第49話:アジア通貨危機とK国企業の買い叩き
第5章:【黎明・国崩し編】休み時間トレードと近隣国経済支配の罠
第49話:アジア通貨危機とK国企業の買い叩き(1997年12月・14歳・中2)
十二月に入り、宮崎の地にも冷え込みが厳しくなってきた。
先月の十一月二十五日に十四歳の誕生日を迎えた俺は、いつものように朝の筋トレと神のスマホへの礼拝を終え、冬用の厚手の制服に身を包んでいた。
冬の朝の空気は澄んでいて、吐く息が白く染まる。
世界市場では、夏に仕込んでおいたアジア通貨危機の地殻変動が完全に牙を剥いていた。
とりわけ十一月に国際通貨基金(IMF)の管理下に突入したK国の市場は、深刻な外貨不足から地場財閥やインフラ企業の株価が文字通り底なしの暴落を続けている。
俺は自室の暖房を少し強め、パソコンの前に座ってシンガポールの匿名口座から配分する資金の最終確認を行っていた。
画面には、投げ売りされる企業のリストと、前世の記憶から引き出した優良アセットのデータが並んでいる。
机の上の灰色のPHSを手に取り、アンテナを伸ばして東京の黒崎さんへ連絡を入れる。
「黒崎さん、お疲れ様です。K国市場の底値の拾い出しは進んでいるかい」
受話器の向こうから、冷たい冬の空気を感じさせない黒崎さんの熱を帯びた声が返ってきた。
『雄大さん、お疲れ様です。ええ、現地がパニックに陥っている隙を突いて、指定されたインフラ株とトップ財閥の優良株を極秘裏に買い叩いています。通貨ウォンが大暴落しているおかげで、こちらの百四十億円のうち四十億円を割り振るだけで、信じられないほどの議決権が集まっていますよ』
「誰もが見放している今だからこそ、無傷の資本で首根っこを掴むんだ。目立たないように複数のダミー名義で分散して拾い集めてほしい」
『了解です。現地の経営陣は明日の資金繰りすら見えない状態ですから、こちらの外貨キャッシュでの買い支えは喉から手が出るほど欲しい救済のようです。まさかこれほどの規模で一国の中枢を買い叩くことになるとは……』
「彼らが築き上げてきたインフラを、最も効率の良いタイミングでこちらの統治下に入れる。高坂さんとの連携も密にお願いするよ」
『はい。税務面での処理も高坂さんが完璧な動線を敷いてくれています。このまま予定の枠をすべて埋め切りますね』
「ありがとう、黒崎さん。また進捗を教えてほしい」
通話を切り、PHSを優しく机に置いた。
時計の針は夕方の六時を回ろうとしていた。
一階からは、母親の恵子が夕食の準備をする包丁の規則正しい音が聞こえてくる。
トントン、と小気味よい音が響いた後、お出汁の優しい香りが階段を伝って上がってきた。
「雄大、今夜は温かいお鍋だからね。お父さんが帰ってきたらすぐ食べましょう」
「分かった、すぐ降りるよ」
俺はフラットな標準語で階下へ応じ、パソコンの画面をそっと閉じた。
玄関の扉が開き、「ただいま」という健一の低い声が聞こえる。
外では北風が吹き荒れ、現地の人間たちが国家破産という冬の現実に凍えているこの瞬間。
俺の動かした資本は、シンガポールの匿名口座を経由して、冷徹かつ確実に隣国の経済インフラを支配する基盤を固めつつあった。
(アマテラス・グローバルの総資産:140億円 / うち40億円をK国市場の地場財閥や優良インフラ株へ配分)




