第51話:教科書問題と、歪んだ歴史の修正
第5章:【黎明・国崩し編】休み時間トレードと近隣国経済支配の罠
第51話:教科書問題と、歪んだ歴史の修正(1998年5月・14歳・中3)
五月の爽やかな風が、中学校の教室の窓からカーテンを大きく揺らして吹き込んでくる。
最高学年である中学三年生に進級した俺は、新しくなった教室の窓際の席で、配られたばかりの歴史教科書を静かにめくっていた。
十四歳。
十一月の誕生日が来れば十五歳になるこの時期、世間では近隣国との間でいわゆる「歴史教科書問題」が再燃し、メディアや言論空間が歪んだ言説で騒がしくなり始めている。
神のスマホが映し出す未来のデータベースには、ここで手を打たなければ、事態がどのように日本の外交カードを狭めていくかが克明に記録されていた。
「おい雄大、次の時間って移動教室だっけ?」
前の席の男子生徒が、教科書を机に放り出しながら気楽な声で振り返ってくる。
「いや、次の時間はそのままこの教室で英語だよ。教科書は机の中にあるかい」
「あ、マジか。サンキュー、助かったわ」
そんな何気ない日常の会話を交わしながら、俺はノートを閉じた。
放課後のチャイムが鳴り響き、にぎやかな喧騒に包まれる教室を離れ、俺は校舎の裏手にある静かな渡り廊下へと移動した。
緑の植え込みの向こうには、すでに初夏の気配を孕んだ青空が広がっている。
ズボンのポケットから灰色のPHSを取り出し、アンテナを伸ばして東京の黒崎さんへとダイヤルを合わせた。
「黒崎さん、お疲れ様です。少し時間は大丈夫かい」
受話器の向こうから、いつもの落ち着いた黒崎さんの声が響く。
『雄大さん、お疲れ様です。ええ、ちょうどデスクにいますよ。何か新しい動きですか』
「ああ、今世間で騒がれている文教関係の件について、水面下で妙な資金の動きを見せている日本の議員や、近隣国のロビイストたちのリストを精査してほしいんだ」
『なるほど、歴史教科書の書き換えを裏で画策している連中ですね。分かりました。シンガポール側のルートも使って、彼らの不透明な資金動線やロビー活動の証拠をこちらで全て集積しておきます』
「頼むよ、黒崎さん。この国の教科書に、事実と異なる歪みを持たせるわけにはいかないからね。今は泳がせるだけ泳がせて、決定的なデータをこちらで握るんだ」
『了解です。彼らも海外の匿名口座を経由すれば足がつかないと踏んでいるようですが、こちらの防衛網からは逃げられません。目立たないよう、完璧にデータを集めておきますね。それにしても、雄大さんは中3になって受験の準備なども大変ではないですか』
「そうだね、周りは少しずつピリピリし始めているよ。でも、自分のやるべきことを淡々と進めるだけさ」
『ふふ、雄大さんなら何の心配もいりませんね。こちらの調査結果もまとまり次第、また報告します』
「ありがとう、黒崎さん。よろしく頼むよ」
ピッとボタンを押して通話を切り、アンテナを静かに縮めてポケットに収めた。
教室の方からは、部活動に向かう同級生たちの元気な掛け声が校庭へと響いていっている。
彼らがグラウンドで汗を流し、目の前の受験や部活に熱中しているこの瞬間。
俺は手にした資本と黒崎さんを動かし、未来の日本を守るための冷徹な情報網を静かに張り巡らせていた。
(アマテラス・グローバルの総資産:140億円)




