膜に映し出すのは、東京証券取引所を襲う歴史的な大暴落のリアルタイムデータだった。

最高値である三万八千九百十五円から半分近くまで垂直落下していく日経平均株価の急降下曲線、そして金融機関の奥底に濁流のように積み上がっていく天文学的な不良債権の山。

前世の四十二年間で、この大崩壊の余波がのちにどれほど日本社会を貧困化させ、地方の生真面目なサラリーマンである自分の家族を生き地獄へと追い込んでいったかを、雄大は骨の髄まで知っている。

リストラ、自己破産、自殺者の急増、そして失われた三十年の始まり。

液晶に表示される冷徹な下落チャートの数字は、有象無象の大人たちにとっては人生の終わりを告げる破滅の宣告だが、雄大にとっては未来の富を市場から根こそぎ強奪するための、完璧な羅針盤に他ならなかった。

(この市場の阿鼻叫喚の裏に、どれだけの売国奴と外国の工作機関が暗躍しているか、すべて神のスマホのログに焼き付いている。お前たちが仕掛けた仕込みの糸を、俺がさらに巨大な資本の罠で引きちぎってやる。家畜の肥育はまだ始まったばかりだ)

「雄大、おやつにイチゴを切ったわよ。一緒に食べましょう」

階下から、母親の恵子の温かく穏やかな声が響き、居間の古い引き戸がわずかに揺れる音がした。

雄大は一瞬の無駄もない動作でスマホの画面を消し、その声を耳にした瞬間、硬質だった目元をふっと和らげた。

(親父、お袋。世界がどれほど不況の泥沼に喘ごうが、この崩壊の波にあの二人を巻き込ませるわけにはいかない。地道に額に汗して働く人間が毟り取られる世界など、俺が力ずくで書き換えてやる。俺が掴む富の防壁で、我が家の平穏だけは絶対無敵に護り抜いてやる。そのためなら、俺は喜んで現世の悪魔にでもなってやるさ)

「うん、今行く」

雄大は八歳の子供らしい声で短く応じ、スマホを机の奥底へ丁寧に隠した。

衣服の下に完璧なスポーツ科学フォームで錬成されたしなやかなインナーマッスルを制服の内に隠し、雄大は静かに部屋のドアを開けた。

祖国を襲う未曾有の崩壊劇を裏で完璧に監視しながら、覇王としての静かなる牙は、昭和の終わりと平成の狭間の暗闇の中で、さらに鋭く研ぎ澄まされていく。

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