第59話:秘密基地ガレージの新設と、国内外名車の一斉爆買い
第6章:【覇王・二輪覚醒編】平成裏面史の浄化と16歳のバイク通学
第59話:秘密基地ガレージの新設と、国内外名車の一斉爆買い(1999年12月・16歳・定時制1年)
十二月の宮崎の夜気は、海からの吹き下ろしを孕んでどこまでも白かった。
しかし、新設されたばかりのガレージの内部は、二十四時間稼働の空調システムによって常に室温二十度、湿度五十パーセントに保たれている。
床一面に敷き詰められた耐油性の特殊磁器タイルが、天井の埋め込み式水銀灯の光を鈍く跳ね返していた。
ここに並ぶものすべてが、俺の隠された資本の結晶だ。
日産の技術者たちが執念で磨き上げた結晶であるスカイラインGT-R、R34。
その新車を三台、ボディカラー別に並べ、さらに海外からは空輸されたばかりの猛獣たちが、窒素充填されたタイヤを静かに床へ据え付けている。
大人たちが汗水垂らして働く社会の裏側で、十六歳の俺はただ机の上で神のスマホをタップし、この空間をキャッシュで買い叩いた。
土地の極秘買収、基礎工事、性能試験用の機材搬入、そして国内外の名車たちの爆買い。
締めて30億円。
アマテラス・グローバルの口座から、何の一切の足跡も残さず、数字が引き算された瞬間だった。
手元に残った資産は、149億9,850万円。
一般の人間が見れば、狂気の沙汰とも言える資産の目減りだろう。
だが、俺の脳内にある未来データベースと、ポケットの中で静かに熱を帯びる神のスマホは、すでに次の秒針の動きを完全に捉えていた。
「これで仕込みは終わった……」
誰もいないガレージに、俺の声が落ちる。
直後、ポケットのスマホが微かに震えた。
画面に滑り込んできたのは、シンガポールの取引サーバーを経由した暗号化通信のログ。
草壁梓。
東京の片隅で、モデムの作動音に囲まれながらキーボードを叩いている13歳の天才少女。
彼女の電脳を俺が逆捕捉し、通信プロトコルを通じてその比類なき才能を組織に組み入れたのが、ほんの数ヶ月前のことだった。
画面の向こうの梓は、未だ見ぬ俺という存在の大きさに困惑しながらも、送られてくる未来のアーキテクチャに忠誠を誓いつつある。
彼女の手によって最適化された自動執行プログラムが、今まさに機能していた。
画面に並ぶ、日米のハイテク銘柄のチャート。
それらは今、狂乱のドットコムバブルの最終局面、垂直暴騰のレッドラインを駆け上がっていた。
売買の注文がミリ秒単位で交錯し、俺が市場に投じた資本が、数倍、数十倍の質量へと膨れ上がっていく。
30億円の引き算など、ただの誤差に過ぎない。
一秒ごとに、世界の富が俺という十六歳の少年の元へ還流してくる。
液晶画面に表示された総資産の数字が、処理速度の限界を試すかのように書き換わっていった。
180億円、250億円……そして、350億円。
ガレージの外では、何も知らない同級生たちが冬休みの夜を浪費しているのだろう。
俺は静かに歩を進め、納車されたばかりのドラッグスター400のクラシックカスタムのシートに軽く触れた。
マシンの金属とオイルの硬質な臭いが、肺の奥を満たす。
この圧倒的な武力と資本の檻のなかで、俺は一人、次なる処刑の標的へと視線を向けた。
(アマテラス・グローバルの総資産:350億円)




