第58話:16歳誕生日即取得と、ドラッグスターのクラシックカスタム
第6章:【覇王・二輪覚醒編】平成裏面史の浄化と16歳のバイク通学
第58話:16歳誕生日即取得と、ドラッグスターのクラシックカスタム(1999年秋・16歳・定時制1年)
一九九九年の十一月二十五日、十六歳の誕生日を迎えたその日に、雄大は二輪免許 of 試驗場にいた。
一発試験の独特な緊張感が漂うコースのなか、一本橋やクランクの課題を淡々とこなし、夕方には交付されたばかりの免許証をポケットに収めていた。
向かったのは、宮崎の郊外にあるカスタムガレージだった。
鉄とオイルの重い臭いが立ち込めるピットの奥に、納車されたばかりの黒いヤマハ・ドラッグスター400が佇んでいた。
あの十歳の夏、国道十号線で目撃した一台のビラーゴ。
二次エアーを吸って立ち往生していたあの鉄の馬の後継として、十六歳の誕生日当日に手に入れると誓ったマシンが、今ここに完全な形で具現化していた。
新車価格を含め、一五十万円の予算を余すことなく投入したカスタムは、重厚な鉄の質感を強調するクラシカルな装いで完璧に仕上がっていた。
純正の野暮ったいパーツはすべて組み替えられ、車体後部を深く覆うディープフェンダーと、ワンオフで制作されたロー&ロングなフィッシュテールマフラーが鈍い光を放っている。
低く構えたスタンスに、大ぶりのサドルシートとワイドなビーチバーハンドルが組み合わされ、量産車特有の軽薄さを完全に消し去っている。
「おい、雄大。本当にこれでいいんだな。十六のガキが乗るにしちゃ、いささか渋すぎるが」
油に汚れた作業着を着た店主が、納品書に目を落としながら呟いた。
「これがいいよ。あの夏に話した通りのセッティングだね」
雄大は応じ、カウンターの上に用意したキャッシュの束を静かに差し出した。
帯の巻かれた百万円と、それに続く五十万円の現生が、無造作に机の上に置かれる。
店主はそれを見て、苦笑交じりに首を振った。
「五年前、十号線でインシュレーターのヒビを言い当てられた時は、どこの神童かと思ったがね。まさか本当に、あの時の絵コンテ通りに現生積んで買いに来るとは思わなかったよ。大した執念だ」
「約束通り、最初の新車はおっちゃんの店で買うと決めていたからね」
「ありがたいねえ。キャブもきっちり同調取っておいた。どこへ出しても恥ずく帳面に出せる名車だよ」
店主はそう言うと、カウンターの奥から真新しい箱を取り出し、無造作に雄大へ差し出した。
「ほら、これは俺からの納車祝いだ」
箱から現れたのは、艶消しの塗装が施されたマットブラックのダックテール半ヘルだった。
無駄な装飾を一切排除した硬質な質感が、仕上がったばかりの漆黒のドラッグスターにこれ以上ないほど馴染んでいる。
「ありがとう、おっちゃん。大切に使うよ」
「おう、しっかり被って帰れよ」
セルボタンを押すと、空冷Vツインエンジンが目を覚まし、乾いた重低音がガレージの床を激しく震わせた。
かつて十歳の夏に耳にしたビラーゴの不等間隔爆発音を、さらに太く、重くした律動が大気を揺らす。
吸気系をセッティングし直したキャブレターからは、ガソリンと火花が混ざり合う独特の匂いが漂う。
クラッチを握り、ローギアに叩き込むと、重厚な金属音とともにガレージの床が鳴った。
定時制の夜間授業に、雄大はこの漆黒のマシンを走らせて通学するようになった。
夜十時を過ぎた狭い駐輪場で、ドラッグスターの放つ圧倒的な存在感は、周囲の不良少年たちの視線を完全に釘付けにしていた。
誰もがその漆黒の鉄塊を羨望と畏怖の目で見つめるが、触れようとする者はいなかった。
雄大は譲り受けたヘルメットをシートに掛け、ライダースのジッパーを下げて内ポケットに手を伸ばした。
途中の自販機で買って忍ばせておいた、温かい缶コーヒーを取り出す。
プルタブを引き抜くと、深い苦味とわずかな酸味が口内に広がる。
十一月の冷え込む夜風を浴びた身体に、胸元で優しく熱を保っていた液体が、ゆっくりと染み渡っていった。
エンジンが冷めていく際に発する、パキパキという特有の金属音が、静まり返った夜の空気の中に溶けていく。
あの夏、マウンテンバイクのペダルを強く踏み込みながら描いた絵コンテは、一分の狂いもなく現実に着地した。
この重厚な鉄の馬こそが、昼間の自由な駆動時間を守り、自らの帝国をさらに広げるための機動力となる。
(アマテラス・グローバルの総資産:139億9,850万円)




