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第54話:最初の「日本の至宝」橘詩織との出会い

第5章:【黎明・国崩し編】休み時間トレードと近隣国経済支配の罠


第54話:最初の「日本の至宝」橘詩織との出会い(1998年10月・14歳・中3)


十月に入り、宮崎の空は高く澄み渡り、吹き抜ける風に確かな秋の冷涼さが混ざるようになっていた。

中学三年生の二学期。

周囲の受験モードが日増しに熱を帯びていく中、俺は放課後の喧騒を離れ、図書室からの帰り道に古い特別棟の渡り廊下を歩いていた。

木造の床板には西日が斜めに差し込み、長い影が赤みを帯びた茜色に染まっている。

海の向こうでは、かつてド底値で仕込んでいたK国の経済インフラやトップ財閥の株価が、微弱ながらも確かな初期回復の兆しを見せ始めている。

シンガポールの匿名口座に集積された資本が静かに膨らんでいくのを脳内で計算しながら歩を進めていると、前方から一人の少女が歩いてくるのが見えた。

橘詩織。

宮崎でも指折りの名家として知られる橘家の令嬢であり、隣のクラスの生徒だが、校内でもその高い自尊心と気品に満ちた佇まいで一目を置かれている存在だった。

すれ違いざま、不意に開け放たれた窓から吹き付けた突風が、彼女が腕に抱えていた美術のスケッチブックの自由帳や数枚のプリントをさらっていった。

白い紙が、西日の差し込む廊下へひらひらと派手に散らばっていく。

「あ……」

小さく声を漏らし、困惑したように立ち尽した彼女の前に、俺は自然な動作で屈み込み、散らばった自由帳とプリントをそっと拾い上げた。

手渡す際、ふと彼女の手元を見ると、自由帳の隅に、細いシャープペンの線で幾何学的な模様のような、暗号めいた落書きが残されているのが目に入った。

「これ、落ちたよ。風が強いから、しっかり持っていないとまた飛ばされてしまうね」

俺は穏やかな口調で、拾い集めた紙束を彼女へと差し出した。

詩織は白磁のように透き通るきめ細やかな肌を少し赤らめ、長い睫毛を揺らしながら、俺の手元からそれらを受け取った。

「すみません、ありがとうございます……鈴木君、ですよね」

「うん。違うクラスなのに、よく名前を知っていたね」

「ええ、いつも学年の成績順位表の上位に載っていらっしゃるから、存じ上げていました。鈴木君は、いつもこうして静かな場所にいらっしゃるのね」

普段の凛とした令嬢の仮面の奥から、年相応の少し恥じらうような、柔らかい響きが漏れ出ていた。

「ただ、騒がしいところより落ち着くだけさ。それより、その自由帳の端に書いてある模様、少し面白いね」

「あ……これ、ですか? ただの、気まぐれな落書きです。お恥ずかしいところを見られてしまいましたね」

彼女は胸元でしっかりと自由帳を抱きしめ、どこか深く見つめるような視線をこちらへ残しながら、小さく微笑んだ。

「それじゃあ、また。風に気をつけてね」

「ええ、本当にありがとうございました」

詩織は小さく一礼して、隣のクラスの教室がある方向へと歩き去っていった。

遠ざかっていく彼女の細腰の雅やかなシルエットを見送りながら、俺はポケットのPHSをそっと触った。

誰もが放課後の部活動や受験勉強の日常に追われているこの夕暮れ。

俺が水面下で動かす巨富はさらなる増殖を続け、指示を受けた東京の黒崎さんも電脳の海で戦い続けている。

そしてこの宮崎の古い渡り廊下で、後に俺の帝国のファーストキスを受け取る最初の至宝との運命の歯車が、違うクラスという絶妙な距離感を保ちながら、静かに噛み合い始めていた。

(アマテラス・グローバルの総資産:150億円 ※K国経済の微弱な初期回復による含み益)

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