第46話:ITバブルの初動と、関連株の仕込み
第5章:【黎明・国崩し編】休み時間トレードと近隣国経済支配の罠
第46話:ITバブルの初動と、関連株の仕込み(1997年6月・13歳・中2)
宮崎の梅雨の合間の青空から、強い初夏の光が鈴木家の庭先に降り注いでいる。
六月。
衣替えを済ませた白い半袖シャツのまま自室に戻った俺は、静かにPC-9821の電源を入れた。
ピポッ、という特有の電子音とともに画面が立ち上がり、ISDNの回線を通じて東京の黒崎さんからの暗号ログが滑り込んでくる。
画面を見つめる俺の手元には、制服のズボンのポケットから取り出した灰色のPHS端末があった。
父親の健一にプールしてもらっていた資金の一部を使い、中学生らしい連絡手段としてカモフラージュ用に契約したものだ。
公衆電話に並ぶ手間も省け、休み時間の教室の隅からでも、電波さえ拾えば東京へダイレクトに暗号を飛ばせる。
「黒崎さん、調子はどうだい」
アンテナを伸ばし、放課後の校舎の裏手から静かにダイヤルを入れると、すぐに耳元で繋がった。
『雄大さん、いつでもいけます。通信ログも綺麗に捕捉しました。宮崎からのデータ、こちらの端末と完全に同期していますよ』
東京のオフィスにいる黒崎さんの声は、小さな端末のレシーバー越しでも分かるほど興奮で少し上擦っていた。
『それにしても、このタイミングでの指示は本当に驚きました。市場の隙を完璧に突いていますね。どこでこの流れを読んだのですか』
「過去のデータを少し整理すれば、自然と見えてくるものさ。それより、まずは予定通りに進めよう」
『分かりました。雄大さんがそこまで言うのなら、間違いありませんね。こちらの仕込みはどうしますか』
「一分後に、最初のポジションを建ててくれ。最初は小さく動かすだけでいい。市場の反応を静かに見守るんだ」
『了解です。すべて、指示通りに執行します。次の連絡もお待ちしていますね』
ピッとボタンを押して通話を切ると、初夏の風が通り抜けていった。
端末をポケットに収めて教室に戻ると、窓際の席ではクラスメイトたちが少年漫画の最新号を囲んで騒がしく笑い合っている。
「おい雄大、次の時間までに数学のノート見せてくれよ」
後ろの席の奴が、少し申し訳なさそうに声をかけてきた。
「いいよ、机の上に置いておくから持っていきなよ」
俺はそう返し、鞄から使い込まれたノートを取り出して手渡した。
「助かるわ、ありがとな」
周囲の同級生たちが日常の小さな悩みに一喜一憂し、他愛のない時間が流れるこの瞬間。
俺が仕込んだ資本は電脳空間の波に乗って、海の向こうのニューヨーク市場で爆発的な増殖を始めていた。
(アマテラス・グローバルの総資産:25億円)




