第48話:同級生が遊んでいる間の、資産140億円への大跳躍
第5章:【黎明・国崩し編】休み時間トレードと近隣国経済支配の罠
第48話:同級生が遊んでいる間の、資産140億円への大跳躍(1997年8月・13歳・中2夏休み)
八月に入り、宮崎の夏はさらにその熱量を増していた。
じりじりと照りつける太陽がアスファルトを陽炎で揺らし、庭の向こうからは途切れることのないセミの声が響いてくる。
エアコンを適温に保った自室で、俺は冷たい麦茶を喉に流し込みながら、パソコンの画面に並ぶ数字を見つめていた。
海の向こう、ニューヨーク市場で仕込んでいたハイテク銘柄の暴騰は、神のスマホの未来データの通り、狂乱の度合いをさらに強めている。
パチパチとキーボードを叩き、暗号化BBSにアクセスすると、黒崎さんからの詳細な資産報告データが画面に展開された。
俺は机の上のPHSを手に取り、アンテナを静かに伸ばして東京の黒崎さんへダイヤルを合わせた。
「黒崎さん、お疲れ様です。データを確認したよ」
受話器から返ってきたのは、低く震える黒崎さんの声だった。
『雄大さん……驚きました。利確と含み益の合計が、ついに百四十億円の大台に乗りました。一年前には数億円規模だった原資が、わずか数ヶ月のハイテク株の上昇でここまで化けるとは、本当に夢を見ているようです』
「みんながインターネットという言葉に熱狂している結果さ。でも、まだこれはバブルの入り口に過ぎないよ」
『百四十億……これだけの資本があれば、国内でもかなりの動きができますね。次の一手はどうされますか』
「この資金は、秋以降に発生するアジアの大きな地殻変動のために温存しておいてほしいんだ。仕込みのタイミングはまた伝えるから、今はシンガポールの匿名口座で静かに待機させておいてくれ」
『分かりました。雄大さんの指示通り、目立たないよう完璧に管理しておきます。それにしても、宮崎は今、相当暑いのではないですか』
「そうだね。外は陽炎が立つくらいにはじりじりしているよ」
『そうですか。こちらはビルに囲まれてコンクリートの熱気がすごいです。雄大さんも、夏バテには気をつけてくださいね』
「黒崎さんこそ。体に気をつけて、次の仕込みの準備をお願いするよ」
『はい、いつでも動けるように万全にしておきます。また連絡をください』
「ありがとう、黒崎さん。それじゃあ」
ピッとボタンを押して通話を切り、PHSを机の横へと置いた。
ふと窓の外に目を向けると、近所の同級生たちが水着の入ったバッグを手に、自転車のベルを鳴らしながら市民プールの方へと楽しそうに駆けていくのが見えた。
「雄大、今からスイカ切るけど食べる?」
階下から母親の恵子が、冷たい麦茶のポットを持つ手を休めて声をかけてくる。
「ありがとう、お母さん。今いくよ」
昨日誘ってくれたクラスメイトの笑顔が頭をよぎる中、俺は階段を静かに降りていった。
彼らが冷たい水に飛び込み、夏休みの宿題やテレビの話題で無邪気に青春を謳歌しているこの瞬間。
俺が動かした資本は、すでに個人の枠を遥かに超え、東アジアの経済の首根っこを掴むための巨大な波へと姿を変えつつあった。
(アマテラス・グローバルの総資産:140億円)




