第56話:中学校の正式卒業、そして定時制高校へ
第6章:【覇王・二輪覚醒編】平成裏面史の浄化と16歳のバイク通学
第56話:中学校の正式卒業、そして定時制高校へ(1999年4月・15歳・中学校卒業、定時制1年)
十二月の凍てつく三者面談の光景が、昨日のことのように思い出される。
学年成績の最上段に名前を載せ続ける俺が、志望校調査票の第一志望欄に「定時制高校」と書いて提出したとき、担任の教師は眼鏡をずり上げて言葉を失っていた。
『鈴木、これは何かの書き間違いか。お前の成績なら、県内のどんな進学校だって確実に行けるんだぞ。普通ならみんな上を目指すものだ』
「いえ、書き間違いではありません。夜間の限られた時間で効率よく学び、昼間は自分の将来に向けた準備に充てたいと考えています」
『将来の準備だと? そんなものは全日制の進学校に行ってから考えればいい。お前ほどの頭脳があれば、将来どんなエリート街道だって歩めるというのに……』
隣に座る母親の恵子も、俺のこれまでの行動を完全に信頼し、静かに口を開いてくれた。
「先生、本人がこうして自分で考えて決めた道ですから、私たちは雄大の選択を応援したいと思っています」
教師は何度もため息をつきながら、最後まで惜しそうに書類に判を捺していた。
大人が考えるエリートの枠に収まるつもりなど、毛頭ない。
俺にとって必要なのは、自室の電脳拠点を二十四時間体制で駆動させ、裏のインフラを統括するための「昼間の完全な自由時間」という合法的なインフラだった。
正式に中学校の卒業式を迎えた三月、俺はあの古い特別棟の渡り廊下で、詩織と短い訣別の時間を過ごした。
『鈴木君……本当に、定時制へ行ってしまうのね。みんな、あなたの成績でどうしてって、不思議がっているわ』
全日制の名門女子高へと進学が決まっている詩織は、名家の令嬢としての気高さをほんの少し崩し、潤んだ瞳で俺を見つめていた。
「形だけの校舎に縛られる時間は、俺には必要ないからね。でも、離れていても、君を守るという約束は何も変わらないよ」
『ええ……分かっています。鈴木君がそう言うのなら、きっと何か深い理由があるのでしょうね。私も、あなたにふさわしい女性になれるよう、自分の場所で自分を磨いて待っています』
夕闇に溶けていく彼女の細腰を静かに見送り、俺は中学校という最大のアリバイを完全に修了した。
四月。
暖かな春の陽光が宮崎の街を包み込む中、俺は十五歳になり、定時制高校の門を叩いていた。
新しく新調した自室の机の上で、パソコンの画面を立ち上げる。
夜間だけの短い登校が始まるこれからの日常は、俺にとって完璧な隠れ蓑となり、世界を侵略するための無制限の自由をもたらしてくれていた。
ポケットのPHSが短く震え、東京の黒崎さんからの新学期を祝うログが滑り込んでくる。
誰もが新しい制服に身を包み、全日制の華やかな高校生活に胸を躍らせているこの春。
俺は静かに気配を消して新しい環境へと溶け込み、手に入れた昼間の圧倒的な自由時間を使って、次なる巨大な市場の首根っこを掴むための静かな一歩を踏み出し始めていた。
(アマテラス・グローバルの総資産:150億円)




