第50話:シンガポールのダミー会社始動、サ◯スン・現◯の首根っこを掴む
第5章:【黎明・国崩し編】休み時間トレードと近裏国経済支配の罠
第50話:シンガポールのダミー会社始動、サ◯スン・現◯の首根っこを掴む(1998年1月〜2月・14歳・中2)
一九九八年の幕開けとともに、宮崎の空を冷たい冬の風が吹き抜けていく。
一月。
三学期が始まったばかりの自室で、俺は新年の冷気を含んだ窓ガラスの向こうを見つめながら、手元のPHSを開いた。
海の向こうのK国では、年を越してもなお通貨危機と経済崩壊の混乱が続いており、地場の巨大財閥であるサ◯スンや現◯といったトップ企業も、深刻な外貨不足で完全に身動きが取れなくなっている。
前月までに四十億円の原資を割り振って市場のド底値で買い叩いたそれらの株式の動線を、いよいよ完成させる時が来ていた。
俺は慣れた手つきで東京の黒崎さんへダイヤルを入れる。
「黒崎さん、新年おめでとう。例の株式の移転作業の進捗はどうだい」
受話器の向こうから、新年の活気に満ちた黒崎さんの弾んだ声が返ってくる。
『雄大さん、あけましておめでとうございます。ええ、完璧ですよ。前月までに複数の名義で拾い集めておいたサ◯スンと現◯の優良株式ですが、指定通りすべてシンガポールの匿名ダミー法人へと名義を移転し、集約を完了しました』
「ありがとう。これでこちらの統治基盤が水面下で強固になったね」
『本当に驚きました。現地の経営陣から見れば、単に海外の正体不明な機関投資家から外貨キャッシュの救済( bailout )を受けたようにしか見えません。まさか、そのダミー法人の実質的な所有者が、宮崎にいる十四歳の中学生だとは夢にも思わないでしょうね』
「それでいいんだ。目立つ必要は一切ない。彼らが必死に築き上げてきた先端技術とインフラの議決権を、こちらの支配下で静かに眠らせておこう」
『そうですね。現地の人間は明日の資金繰りすら見えない状態でしたから、今回の外貨注入は救いの神のように見えているはずです。これからの仕込みはどうしますか』
「一分後に、残りの書類手続きもすべて完了させてほしい。彼らが必死に稼いだ利益の一部が、配当や利権としてシンガポールへ還流する仕組みを固定するんだ」
『了解です。すべて、指示通りに執行します。実質的な首根っこを完全に掴んだ形ですね。次の連絡もお待ちしていますね』
「高坂さんにもよろしく伝えておいてほしい。また連絡するよ」
『はい、雄大さんも冷え込みが厳しいですから、お体に気をつけてくださいね』
通話を切り、PHSを机の上に滑らせると、パチパチと小さな音を立てるストーブの暖かさが肌に伝わってきた。
「雄大、お正月の残りのお餅でお汁粉作ったわよ。温かいうちに食べなさいね」
階下から母親の恵子が、エプロンのポケットに手を入れながら、優しく階段の下から呼びかけてくる。
「今いくよ、お母さん。ありがとう」
自室のパソコンの画面を静かに閉じた。
廊下の向こうの窓からは、近所の子どもたちが寒さをもろともせずに、広場で元気に凧揚げをして遊んでいる声が聞こえてくる。
彼らが新しい年の始まりを無邪気に祝い、他愛のない日常を過ごしているこの瞬間。
俺が仕掛けた電脳空間の資本は、シンガポールのダミー会社を完全に始動させ、隣国の巨大産業の心臓部を無傷のままその手の内に収めていた。
(アマテラス・グローバルの総資産:140億円)




