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第43話:無傷の資本移転ルートの完成

第4章:【飛翔編】戦後50年のミリオンセラーと合法的税流最適化


第43話:無傷の資本移転ルートの完成(1996年夏・13歳・中2)


宮崎の夜空に浮かぶ月が、パソコンのディスプレイに向かう雄大の輪郭を青白く縁取っていた

画面には、シンガポールのアマテラス・グローバル社を頂点とする、さらに一階層深い国際資本の配置図が暗号化されて表示されている

二億一千万円という個人資産を、ただの預金として国内に留めておくことは、これからの世界強奪において最も悪手となる

雄大が次に神のスマホから引き出したデータは、一九九七年七月の英国返還を目前に控え、英国法と中国資本が複雑に入り乱れる過渡期の香港市場の隙間だった

「――鈴木さん、香港側のダミー法人の手配も、予定通りすべて完了しました」

受話器の向こうから、時差を感じさせない明瞭さで不破の声が響いた

「ありがとうございます、不破先生。これで香港のペーパーカンパニーからシンガポールのアマテラス・グローバルへ、完全に無傷で資金を還流させる導線が整いましたね」

『ええ。高坂が香港のHSBCに用意した法人名義の口座を経由させることで、日本の税務当局からの国際送金に対する追跡を完全に合法の枠内で遮断します。外為法の網の目を潜り抜け、名義を完全にカモフラージュした状態で二億一千万円の資本移転が執行されます』

「完璧な手際です。香港が中国に返還される前のこの一九九六年の夏だからこそ、英連邦系の銀行間の資金移動に対する監視の緩さを最大限に利用できる。現地のHSBCの署名権と管理権の割り当ては、指示通りになっていますか」

『もちろんです。株主や取締役には、現地のエージェントが調達した臨時のノミニーを配し、君の名前は一切書類に載っていません。さらに高坂のアドバイスに従って、送金金額を一度に動かさず、通常の貿易決済を装った少額多頻度の還流グリッドを組みました。これにより、日本の外為法上の事前許可申請の対象から完全に外れます』

「通信の速度と、法的な死角を突く細分化。これこそが国家の網を無効化する鍵です。不破先生、僕たちが手に入れたこのルートは、ただの節税インフラではありません」

不破は受話器の向こうで、感嘆を通り越したような乾いた笑い声を漏らした

『ただの節税ではない、ですか。では、一体これを何と呼ぶべきなのでしょうか』

「来たるべきアジアの地殻変動において、莫大な果実を毟り取るためのパイプラインですよ。一九九六年の今のうちに、この無傷の還流導線を作っておくことで、海外でのいかなる資本駆動も日本政府の干渉を受けずに完全秘匿で行えるようになります」

『マクロ経済の動向、特にタイやインドネシアを中心とするあの不穏な市場の動きを見据えているのですね。すでに高坂は、シンガポール側でのドル建て口座の同期処理を完了させています。明日、二億一千万円の第一陣が日本を立ちますよ。君の資金は世界のどこからも凍結されることのない、真の自由な弾薬となりました』

「ええ、執行してください。高坂先生にも、これからの資金移動のログの暗号化を徹底するよう伝えてください。これで僕たちの最初の防衛要塞は完全に完成です」

『承知しました。これよりすべての国際送金ルートの処理を開始します。手続きが完了し次第、すぐに次のデータを送ります』

「頼みます」

受話器を静かに置くと、室内の熱気の中に、冷めたブラックコーヒーの苦い香りが残されていた

画面の向こうで、日本の外為法をクリアした電子の数字が、神保町から香港へ、そしてシンガポールへと音もなく還流を始めていく

前世の孤独と、飢えるような貧困の記憶

それらすべてを国家の理不尽からも世界の動乱からも完全に切り離し、自らの内に入れた身内を守り抜くための巨大な財務インフラが、ここに完璧な形で完成をみた

雄大は静かに椅子から立ち上がり、窓を開けて宮崎の夏の夜風を肌に受けた

手元に残された二億一千万円の弾薬は、今や世界の金融中枢を繋ぐ無傷のルートを通じて、次なる巨大な市場の強奪に向けて牙を研ぎ澄ましていた

(アマテラス・グローバルの総資産:2億1,000万円)

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