第47話:源泉分離課税1.05%というバグの徹底活用
第5章:【黎明・国崩し編】休み時間トレードと近隣国経済支配の罠
第47話:源泉分離課税1.05%というバグの徹底活用(1997年7月・13歳・中2)
一学期の終業式を終え、宮崎の強い夏の陽気があたりを包み込む中、俺は自室の机に向かっていた。
セミの声が遠くで鳴り響き、開け放した窓からは入道雲が見える。
今日から待ちに待った夏休みが始まる。
「雄大、お昼ごはんできたわよ。冷やし中華だけど、食べる?」
階下から母親の恵子の優しい声が響き、俺は一度PC-9821の画面から目を離した。
「今行くよ、お母さん」
俺はフラットな標準語でそう返し、一階のリビングへと降りていった。
食卓には、氷でしっかりと冷やされたガラス皿に、きゅうりや錦糸卵が綺麗に並んだ冷やし中華が置かれている。
無口な父親の健一は、すでに自分の分を黙々と口に運んでいた。
「もう二年生の夏休みか。早いものね。宿題は早めに終わらせるのよ」
恵子が麦茶を淹れながら、微笑みかけてくる。
「うん、計画的にやるよ」
そんな他愛のない会話を交わしながら、俺は冷やし中華を口に運んだ。
前世のあの貧困から完全に解放され、両親が穏やかに暮らしているこの日常の光景こそが、俺の戦う理由そのものだった。
昼食を終えて自室に戻り、部屋のエアコンを静かに効かせ、再びPC-9821の画面に表示された国内外の株価チャートをスクリーニングしていく。
仕込んでいたハイテク銘柄の利益は想定以上の速度で膨らんでいたが、ここで重要になるのが税金という現実的な壁の処理だった。
一九九七年当時の日本の税制には、株式譲渡益に対して驚くべき選択肢が存在している。
源泉分離課税、一.〇五パーセント。
いくら巨額の利益を上げようとも、一律でわずか一パーセント強の税金を引かれるだけで、それ以上の申告も源泉徴収も必要なく完全にクローズできるという、まさに時代が遺した制度のバグだった。
俺は制服のズボンのポケットから灰色のPHSを取り出し、あらかじめ登録しておいた番号へダイヤルした。
「高坂さん、お疲れ様です。少しお時間をいただけますか」
受話器の向こうから、元国税の天才税理士、高坂征十郎さんの落ち着いた声が返ってくる。
『お疲れ様です、雄大さん。ちょうどこちらも、シンガポールを経由した資金移動の書類を整理していたところですよ』
「例の一.〇五パーセントの源泉分離課税の件ですが、今回の利益確定分はすべてこのブラケットに流し込んで処理をお願いできますか」
『ええ、すべて計算通りに動かしています。本来なら個人に重くのしかかる税負担ですが、雄大さんが構築した法理バリアとこの制度を組み合わせることで、一円のロスもなく合法的に利益をプールできます。本当に見事な着眼点ですね』
「高坂さん、ありがとうございます。これで国税からの不必要な干渉を完全に防げますね」
『その通りです。すべて完璧な合法インフラとして処理を完了させますので、安心してください』
「助かります。では、失礼します」
通話を切ると同時に、俺はすぐに黒崎さんへの連絡に切り替えた。
「黒崎さん、高坂さんとの法務連携は終わったよ。第一弾の利益確定を執行してくれ」
『待っていました、雄大さん。すぐにシンガポールの匿名口座を通じて利確のオーダーを流します。これでこちらの資金力はさらに強固なものになりますね』
「ああ、ここからさらに攻勢をかけるための、無傷の軍資金だ」
受話器を置いてPHSを机に転がすと、ISDNのモデムが静かに明滅していた。
誰もがこの夏休みの始まりに心を躍らせ、海や山へと遊びに出かけていくこの季節。
俺は当時の税制が持っていた歪みを完璧に突くことで、自らの帝国の原資を無駄なく、そして圧倒的な規模へと引き上げていた。
(アマテラス・グローバルの総資産:80億円)




